第25話 学校の七不思議ろく
「結局、唯月さんの読みが外れたってことですか?」
坂本の家を出て本部へ帰る途中、月城が門叶に聞いた。
「話を聞いていると友達思いの正義感の強い子って感じでしたし…。」
その月城の言葉に門叶は「それはどうかな。」と答えた。
「力を急に手に入れて全能感で調子に乗り出すなんてよくあることだし、ギフトっていうのはその力の強さからその人が日頃から抱えている鬱憤を詳らかにしてしまう事がよくあるんだ。」
それを聞くと月城は狼男を思い出した。
「…なるほど。」
「でも、確かにギフテッドの仕業と考えるには能力の使い方が微妙だ。地味めなギフトとかだと大人になるまで気づかなかった人っていうのはたまにいるみたいだけど、それにしてはギフトが派手すぎる。」
「こういう見せびらかす様に使うやつは基本的に後天的に得たもの、つまり考えられる可能性は一つ『残留ギフト』を手にしている。」
門叶の説明に「なるほど」と月城が唸る。
「残留ギフトなら全てに説明がつく…。」
月城の相槌に頷いて門叶は続ける。
「きっと能力の系統は『呪い』手口がまちまちなのも松村先生がおかしくなったのも呪いと考えるのが妥当だと思うだけど…。」
「人をあやったりするだけなら『サイコキネシス』とかでもできそうですけど…。」
そう月城が言うと、門叶が嬉しそうに答えた。
「いい質問だね!『呪い』と『サイコキネシス』の違いは偶発を故意に起こさせるか、偶発を人為的に起こすかにあるんだよ。」
「例えば同じ柵が落ちて転落したでも呪いならなぜか腐食が進んでいて柵が落ちた、サイコキネシスなら柵が曲がって落ちた。と少しだけ変わってくるんだ。」
「んで、今回のは偶然が重なっているから『呪い』系統だと思うんだけど…。」
そう言って困ったように眉を曲げた。
「学校とか会社とか、そう言った不満の溜め込まれやすい場所で眠っていた呪い系の残留ギフトって局地的に凄まじい威力を持ってたりするんだよね。それこそ人を呪い殺せる程の…。」
「それだっら急いでなんとかしないと大変なことになりますよ?」
月城は驚いて叫ぶ。
「早く、栗山くんのところに行かないと…。」
「大丈夫、今行ったみたいな残留ギフトは特定の場所じゃないと発動しなくて、今日は徳田先生週休だったでしょ?」
そう言って難しい顔をしてポツリといった。
「処分するなら九条が来てくれないとな…。」
「ん?九条呼ぶんですか?」
月城が聞き返す。
「そう、呪い系の残留ギフトは扱いが難しいのとその能力の忌みから封印指定、若しくは処分しちゃうんだ。僕らの手に負える物で留まっていてくれてるかわかんないしね。」
翌日、月城と門叶、九条が都立鳥間第二中学校へと向かっていた。
途中で坂本を乗せて4人となった。
「君が坂本くんか、僕は九条だよ。」
と言う九条の見た目に坂本は戸惑っていたみたいだった。
「えっと…。警察の方なんですか?」
銀髪のポニーテールに薄い色の瞳。
襟のある服を着ているのでいつもに比べたらしっかりしていると言えなくもないが矢張り警察の人間には見えない。
「一応ね」と九条がはなを鳴らす。
「付きましたよ。」
門叶がそう言って車を駐車場に入れる。
「お兄ちゃんたち遅刻。」と海が駆け寄って来た。
「ごめんごめん、道が混んでたんだ。」
九条はそう言って膨れる海のほっぺたをみょーんと伸ばしす。
「じゃあ、打ち合わせ通りに。柊平くんと海くんは徳田先生のガード。犯人に気づかれると厄介だから気配消して行ってね。」
と海の方を見る。
海は「任せとけ!」と言わんばかりに大きく頷いた。
「そして、私と天くんと坂本くんが栗山の所に行くチーム。坂本くんは私が呼ぶまで影で隠れていて。危ないから。」
「わかりました。」と坂本が頷く。
「それじゃあ、頑張ってね。」
九条がそう言うと彼らは二手に別れていった。
「栗山ならこの時間、空き教室で自習していると思います。」
そう言って坂本が4階にあるそこまで階段を登り始めた。
(自習室にも図書室にもいなかったのか、道理で見つからないはずだ。)
門叶が心の中で呟く。
4階についてそこの教室ですと坂本が案内する。
中には坂本の家から出てきた彼と同じだった。
教室にも廊下にも誰もおらずただ黙々と問題集に向かっていた。
坂本を廊下に残し九条と門叶が彼の元に歩み寄った。
栗山は彼らの方をちらりと見ただけでまた問題集に戻っていった。
「こんにちは、栗山くんで間違いないかな?」
門叶が尋ねると問題を解く手を休めずに彼は言った。
「人の名前を聞く前に自分の名前を仰ったらいかがですか?それに新任の先生にも見えませんが不審者ですか?」
ピリっと張り詰めた声で彼は言った。
門叶が困ったように言い直す。
「僕らは警察官です。僕の名前は門叶と申します。昨日、坂本くんの家の前であったよね?」
「覚えてないです。」
栗山は冷たく言い放つ。
「そっか、じゃあ質問を変えるけど今、この学校で続いている連続事故。犯人は君だよね?」
門叶が聞いた。
「なんのことかわかりません。貴方が今ご自分で『連続事故』と仰っしゃりましが?」
「うん、だからその事故を故意に起こしているのは君だろ?」
もう一度門叶が聞く。
「事故は過失から起こるのであって故意に起こしたらそれは傷害でしょう?」
栗山の言葉に門叶は困ったように薄ら笑みを浮かべた。
「それじゃあ、その傷害事件の犯人は君だね?」
「証拠でもあるんですか?」
間髪入れずに栗山が聞き返す。
その問いには九条が、答えた。
彼は栗山の前に椅子をひき、座った。
「証拠はないけど根拠ならあるよ。」
その言葉に栗山の表情が微かに曇る。
「君が今使っているその力は『残留ギフト』と呼ばれている物だ。まあ、人非ざる力とでも思っていてくれればいいよ。」
「君はその能力を使ってまず最初に松村先生を失職させる『呪い』をかけた。君がそれを手にして、『辞めてしまえ』とでも思ったのかもしれない。一週間後には松村先生はとんでもない形で辞めることになった。さぞかし驚いただろう。次になんかしらの原因で佐藤千秋に『大怪我でも負え』何て思ったのかもしれない」
「君が念じたら願いが叶うそんな力でも手に入れたかと思ったかい?だけどねその能力は君の陰鬱した願いに『呪い』として反応するとても危険な物なんだ。私達に預けてくれるかい?」
そう九条が言うと栗山はさも可笑しそうに高笑いを始めた。
「何を馬鹿なこと仰っているんですか?そんなものある訳ないじゃないですか?!」
「万が一にも僕にそれが憑いているとして、何の証拠になるですか?思ったに違いないってだけじゃないですか。」
栗山の言葉に九条が嬉しそうにニヤリと笑う。
「今、君『憑いている』って言ったよね?どうして君は『残留ギフト』が憑くとわかったんだい? 理由は唯一、君がそれを手にしているからだ。」
栗山はギョッとしてたじろいだ。
それを更に九条が追い詰める。
「それはだんだん君の思考を奪っていく。無駄に怒りやすくなって、最終的に全ての事象に怒りを抱く。最初の君の怒りは正しくてもそれが復讐に変わった時点で君の負けだ。」
「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!」
栗山が頭を掻きむしる。
「何も知らなくせに五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!!!」
「僕の前から消えろ!!!!!!」
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