第32話 失踪事件いち
「唯月さん!麩菓子をこぼさないでください!」
門叶が烏丸に文句を言っているいつもの光景だ。
烏丸は幼い見た目と、幼い高い声で言った。
「麩菓子は溢れるものだよ。」
ドヤ顔でそう言う彼に門叶がまた怒る。
「そうやってここに蟻が湧いて、3係の皆に怒られても知らないですからね!」
そう言う門叶をちらりと見直していたずらっぽく笑ってみせた。
そして「そう言うのは天の仕事でしょ?」と言い放った。
「もう知りませんよ?!」
彼はそう言って口を尖らせた。
そんな門叶を気にしない様子で烏丸が月城を呼びつけた。
「柊平くん、これ、この資料戻しておいて。」
その資料を受け取ると資料室の印鑑がが押されている。
「唯月さんこれうちのじゃなくて資料室のやつじゃないですか?!」
「だから戻しに行ってきてよ。」
麩菓子を食べながら言う。
「僕、麩菓子食べるのに忙しいから。」
堂々と言われては反論しにくい。
「…わかりました。」
烏丸は「よろしくー。」と手を振っていた。
「まったく、我侭というか、自己中といか、人使いが荒いというか…。」
月城はブツブツと資料室から対能課に戻る。
返却予定日を超えていたみたいで資料室の職員に小言を言われた。
(…唯月さんわかっていたから自分で行かなかったんでしょ。)
心の中で人使いの荒い彼に文句を言う。
(だけど、あの人あんな事件に興味あったんだ…。)
唯月の読んでいた資料はキャバ女が連続して失踪するというものだった。
店からの捜索願いだったり、消えた一人一人の情報が書かれていた。
そんなことを一人でやっていたら女性の金切り声が聞こえた。
「だから!友達がいなくなったんだってば!!ホストのところ行って、帰って来ないの!」
「ですから、そのご友人のお名前と住所を教えて頂きたいのです。それがないと捜索願いは受理できません。」
「そんなの知らないわよ!道端で名良くなったんだから!!」
「ですから!」と職員も語調が荒くなる。
少し聞いただけでも唯月の読んでいた資料と内容が少し似ていた。
延々と続きそうな会話に月城が割って入った。
「いかがされたんですか?」
女性はびっくりしたように月城の方を眺めた。
職員も驚いた様子で「えっと…。」と吃った。
「指定特殊能力対能課の月城です。」
対能課と聞くと職員の顔色が変わった。
「あの、何か事件でも?」
月城は思ってもいない質問に驚いた。
そして、「違うんです。通りがかっただけで。」
と手を顔の前で振ってみせた。
「僕に詳しくお聞かせ願ってもよろしいですか?」
そう言って彼女を対能課に案内した。
「それで、詳しくお聞きしても?」
対能課のソファに唯月を含めた数名が集まる。
門叶が彼女にお茶を出した。
状況に戸惑った様子で彼女は顔を見回した。
「えっと、友達がいなくなっちゃって…。」
そう言ってゆっくりと離し始めた。
「いなくなっちゃった友達、かなちゃんって呼んでいるんですね。公園のベンチでタバコ吸っているとこであってお互いに本名言わないであっていたから詳しいことが全然わからなくて…。」
「それで、どうしていなくなったって思ったの?」
唯月が尋ねる。
「かなちゃん、入れ込んでいるホストがいてなにかで『私が助けてあげなきゃ』っていってて…。ある時から急に来なくなっちゃって、私どうしたらいいかわからなくて…。」
そう言って泣きじゃくる彼女の背中を空が優しくさすった。
「心配だったんだよね…。」
コクコクと頭を振る。
(唯月さんこのこと視えていたのかな…。)
烏丸の方を見ると何か考え込んでいるように思えた。
「とりあえず、あなたに関する調書作りたいのでお名前と住所お聞きしてもいいですか?」
門叶が彼女に言う。
彼女は少し震えた高い声で答えた。
「加藤春奈です。住所は…」
それを聞いて門叶がどんどん書き留めていく。
「そのかなちゃんの写真もしくは連絡先を何か持ってますか?」
「写真なら…。」
そう言って加藤が取り出したスマホの画像をパソコンに取り込む。
「かなちゃんが入れ込んでいたホストの名前はわかりますか?」
「確か、源氏名だと思うけど『翼』って言っていました。店まではわからないです…。」
「そうですか…。」
力なく門叶が呟いた。
その声を聞いて加藤が必死に言った。
「無理なのはわかっています!だけど、何かしていないと私もおかしくなっちゃいそうで…。」
「…私も彼女もキャバクラで働いていて、仕事終わりに私が公園でタバコ吸っているとこに彼女もやってきたんです。お互いに身よりもなくて友達と言える友達もほとんどいなかったから本当に嬉しかった。この仕事を始めてから初めて、生きがいができたんです。」
「かなちゃんの同僚に誘われて行ったホストクラブでその翼に一目惚れしちゃったみたいで彼女凄い額を使っていたらしい…。」
そして加藤は月城達の方に向き直して言った。
「かなちゃんをどうか助けて下さい!お願いします!!」
月城が加藤の手を握って言った。
「任せて下さい。かなちゃんは僕らが探し出します。」
「ありがとうございます。」
と言って彼女または泣き出した。
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