第29話 トウキョーオークションに

翌日の対能課は大荒れだった。

主に鼓が発狂している。

「おはようございます。どうしたんですか?」


そう言って月城が自分の席に鞄を置くと空が通タブレットを手にこちらに向かってきた。


「ど、どうかされたんですか?」


鼓が月城の顔の前にタブレットを付き出す。



『トウキョーオークション』


高品質な商品を世界中から集めました。

奮ってご参加下さい。

今度は星のよく見える日にお会いいたしましょう。



その下にいくつもの商品の画像がある。

「これは…?」


「これが『トウキョーオークション』のカタログ!!!ネット上で公開されるのよ!」


そう、鼻息荒く言う。


「問題はこれ。」


と一つの藁人形の写真を見せた。


「藁人形ですか?」


「これはただの藁人形じゃないのよ。ある能力者の『残留ギフト』、この中に呪い殺したい人物の一部を入れて釘を打つとそこが原因で死に至る。繰り返し利用可能。」


「めちゃめちゃ危険じゃないですか?」


「だからよ」と鼓は目を見開いた。


「こんなものが国家転覆を目論む人の手に渡ってご覧なさいよ。一国滅ぶわよ。なんとしてでも壊さないと…。」


そう言って鼓は唇を噛み締めた。


「とりあえず作戦会議よ。会議室に集まって。」



会議室に張り詰めた顔の銘々が揃う。

一番最初に口を開いたのは鼓であった。


「まずは、状況を整理しましょう。」


そう言ってホワイトボードに情報を書き込んでいく。


「最初に、日時は文面から次の新月の夜だと推測できます。が、曜日がわかっても開催場所がわからなきゃ意味ないんだけどね。」


そう言って鼓はため息をつく。


「オークションの支配人を捕まえるとか?」

と門叶が言うが、


「顔がわからいなら現実的ではないね。」

と烏丸がバッサリ切り捨てる。


そうはいっても誰を妙案が思いつかないです。

暫く無言の時間が続いた。

その静寂を切り裂くように九条が口を開いた。


「じゃあさ、オークションの参加者に紛れこもう。」


鼓が「どうやって?」と聞き返す。


「海くんの能力を借りよう。彼のギフトは『自分が触れたものを自分も含めて気配を消す』こと…。だとするならオークションの参加者を脅して後ろについていけば紛れ込めるかもしれない。」


皆、九条の言葉に雷に打たれたような顔をしていた。


「なるほど…。」


鼓が感嘆の声を上げる。

しかし、月城の中では別の気持ちがくすぶっていた。


(…それは海を巻き込むことになるじゃないか、海を危険に晒す事になる。)


一応、本人にも確認したいということで午前の会議はそこで中断された。

続きは海が来てから行われることになるだろう。



夕方になって海が学校からやってきた。


「お兄ちゃん、何か用事があるって聞いたんだけど…。」


海がやってきたことで会議が再開された。

自体の流れを聞いていた海は協力を聞かれると、

「もちろんやります。」と間髪入れずに答えた。

月城は硬い表情でいった。


「僕は海を使うことに反対です。」


その言葉に一同が月城の方へむく。

海は信じられないといった風に彼をみた。


「どうして?」


月城は苦しい顔で続ける。


「この前の中学校の事件ならまだしも今回は犯罪者の巣窟みたいな所に行くんですよ?そんなところに連れていける訳がない。」


「僕は戦えるよ!」


「戦えるかどうかが問題じゃない。君は子供でこちらは大人の世界だ。巻き込みたくない。」


月城が冷たく突き放す。


「君がギフテッドであることで普通の生活ができなくなるのは嫌だ。」


その言葉に海が言葉を尖らせた。


「じゃあ、お兄ちゃんが反対するのは全部僕のため?」


「海がこっち側に来る必要はない。」


月城は海から目を逸らした。


「こっちを見ていってよ!お兄ちゃんは俺を普通の生活遅らせることで自分にギフテッドでも普通に暮らせるんだと信じ込ませたいんでしょ?自分が社会から外れた人間だって自覚したくないんでしょ?」


「俺は俺だよ。」


海は力強く目を光らせた。

海の言葉に月城は足元が崩れ落ちるような感覚がした。

海はそれだけ言って涙を落とした。


「俺は自分が殺した人たちの分も生きなきゃいけないし、誰かを守らなきゃいけない。だから、行かなきゃ行けないんだ。」


「君をこの世界に巻き込んだのは大人たちの責任なのにどうして君がそれを背負うんだ?」


月城の問いに海は涙で濡れた目をこすって向き直した。


「俺がそうするべきだと決めたから。」


その言葉で月城の胸の中にたまっていた重りみたいなものがスッと消えたようだった。


「そっか…。」


自分でも驚くような優しい笑みだったと思う。


「ありがとう、海」


そう言って月城は満面に笑って海の頭を撫でた。


「辛いこと言わせてごめんね。」


「…俺こそひどいこと言ってごめんなさい。」


そう言って海は泣きじゃくる。


「ホントのことだもん。気にしてないって。」


月城は海を抱きしめて笑った。

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