第33話 失踪事件に
「任せて下さい。」
とは言っても調べるあてなど月城になかった。
「…天さん、どうしましょう?」
門叶は笑って言った。
「柊平くんが言わなかったら僕が言ってたから、とりあえずかなちゃんの正体を調べなきゃ。」
と言って歌舞伎町の風俗店の情報を出した。
「とりあえず、加藤さんの話と写真から歌舞伎町の風俗店出してみたんだけど凄い数だね…。店自体に入れ替わりも激しいし、写真の加工が酷いとたとえ本人でもわからない。」
門叶は当たり前の事のように中々酷いことを口にした。
「一個一個ホームページ見て確認するかな…。」
そう言って門叶が、最初のホームページを開けようとすると後ろから九条が顔を出した。
その表情には誂いの色が見える。
「天くん、ローラー作戦かい?」
ちょっと不満そうに口を膨らませた門叶が返す。
「そうですよ、九条もご一緒にいかがですか?」
それをあざ笑うように九条が言った。
「かなちゃんもう見つかったけど?」
「はい?」
月城と門叶の声が重なる。
「だから、かなちゃん見つかったよ。『クラブ・ヘブン』ってお店検索してみ。それの鼎ちゃんって子だよ。」
それを聞いて門叶が調べる。
そしてホームページの一角から鼎の写真を開いた。
「…確かに同一人物です。」
月城もパソコンを覗き込む。
(…本当だ。)
「どうやったんですか?九条さん?!」
門叶が、驚きを隠せない様子で聞いた。
九条は何でもないように言う。
「知り合いの女の子達にさっきの画像送って知っている人いないか回して貰っただけだよ。」
九条のもっている情報網は僕らの知らないところまで繋がっているみたいだった。
「それじゃあ、そのクラブ行ってみようか。何かわかるかも。」
九条がそう言って歩き始めたので、月城と門叶も急いで後を追った。
三人が歌舞伎町についたのはまだ昼前であった。
夜の騒がしい混沌は嘘のようにひっそりとみせが並んでいた。
九条はその一角のビルの中に入っていく。
エレベーターの開いた目の前にすぐドアがあった。
しかし、そこに書かれている店名はクラブ・ヘブンとは違っている。
「九条さん、ここ違いますよ?」
月城が尋ねると、「いいから。」といって九条はそのドアを何の躊躇もなく開けた。
カランカランカランと客の来店を伝える鐘の音が響いて、中から一人の女性が顔を出した。
「あら、いらっしゃい!鳴海ちゃん。あっ、例の子の話ね。」
とせわしなく動き、僕らを店の一角の席に座らせた。
「鳴海ちゃん、最近顔出してくれないからお店の子たちが泣いているわよ。他に女ができたんだって。」
「あはは、じゃあママってことにしておいてくださいよ。」
そんな、歯の浮くセリフを九条はスラスラと並べ立てる。
「あらやだ、口説かれちゃったって自慢できるわ。」
「本気ですよ?」
「いやだ、照れるわ!」
そう言って店の亭主らしい、女性は声高く笑った。
(…九条さん、ここよく来ているんだな。)
「…それで、この子知っているんですか?」
九条がかなちゃんの写真を見せる。
「この子、クラブ・ヘブンの子だから良くは知らなけどまあまあ人気があったみたいなのにお金に困っていたらしくて店の金に手を付けたって噂」
「…店の金に手を付けた?」
「そう、売上金パクって逃げたんだって。見つけたらとっちめてやるってクラブ・ヘブンの店長が息巻いてたよ。」
「…そんなにお金に困っていたんですか?」
月城の質問にママはタバコに火を付けながら答えた。
「良くは知らないね。詳しくはクラブ・ヘブンの方に聞いてくれ。」
「うん、ありがとう。」
九条が立ち上がる。
「お礼だったらまた今度遊びに来てよ。それでチャラにしてあげるよ。」
彼はそれを聞き流すように「はいはい。」と手を振って出ていった。
月城と門叶も目礼だけして九条の後を追った。
「九条さん、どうしてこっちを先に来たんですか?」
九条はエレベーターのボタンを押しながら答える。
「この辺じゃあケツ持ちが警察に目をつけられたらヤバい仕事をしている場合が多々あってね。例えば脱税とかね。そう言うお金を持ち逃げされちゃあ警察に通報することもできないから隠したがるんだ。」
「だから、先に外堀を埋めてから聞いたほうが効果的!」
そう言ってしたり顔で指を立てた。
そして、わざとらしい口調で「わかったかな?」と月城に言った。
「…なるほど。」
「次ももうちょっとだけ回り道。」
そう言うと別の道に入っていった。
次の店は地下にあった。
地下の店に行く階段を降りる。
九条が扉を開けると中では嬉しそうな顔をした女性が待っていた。
「鳴海久ぶり!」
「リカちゃん久しぶりなのにごめんね。」
と九条がリカの元へ歩み寄った。
リカは嬉しそうに九条の首に腕を回した。
「なぁに?頼み事って」
「んー、クラブ・ヘブンの鼎って娘の情報詳しく教えて。」
それを聞くとリカは嫌そうな顔をした。
「他の女の話を聞くの?」
九条はニコリと笑ったまま表情を崩さない。
リカは「やってらんないわ」と煙草に火をつける。
「ごめんね、リカ。」
そう言って九条が謝ると彼女は更に顔を歪めた。
「謝んな、ばあーか。」
「教えてあげるから!」
そう言って自分を宥めるように舌打ちをした。
「ありがとう、リカ。」
彼女はもういいといったふうに手を振った。
「んで、何聞きたいの?」
「クラブ・ヘブンの鼎について。」
リカは大きく煙を吸って吐いた。
「あの子行方不明になっているんだってね。」
「そんな話回っているの?」
「店長が血眼になって探し回っていたから、ケツ持ちのヤクザに捕まったんじゃないかな?」
(…じゃあもしかしたらそのヤクザに?!)
「私、その子がホストに会いに行ったまま帰ってこないって聞いたんだけど…。」
「じゃあ、そのホストに入れ込んでたんだね。それで借金ためて首が回らなくなったんでしょ。」
そこまで言ってリカは「あとは知らなーい。」と2本目の煙草に火をつけた。
「…そっか、リカありがとう。」
そう言って九条が立ち上がる。
「お礼に何くれる?」
リカは色っぽく笑う。
「…私いま、お金ないんだよね。」
リカは不満そうに口を膨らませた。
「そうじゃなくって!」
九条はそう言って怒るリカの頬に軽く口をつけたて、そっと耳にささやく。
「リカ、助かったよ。ありがとう。」
月城にも彼女が真っ赤になるのがわかった。
(たらしというか、遊び人といか…。)
「またね、リカ。」
そう言って足早に出ていく九条を二人が追う。
「彼女、あのままでいいんですか?」
門叶が九条に尋ねる。
「んー?いいんじゃない?」
九条が何でもないように答えた。
「九条さん、最低ですね。」
月城が軽蔑した声で呟く。
「なんでよ、柊平くん。」
九条がからかうように笑った。
「僕も最低だと思います。」
門叶が月城に同意する。
「最低ですよね。」
「最低だね。」
そう言って九条を仲間外れにして、二人は先にあるき出す。
その後ろを九条が小走りで追っていた。
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