そして舞台の幕があがった 2

すると扉は閉まり消えてなくなった。

そのことにも驚いた。けれど、さっき聞こえてきた声が気になった。帰ったらお母さんに聞いてみよう。何かわかるかもしれない。

それにしても、この猫いったいどこから来たのだろう。

それが疑問だったけど、その疑問を振り払い取り合えず辺りを散策してみることにした。

私はまず、鞄から手袋を取り出し、はめた。手が冷たくかじかんでいたから。手袋を外していたため、手の感覚がほとんどない。猫を置いていくわけにもいかず、猫を片手で抱き、鞄を肩にかけ、猫を両手で抱きなおしてから歩き始めた。暫くすると、見たこともない葉のようなものを見つけ立ち止まり、

その綺麗さに思わず声が漏れてしまった。

「わあ! 綺麗。こんな綺麗なもの初めて見た」

それに対していつ目を覚ましたのだろう。いつの間にか猫は気づいていてその声に反応した。

「綺麗だよね。僕も初めて見たよ。それはリーフ・クライシス現象と言ってね、葉の全体を朝露が覆うんだ。それが何度も重なることにより、葉全体を朝露が覆い日に当たるとキラキラ輝くんだ。これは気温がマイナス1度以下の時にしか、見られないから珍しいものなんだよ? 気温が、0度や1度になると露が溶けてしまうから、なかなか見られないけど運が良ければ、年に2回ほど見ることができる。それで、この凍った葉をすり潰して薬にすればどんな病も治るとされているから、薬剤師の人達には重宝されているみたいだよ? ここは多分スノーフォリアかな? 多分この寒さは間違いないな……それにしても寒すぎる寒すぎて死んでしまいそうだよ! 僕は寒いのが大嫌いなんだ。君なにか持ってない?」

そう猫は私に尋ねた。私は、そんな現象あるんだ知らなかったなと思いながら、声がした方向を探す。しかし、見つからない。辺りを見回してもこの猫以外考えられない。

「君が、話しているの? 猫って話すんだ……いつもニャーニャー言ってるだけかと思ってた」

「そうだよ! いつも僕たちは話しているけど聞こえていないみたいなんだ……君珍しいね。僕の声が聞こえてわかるなんて、普通は聞こえないし、わからないはずなのに……まあ、いいか。それよりなんか持ってないの?」

私は猫と話せるという事実に狼狽しつつも何とか受け入れ、鞄の中を探すと今日買ったばかりの水色のマフラーがあった。今使っているマフラーは学校から支給されたものでもう1つ欲しいと思っていた。

しかし、いいものが見つからずやっと見つけた自分用のマフラーだったのだが、猫が寒そうなため、あげることにした。

「えっと、マフラーならあるよ?」

それに猫は飛びついた。

「あるなら早く言ってよ! 寒くて凍え死にそうだ……早くマフラー頂戴!」

と震えながら猫は言ったので、私はマフラーを猫に巻いたが、猫には大分大きかったようだ。しかし、猫はそのマフラーを気に入ったみたいだった。

「このマフラーいいね。この色僕は好きだよ……前の主の瞳の色によく似ている。彼女は亡くなってしまったけど……優しくて人のために尽くす人でね、僕は大好きだった。僕としては、何としてでも助けたかったんだけどね。あの子はそれを断ったんだ。あの子は自分の運命を受け入れたんだよ……僕にある力を残して。まあこの力のことは、あとで説明するよ。暗い話をしてごめんね」

と猫は申し訳なさそうにしていた。

その切なげな瞳に、私はなにも言えなくなってしまった。

「君に、そんな辛そうな顔させるつもりはなかったんだけど……とにかく、この話はいったん置いといて、このマフラーを僕のサイズに合わせないと

『レゴル・アローシス』」

と唱えた瞬間、辺りが真っ白になりマフラーは猫の丁度よいサイズになった。

「魔法使えるんだね! いいな……私にも魔法が使えたらいいのに」

すると、猫は何を言っているんだと言うようなあきれ顔で答える。

「君も魔法使えるみたいだよ? けど、誰かによって封じられているみたいだ……複雑な魔法がかけられているようだし……」

そう言われたので、私は頭が真っ白になってしまった。複雑な魔法がかけられているだなんて思いもしなかったから

混乱しつつも猫に問いかける。

「私にかけられている魔法? その魔法があるから私は魔法が使えないの? あなたのその怪我直してあげたいけど……その魔法が解ければ治せるの?」

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