第34話 失踪事件さん
「柊平くん、天くん待ってよー。」
そう言いながら九条が二人の跡を追う。
「だって、最低っていったってそれで情報とれたんだし…。」
少し拗ねた様に唇を膨らませた。
「確かにそうですけれども…。」
「柊平くん、ほだされちゃだめだよ。この人の手口だよ。」
門叶が腕を引っ張って言う。
「手口って…。」
「そんなことよりも、君らどこ行くつもり?」
九条が止まって言う。
「クラブ・ヘブンこっち。」
そう言って脇道を指差した。
渋々と二人は九条の方に戻る。
その二人を笑いながら見て、横道に入っていった。
クラブ・ヘブンはあるビルの3階にあった。
ドアを開けると悪趣味な金の壁紙が煌めいていた。
九条は気にせずどんどん中に入っていく。
「誰だお前ら。」
中から厳つい男が顔を出した。
「警察だよ。ちょっと話を聞かせてほしいんだけど店長はいる?」
九条の言葉に男は「あぁ?」と威嚇をする。
「だから、店長だして。」
おじけることなく言い直す。
男は渋々、もう一度中に入っていく。
少ししてから店長らしい男を連れてきた。
「警察のみなさんが何か御用ですか?」
三十代くらいの軽薄そうな男が言う。
九条は「この女性ご存知ですか?」とかなちゃんの写真を見せた。
「いいえ、知りませんよ。」
男はしらを切る。
九条がにこやかに笑いながら話を続けた。
「それはおかしいですね。ここのホステスの鼎さんだとお聞きしたんですが…。本当にご存知ないんですか?」
「知らないといったら知らないんですよ。」
知らないふりを続ける男に九条が畳み掛ける。
「鼎さんこの店のお金持ち逃げしたって聞いたんですけど被害届出されていませんよね?今からご用意しましょうか?」
「何のことかわかりませんね。人違いでは?」
「お店のお金が盗まれたんですよ?大変でしょう。」
「だから、うちにはそんな奴もいませんし金も盗まれてなんかいません。」
男はうざったそうに繰り返す。
「いやいや、貴方が言っているのを聞いたって方がたくさんいるんですよ。何なら帳簿確認しても?」
「帳簿調べたかったらフダもってこい。」
男は人が変わったような悪人顔で九条に言った。
九条はそんな男を気にも止めずに言う。
「やっぱ脱税か…。税務局呼んでほしい?」
「…それとも、組対をよんだほうがいいですか?」
九条が意地悪そうな笑みを浮かべて聞いた。
店長の男はその額に冷や汗を浮かべていた。
その様子を見て九条が言う。
「まあ、僕らは鼎について教えてほしいだけなんだけどね?」
「…それは脅しか?」
男は九条を睨みつけた。
九条は表情を崩さずただ笑っているだけだった。
男は降参するように両手を上げた。
「わかった、鼎について話す。だけど俺らはそれ以上に感知していない。」
その言葉を聞いて九条は続きを話すよう促した。
「鼎はしばらく前までうちで働いてたが、店の貯蓄の金全部盗んでとんずらしやがった。後は知らねーよ。」
そう言って自分の前髪を整える。
「そっちのケツ持ちがキレて追い回してんじゃないの?」
九条が聞き返す。
「知らねーよ。組が何しているかなんて。」
男は面倒くさそうに言い返した。
「ちなみにいくらぐらい?」
しばらくためてから男は苦々しく吐き捨てた。
「…3000万」
九条は笑って言う。
「そんだけプールしてたら見つかるのも時間の問題だから良かったんじゃないの?」
男の顔は不快と書いてあるふうだった。
そして「他に聞くことないなら帰れ。」と吐き捨てた。
「また来ますね。」
そう言って三人は店を後にした。
「…どう思います?」
月城が九条に尋ねた。
九条は余裕の顔をしていった。
「あそこの店は関係ないな。」
月城は驚いた顔で言った。
「どうしてですか?」
「辛うじて関係があるとしても組の方だよ。あの店長は嘘をつけるほど頭よくない。」
「…そんなんでいいんですか?」
月城は予想外の回答に目を見開いた。
「そんなんで、いいんだよ。天もそう思ったでしょ?」
門叶も頷いた。
「あの人は違うと思います。ただの感ですけど…。」
二人がそう言うならそうなんだろう。
月城は納得したように頷いた。
「それよりも翼を調べよう。」
「かなちゃんの好きな人ですか?」
そうそう、と九条が相槌をうつ。
「でも、翼なんてホストにありがちな名前じゃないですか?店もわからないのに…。」
門叶の問いに九条が答える。
「さっきの店で住所確認しといたからそこ行こうか。」
そう言って彼らは歌舞伎町から外れたアパートを目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます