第30話 トウキョーオークションさん

会議の議題当日の行動についてにかわっていた。


「まずはこの人に捜査協力を依頼する。」


そう言って烏丸は一人の外国人の写真を見せた。


「アーバン・スミス、アメリカ人。盗品だろうが美術品を買い漁るジャンキーだよ。都内ホテルに宿泊予定。」


そう言ってスミスの詳しく書かれた資料を見せた。

その情報の精密さに舌を巻く。


「この短時間でここまで調べたんですか?」


「まあ元々、オークション参加者は目につけてたからね。」

と烏丸は笑った。


「九条と天と柊平はボディガードに変装。海くんは絶対に要らないことを口走らないように脅し役。」


「皆の体に渚のマークをつけておくから、それで居場所を特定。『藁人形』は処分。」


「それでいいよね?」


烏丸は碇の方を見返した。

碇は神妙そうに頷いた。


「作戦決行は次の新月、各々ぬかるなよ。」



新月の夜が来た。

海のギフトで気配を消してスミスの部屋の前までやって来た。

呼びベルを鳴らすと中からボディガードが顔を出す。


【誰だ?】


そのボディガードをスタンガン気絶させ、全員中に忍び込んだ。

念の為持ってきた縄で足と腕を縛り、さるぐつわを口にはめた。

静かに着実にスミスのお付きを潰していく。

スミスが気づいた頃には回りに誰もいなくなっていた。


【おい!お前らどこだ!?誰か返事しろ!】


一人、空に叫ぶスミスの口にさるぐつわをはめた。


【こんばんは、アーバン・スミスさん。】


そう言って彼の前に全員が姿を現した。


【騒がれては困るので不躾な訪問で申し訳ありません。一つお願いがあるのですが聞いていただけますか?】


スミスは青ざめた顔で必死に首を縦にふった。

彼の恐怖は言うまでもないだろう。

何もないところから人が現れたのだ。

無理もない。


【お願いとは今夜開催される『トウキョーオークション』に貴方のボディガードとして参加させて頂きたいのです。】


スミスは大きく頷いた。


【ありがとうございます。】


そう言って九条はにっこりと笑った。

九条はスミスのさるぐつわを外し尋ねた。


【迎えが来るのは何時ですか?】


怯えきった声でスミスが答えた。


【夜、12時きっかりにドアの呼び鈴がなる。そこを開けるとオークション会場に繋がっている。】


(…なるほど、道理で参加者が消える訳だ。)


【そこに同行すればいいんですね?】


スミスがまた頷いた。

迎えが来る前に彼らはボディガードらしいスーツに着替える。

そして、スミスに呼びかけた。


【何か怪しい行動をしたらそこの少年が君を撃つからね。】


海が姿を消して見せた。

スミスは焦ったように腕を上げて言った。


【俺は美術品が買えるからここにいるだけで、あそこの武器には何の興味もない。…あんな野蛮な物。】


【それなら良かった。】


九条がいたずらっぽく笑ってみせた。

そして、僕らに耳打ちした。


「君らは何も話せないで通して、英語は私が話すから。」


わかりましたと二人は静かに頷いた。



コンコンとドアを叩く音がした。

時計はちょうど長針と短針が重なっていた。


(来た!)


月城のその表情に緊張が隠せない。

九条が扉を開ける。


【こんばんは、スミス様。今宵も我らトウキョーオークションへのご参加賜りましたこと心から喜ばしく思っております。】


案内人らしき青年が恭しく頭を下げた。

一番前を九条がスミスの横を気配を消した海が拳銃を構えて待機している。

海はわかっていてもいるのかいないのかわからなくなっていた。

そして、後方に門叶と月城が立つ。


【こちらへどうぞ】という青年の案内で暗い通路を抜けた。


そこには豪奢なシャンデリアがいくつもぶら下がり、床には真紅の絨毯、そしてオークションを行うと思われるステージには重々しい緞帳がかかっていた。

会場は素晴らしい熱気に包まれている。


【お席はご自由におすわり下さい。】


案内役の青年はそれだけ言うと消えてしまった。


「本当にこんな場所があったんですね。」


月城が驚きを隠せない様子で言うと、


「ここ、すごいよ。世界の名のしれた犯罪者達がごろごろいる。それに、国の重役らしき人もちらほら見える…。」


そう門叶が月城に耳打ちした。

続々と参加者達が集まってくる。

彼らはスミスの両隣を囲う様に席についた。

海は気配を消したまま月城の膝の上に座っている。


(重さとかは消えないんだな。)


膝の上に何かが乗っているのに感じ取れないのが面白かった。

重々しい緞帳が開いて一人の男性が姿を現した。


「皆さんご静粛に。」


よく響く低い声で彼は言う。


「今宵はこのトウキョーオークションにご参加賜りまして、心から御礼申し上げます。」


「今宵も初めさせていただきます。まずはナンバー1『湖畔の美女』、三十年前にフランスで行方をくらましたべーヘン・ブッヘの名画…。1000万円から…。」



つつがなく、粛々とオークションは行われていた。

スミスは大量の美術品を買い込みホクホク顔である。


「それでは最後は今宵の大目玉『藁人形』こちらは不思議な能力を持っておりまして中に呪いたい人の一部を入れ、釘を打ちますと打ち付けたところが悪くなり死に至るという代物でございます。何度も繰り返しご利用いただけます。」


「では、5億円から…。」


参加者が次々に口に出す。


「5億1000万!」

「5億5000万!!」

「6億!!!」


どんどん吊り上げられていく値を月城は呆然と眺めていた。


『誰かが競り落とした瞬間、一瞬場が緩む。そこを狙うんだ。』


烏丸の言葉を思い出す。


(気を緩めるな。一挙一動を注意しろ!)


月城の瞳に闘志が宿った。

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