第1章 猫の冒険と女王の憂鬱 1

猫は、ゆったりと上機嫌に路地裏や家の塀の上を歩いていた。これから自身に降りかかる出来事を知らずに……



 猫はゆったりと歩くことに魅力を感じていたし、それを優雅だと思っていた。その猫はこの世界では幸運の白猫あるいは幸運を呼び寄せる猫と呼ばれている。また、こんな噂も囁かれている。その猫と契約を交わしたものはどんな魔法でも使いこなせると。しかし、危害を加えたものには不幸が訪れるという噂もあるがこれはあまり知られていない。その契約を交わせばどんな魔法でも使いこなせるという噂を信じたものに猫は追いかけ回されることになる。

そしてそれは現在起こっている。


 ここはレイヴンルースの最大都市クレメンス。普段は平穏な日常が送られているこの街だがこの日は様子が違った。そしてそれはとある事件へと発展する予兆でもあった。


 僕は状況を飲み込めず、戸惑っていた。

散歩をしていただけなのに突然少女と2人の男に追いかけ回されることになるなんて僕は想像もしていなかった。

いつものように散歩に出かけた僕は海を見たり、路地裏を歩いたりして楽しんでいたのに後ろからこんな声が聞こえてきたんだ……

「白猫! やっと見つけた!  早く捕まえなさい! 逃さないでよ? その猫と契約を交わすのは私以外有り得ないんだからね」

2人の男はその少女の命令に答えた。

「了解しました。イザベラ様」


僕はいきなりなんなんだ! なんかよく分からないけど逃げなければならないと瞬時に判断し、逃げることを決めた。

本来であれば、今頃いつも可愛がってくれているおばあさんの所へいきお水を貰うのだが僕にそんな余裕はなかった。

その時僕の目の片隅に飛び込んできたのは光線銃らしきものを構える男達の姿だった。

`僕は絶対君には捕まらないよ?  っていうか3対1って酷くない? それに君みたいな傲慢な女は嫌いだ´

そう誰にも聞こえないように小さく呟くと逃げる速度をあげた。すると銃声が響き、僕の真横を銃弾がすり抜けた。

僕はこの街のことで知らない道は無いほど道を知り尽くしていたので裏道や人が1人入れるかどうかという道を選び、逃げた。そんな僕に痺れを切らしたのか男2人のこんな会話が聞こえてきた。

「彼奴! 中々捕まんねーな。なあ少しくらい傷つけてもこっちには優秀な医術師がいるから大丈夫だよな?」

「多少の傷くらい大丈夫だろ。あのお嬢様に気づかれなければな……どうせなら深い傷負わせて逃げる速度を半減させてやりたいくらいだ」

その話し声を聞いた途端、僕は自分の判断が正しかったことを確信し、絶対に逃げ切ってやると意気込んで逃げ続けた。

僕はその後も家の塀や誰も通らなそうな人気の少ない路地裏などを、そんな道を選んで逃げた。2度目の銃声が聞こえたけど、僕は銃弾を交わして何とか逃げ延びたんだ。そして僕は夜の住宅街へと繰り出して行った。そこなら銃声が聞こえると警察が来てあの二人が捕えれられると思ったから。でも、男達は発砲はせず何しろ諦めが悪い。逃げても逃げても僕を追ってくる。その状況に対して僕は嫌気がさしてきたけどここで捕まったら無理やり契約をさせられるそれだけは嫌だと思っていたから、僕は気力だけを頼りに逃げるしかなかった。

そんな時僕の頭の中に少し不安げなけれど声質は凛としているイメージの女性の声が響いてきた。

"私はこの国の女王です。貴方を助けてあげましょうか? その代わり、私のお願いを聞いていただきます。これは命令です"

その言葉を聞いた瞬間僕は一瞬迷ったものの気づいたらこう答えていた。

`それ僕に拒否権ないよね? 助けて欲しいけど……君の願いは聞きたくない! なんか面倒くさそうな予感がするからね’

僕がそう伝えると残念そうな声がまた響いた。

"それは残念ですね……逃げ道を教えて差し上げようと思いましたのに……"

その言葉に気を取られていた僕は1人の男がナイフを出して襲いかかってきたことに気づかなかった。僕が気づいた時には避けられない所までナイフが迫ってきていてなんとか避けようとしたものの僕の右足を深く抉った。その行為に対して少女の非難する声が聞こえてきた。

「それはやりすぎよ! 私はその猫を無傷で捕まえたかったのに……怪我をさせるなんて有り得ない! 貴方達、いったいどういうつもり?」

「怪我は治せるじゃないですか? 家には優秀な医術師がいるんですから」

そう言うと彼女は彼等を怒鳴りつけた。

「そういう問題じゃない! そんなことしたら猫が可哀想じゃない……」

そう言い争っている隙に、僕は脚を庇いながら走り出した。すると、また声が聞こえてきた。僕はこんな時に誰なんだと思いながらも耳を傾けた。

"私なら貴方を助けられますよ?  逃げ道を教えられます!  それに血が危ないようでしたら輸血もできます"

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