第26話 学校の七不思議なな

「僕の前から消えろ!!!!」


栗山が、そう咆哮すると彼の体がどす黒く光った。


「『幻影跋扈』捕縛せよ!!!」


門叶が叫ぶ。

しかし、彼の動きが止まることはない。


「九条さん!彼止まらないんですけど!!!」


門叶の声に焦りの色が見えた。

九条は落ち着き払った様子で答える。


「栗山くんの体に取り憑いた『残留ギフト』を彼の体から引き剥がすことができたら私の『饕餮』が処分するから。」


「引き剥がすってどうするんですか?!僕、呪い系の残留ギフトと実際に戦うの初めてなんでよ!?」


「まあ、珍しいからね。」


悠長に話している間にもどんどん教室の蛍光灯が落ちてくる。

門叶は影で屋根を作り、落下物から身を守る。


「九条さん!僕はどうすればいいんですか?」


門叶が栗山の攻撃を防ぎながら尋ねる。


「もっと煽って彼の中に違和感をもたせるんだ。『自分は何をしたかったんだ』って。」


「煽るのは九条さんの特技じゃないですか?」


九条が心外そうに口を尖らせて言う。


「天くん私のこといつもそんなんに思っていての?」


「ひどーい」と女子高生の様な声を出す。


「ともかく、僕が彼をひきつけますから煽るのは九条さんにお任せします。僕が守るので存分にどうぞ。」


「ガンバリマス。」


と口では言うがその声は自らの優位を知っている者のそれだった。

ガシャン!!!

耳をつんざく高い音がして窓ガラスが門叶にふき飛んでいく。


「ほら、僕らを襲ってなんになるの栗山くん?」


九条はどこか人を馬鹿にしたような顔で栗山に呼び掛ける。


「五月蝿い!五月蝿い!邪魔をするな!!!」


「何の邪魔をしちゃいけないの?!」


「君が佐藤千秋と元野光輝を恨むのはまだわかるけど他の生徒を襲ったのはなぜだい?」


栗山はどこか苦しそうな顔になって叫ぶ。


「あいつらは、社会のゴミだから痛い目にあったんだ!!!」


「どうしてそう思うの?」


栗山はこの世の苦汁の全てを舐めたように顔を歪めて言った。


「頭が悪くて暴力しか知らないような馬鹿どもを懲らしめてやっただけだ!!!」


「暴力を蔑んだ君が、暴力で復讐だなんて馬鹿馬鹿しい自己矛盾だね。」


九条の顔には冷ややかな意地の悪い笑みが浮かんでいた。


「黙れ!黙れ!黙れ!!!!!」


栗木は教室の石膏ボードの天井を彼らに降り落とした。

白い粉塵が立つ。

黒い影が二人を囲い守っていた。

栗木の猛撃を意に介さぬ様子で九条は言った。


「君をそんなにさせた原因は何か思い出してご覧。」


春の日のような柔らかい笑顔で呼びかけた。

栗木はその動きを止めた。


「僕は坂本が苦しんでいるのが辛くて、許せなくて…。」


そして、力なく天を仰いだ。


「…そんな自分が情けなくて。」


先程の剣幕とは打って変わって声は弱々しく震えていた。

その頬に一筋の涙が落ちる。


「僕が余計なこと言ったせいで坂本凄い大怪我負って、先生からも更に目をつけられて…。」


「栗木のせいじゃない!!」


教室の外に潜んでいた坂本が、飛び出してきた。


「栗木が苦しむことじゃない。僕が巻き込んだせいで栗木にも迷惑がかかって、それなのに俺は逃げて…。ごめんな……。」


顔をくしゃくしゃにして坂本は泣いた。


「こんな俺のために怒ってくれてありがとう。」


その言葉に栗山の膝の力が抜け、座り込む。

そして、嬉しいのか悲しいのかわかんない顔で笑った。

栗山の体を覆っていた靄が晴れ中から一冊の古びた本が現れた。


「『饕餮』」


九条はよく響く低い声でその獣を呼ぶとそいつはパクリと一口で食べてしまった。


「天くん、柊平くんたちに終わったよって連絡しておいて。」


二人の学生は互いの顔を見合わせて「汚い顔。」と鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔を笑った。



暫くして、月城達がやってきた。

仲良く笑う二人を見て大体の状況を察したらしい。

月城は教室の惨状を見て困惑したように

「言い訳どうするんですか?」と九条に尋ねた。


「口八丁手八丁は天くんの得意技だから!」


そう言って九条は笑う。


「それが得意なのは貴方ですよ!!」


門叶は不満そうに口を膨らませた。


「これはどうゆうことだ!!??」


気づけば下校時刻はとうに過ぎていた。

施錠のための見回りに来た徳田が彼らを怒鳴りつける。

ふと見た坂本と徳田の目があい、坂本は目を逸らした。

それを見つけて徳田は面白そうに喋り始めた。


「なんだ、坂本来ていたのか。職員室にもよらずにコソコソと坂本達が嫌で学校来るの諦めたんじゃなかったのか?」


そこまで言うと彼はわざとらしく手を叩いた。


「そういえば、あいつら暫く怪我で学校休んでたな。ああ、だから来れたのか。それとも怪我をさせてたのはお前だったりしてな!」


そう言って徳田は気色の悪い声で高く笑う。

その声が鼓膜にへばりついて離れなっと言ったふうに坂本は耳を塞いで座り込んだ。

その様子を見て更に徳田が笑う。


「なんだ?どうしたんだ?そうやっても現実は変わらないぞ?」


頬に涎を溜め込んだような粘っこい声が彼の体をはえずりまわった。


「やめろ!!!」


栗山が徳田に向かって叫ぶ。


「黙れこのクソ野郎!」


徳田は分厚い眼鏡を押し上げてまるで品定めでもするように栗山を見る。

そして乾いてひび割れた唇を開いた。


「お前、推薦狙っているんだろ?教師にそんな口聞いてただで済むとおもっているのか!?」


徳田の怒声に二人はビクッと体を縮ました。

月城の胸の中にどす黒い感情が沸々と湧き出てくるのがわかった。


(こいつはこうやってこの二人を追い詰めたんだ。教師という立場を利用してただ自分より弱い人間を追い詰めて笑っているんだ。)


月城が口を開く前に門叶が動くのが早かった。

彼は徳田の声に怯える二人の壁になるよう間に立っていた。

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