第28話 トウキョーオークションいち

その日も空と碇の怒号が飛び交っていた。

天気は快晴。

ビル群の向こうから真っ白な入道雲が見えていた。

課長と係長が怒鳴り声を上げて喧嘩をしているこの異常な光景も課の人間は気にも止めていなかった。


「そろそろ夏ですね。」


「そうだね。僕、夏好きなんだ!」

と門叶は嬉しそうに声を弾ませる。

「俺も好き!」


海も同調する。


月城が「僕は春ですね。」と答えると二人して「同じだねー。」と言わんばかりに顔を見合わせたので、月城は少し唇を尖らせた。


「そういえば、聞いたことなかったんですけど。空さんってよく出張行ってますけど何されているんですか?」


月城の質問に海も門叶へ向き直した。


「ああ、空さんの仕事はギフテッドのスカウトと残留ギフトの調査…。場合によっては確保を主にしているからいつも外回りなんだ。」


「なるほど…。」


月城と海がコクコクと首を振る。


「でも、ギフテッドのスカウトって僕は唯月さんでしたけど…。」


「柊平くんはレアケース。僕も2係の渚さんも空さんからスカウトされたんだよ。」


「…そうだったんですか。」


「そうだったんだよー。」と門叶は声を弾ませた。


「まあ、問題の空さん自身は課長にこき使われているっていつも怒っているけどね…。」


そんな話をしていると

「宗一郎、ハゲろバァーーーーカ!!!」

と鼓が中指を立てながら課長室から出てくるのが見えた。


そのまま、僕らの座っているソファに勢いをつけて腰を下ろした。


「あの石頭!!!」


空のために淹れたコーヒーを彼女の前に置く。


「今度はどうしたんですか?」


空は門叶に礼を言ってコーヒーを一口すすった。


「天、『トウキョーオークション』って知ってる?」


門叶は聞き覚えのあるという顔をしたが、海と月城はきょとんと目を漂わせた。


「そっか、二人は知らないか。」

と言って鼓が説明してくれた。


『トウキョーオークション』とは大戦後、闇市の一角で行われていた競りが始まりらしい。

品物を選ばず、『今日の夕食から世界の絵画まで』をモットーに食材やら美術品やらが取引されていたらしい。

それが、段々と姿を変え拳銃や盗品などの規制品まで取り扱うになり、今となっては盗品の美術品、戦車やミサイルまで表には出せないような代物を商品として取引されている。


「それ、摘発されないんですか?」


月城の質問に鼓が顔をしかめる。


「それが、これといった場所の指定がされていないんだ。オークションの参加者らしき人が一斉に姿を消して暫くして戻ってくる。」


「本当にオークション何てあるんですか?」


月城が疑わしそうに尋ねた。


「『トウキョーオークション』が開催されているのは確か。なぜならそれに参加した美術品のコレクターが消えたはずの絵画を手にしていたり、持っているはずのない戦車がテロ組織が保持していたり…。」

「そして、必ず送られてくるカタログ。」


そして大きく目を見開いて言った。


「空間系のギフテッドがオークションの関係者にいるとしか考えられないね。」


「なるほど…。」

と月城は大きく頷いた。


「で、それが課長と何の関係があるんですか?」


鼓の顔が不快そうに大きく歪む。


「そろそろ、その『トウキョーオークション』が開催されるって噂があってねその話をしていたら、『世界の有名犯罪者が集まるなんて警備が大変だな。』ってそうだけど!そうじゃない!!」


鼓が突っ込むように腕をバタバタさせている。

月城たちは「ははは」と愛想笑いを浮かべることしかできなかった。


「でも、空さん。そんなオークションの摘発ってどうやるつもりですか?」


「それが問題なのよね。」


と言ってゴソゴソと資料を取り出してきた。


「これが『トウキョーオークション』の資料なんだけど…。ご覧の通りほとんど何にもわかってないの。」


と薄い紙の束をヒラヒラさせてみせた。


「わかっていることはオークション支配人が襲名制であることと、『トウキョーオークション』がここまで治外法権化したのはここ十年ちょっと。つまり現支配人が着任してから…。って事ぐらいなのよね。」


やってらんないわと資料をテーブルの上に投げ、

「どっかから情報落ちてこないかしら。」と天を仰いだ。

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