第二話 君を迎えに来た 1
君は、あの約束を覚えているだろうか。
もしかしたら、あの約束だけを覚えているかもしれない。
でも、やっと準備が整った。君を迎えに行く準備が! これから迎えに行くよ。茜。
でも、君は僕のことを覚えていないだろう。
なぜならそれが、君の望みだったから。君は記憶を、消すことを望んだ。
だから僕は記憶を消した。というより、封印したと言った方がいいかもしれない。
僕の名前は、いや今はまだ言わないで言おう。
君が、僕のことを思い出すその日まで。
さあ迎えに行こう! 僕の愛しい人を。
いつも通りの日常が、続いていくものだと彼が来るまではそう思っていた。
でも彼は、私を迎えに来てくれたの。
彼を見た瞬間、そう思った。
なぜだかは、分からないけど……
この人は私を、助けてくれる人だって。
私を、この日常から救い出してくれる人だって、そう心で感じた。
だから、私は彼の方に駆け出して、彼に抱きついた。
抱きつかれた彼は、一瞬驚いたみたいだったけど私を受け入れて、抱き締め返してくれた。
そして私が夢にまで見た言葉を、言った。
「迎えに来たよ。長い間待たせてごめんね。さぁ、僕と一緒に行こう?」
私は迷わずに頷くと、彼は嬉しそうに笑った。
名前を問うと、彼は
これから、新しい日常が始まるってわくわくした。
花伊は、私に新しい携帯電話を与え、今まで使っていたものを壊した。
なぜ壊したのかは分からない。けど、彼と一緒ならどんな困難でも、乗り越えていけるってそう感じた。
でもあの人たちが邪魔をしようと立ちはだかってきた。
あの人たちの声が聞こえる。
「茜を連れていくな! 彼女は私たちにとって大切な存在なんだ。それにもう嫁入りも決まっている。その方が、その子にとって幸せなんだ!」
こんな言葉嘘に、決まってる。私のことを、逃したくないからきっとそう言ってるだけ。
待っているのは地獄の日々。もうこんな所居たくないけど言えない……
言ったって聞いてくれないから。けど、花伊が言い返してくれた。
「勝手なことを言うな! お前達は茜のことをただの道具だと思っていることを俺は知っている。だから俺の世界へ連れていく。そこは隠世と呼ばれる妖たちの世界だ。そこでなら封印されたこのこの記憶も戻るだろう」
封印された記憶? なんの事だろう? もしかしたら私の幼い頃の記憶に関係しているのかもしれない。そして花伊は、振り返り私に選択をさせた。
「茜僕はね、無理強いはしたくないんだ。茜はここに残りたい? それとも僕と一緒に行ってくれる? もしここに残りたいのであればそれを……」
その言葉を遮り私は叫んだ。
「ここには残りたくない! ずっと我慢してた。ここの人達は私のこと大切なんて思ってない! だからあなたと一緒に行きたい! ここにいるのはもう嫌! こんな所もう居たくないよ……」
花伊は、その言葉を聞くとにっこりと笑って
「じゃあ行こうか」
そう言ったそして、指を鳴らした。すると見たことない扉が目の前に現れた。
その扉には、番人的な人がいて、花伊を見ると一言。
「お疲れ様です! そちらのお嬢さんと一緒ですか?」
と尋ね、彼が頷くとその番人的な人が扉を開けた。
すると、そこに広がっていたのは真っ白な空間で彼は私を連れてその空間に入った。
私は、思わず目を瞑り次に目を開けた時には別の世界が広がっていた。
「怖いか?」
そう問いかけられたけど私は静かに首を横に振った。彼は満足そうに微笑んだ。
そして私たちは足を踏み入れた。そこは夜なのか暗くけれど、空には星が輝いていた。
周りを見渡すと、たくさんの店が軒を連ねている。そこにいるのは狐の耳のあるお兄さんや角が生えているお姉さんが楽しげにお店を開いていてここでなら上手くやって行けるかもしれないという希望が少し見えた。
そして花伊に案内されたのはホテルだった。高級そうな外観のホテル。ホテルの下にはガードマン的な人がいて、お客さんの荷物を持ったいた。ガードマンといっても人ではなく妖怪なのだが……その妖怪はたぬきで花伊の姿を見ると頭を下げた。
「オーナー! おかえりなさいませ。その方がオーナーが探し求めていたお嬢さんですか。愛想のない方ですね。少しは笑えばいいものを」
そんなことを言ってきたので花伊が反論する。
「
そう諭すように言うと彼は驚きに目を見張る。
「それは失礼いたしました。よくその中で耐えられましたね。逃げ出せばよかったのに」
「逃げ出せるものなら、逃げ出していました! 逃げ出す度に暗くてじめじめした蔵に閉じ込められていたんです! 何も知らないくせに! 勝手なことを言わないでください!」
私は泣き出してしまった。すると彼は慌てた様子でおろおろしだす。そこに肌が白く色白の女の人が扉を開けて飛び出してきて私を抱きしめた。
「あんたデリカシーないよね……そんなこと言うから泣かせちゃうし皆から嫌われるのよ? 優しい言葉でもかけてあげなさい男なら。ほら早く謝る。男の嫉妬ほど醜いものはないわよ?」
彼は言葉に詰まった様子で顔を真っ赤にさせながら一言。
「悪かった。あんたを傷つけるつもりはなかったんだよ」
私は彼女に抱きしめられたまま小さく頷いた。けれど、どうしたらよいかわからず困惑していると肌の白い男の人が扉から出てきてゆったりと歩きながらこちらに近づいてきた。
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