第24話 学校の七不思議ご

自習室のあまりの静けさにたじろぐ。

門叶が月城に耳打ちをした。


「柊平くん、ここはやめておいて図書室のほう行こうか」


月城も頷く。

図書室も静けさに包まれてはいるが、先程の様な張り詰めた様子とは違っていた。


「…すごかったね。」


門叶が関心するように言う。


「僕、一貫校であんまり縁がなかったから知らなかったけど高校受験ってこんな感じなのかな?」


門叶の問いに月城が答えた。


「僕も公立狙いだったんで結構大変だったかもしれないです。推薦とれないと大変で…。」


「なるほど…。」


そんなことを小声で話しながら図書室の中を闊歩する。


「海、この中に3年生いる?」


海は軽くあたりを見回して言った。


「3年生は上履きの色が赤いから、あの人達とか…。」


そう言って女子数名がかたまっているテーブルを示す。


(なるほど、上履きの色で別れていたのか。)


月城が上履きに注意してみると赤以外にも青、緑があった。


海が中1で緑色だから、中2が青色かな…。


そんなことを思っていると門叶が先程の海が言った学生たちのテーブルに近づいて行った。


そう言って小声で「ちょっといいかな?」と聞いた。


矢張り彼女らの反応はさっき下であった子達と一緒であった。

あまりのテンションの上がった大きな声に

「しー!」と門叶が口元に指を当てる。

その仕草にも「ヤバい、かっこいい」などの声が聞こえた。


「君達、3年生であってるかな?」


「はい。」と口々に返事をする。


「僕たち警察の者なんだけど、ちょっとお話聞いてもいいかな?」


それを聞くと今まで浮き上がっていた空気がすっと引き戻された。


「それって佐藤達のことですか?」


一人が恐る恐ると聞く。

その言葉を門叶が聞き返す。


「それってどういうこと?」


「いや、違ったんならいいです。」

とその子は手を大きくふる。


「そうじゃなくて、どうして警察と聞いたらその佐藤くんたちの名前が出てきたのかな?」


門叶がゆっくり確認する様に聞いた。

別の一人が話し出す。


「だってあいつら結構エグいイジメやっててそろそろやばいんじゃないかって言ってたところだったか…。」


「なんか佐藤は地元の大地主?かなんかでめっちゃ学校に顔きいて先生たちも文句言えないくらい…。松村とか私達にはキモいくらい言ってくるのにアイツらには何にも言わないし。」


「元野も佐藤にずっとくっついてる金魚の糞みたいな奴のくせに、しかもどっちも顔別に良くないのにモテて困るみたいな感じで言い寄ってくるし。」


彼女らはその言葉に「わかる!」と一斉に言った。

「じゃあさ、」と門叶が彼女たちに聞く。


「そのイジメられていた子って誰か教えてくれる?」


「ああ、栗田とかそのへんだよね?」

とお互いに確認してから門叶に言った。


「栗田っていう子が特に酷かったと思います。あとその子の友達もいたんだけど今不登校だし。」


そう言って彼女は集合写真を拡大して見せた。


「この子だよ。」


指された子は少し暗そうなもっさりとした男子が写っていた。


月城と門叶はお互いの顔を見合った。

確かに烏丸の言っていた特徴と当てはまる。

更に門叶が尋ねた。


「この子、体育でどんな感じ?」


「私達の教科担任、松村だから凄い締められようだったよ。なんかもう可愛そうになるくらい。一人で残ってグラウンド走らされたり…。」


「志望校とかわかる?」


「あー…。」と少し溜めてから答えた。


「確か特進クラスだったはずだから公立の難関校狙いじゃないのかな…。」


それだけ聞いて彼らは図書室の外に出た。


「条件だけならほぼ確定だね。」


「そうですね、本人に聞いてみます?」


少し悩んでから門叶が答えた。


「外堀から埋めていこう。今日はその栗山くんの友達のところ話聞きに行こうか。それに、徳田先生も週休でお休みみたいだし…。」



「職員室で教えてもらった住所はここだね。」


そう言って門叶が車を止めた。

そこは学校から1キロ程度離れた住宅地の一角だった。

彼らがインターホンを押そうとしていると中から一人、男子学生が出てきた。


「じぁな、栗山。」


と呼ばれたその子は軽く手をふって怪しげにこちらを見ながら出ていった。

おずおずとドアを半開きにして中からもう一人の少年が「何か御用ですか?」と聞いた。

門叶が警察手帳を見せて言った。


「警察なんだけど少しお話いいかな?」


その子は少し戸惑っていたが、「どうぞ。」と言って月城たちを家の中に迎えいれた。



「今、お茶持ってきますね。」と彼は忙しなく動く。


「どうぞお構いなく。」と返すがガラスのコップに注がれた緑茶がすでに運ばれてきていた。


「どうぞ。」と3人の前にお茶を置く。


門叶は礼を言って一口飲んでから言った。


「急におし掛けてごめんね。僕は門叶と言います。君は坂本秀明くんで大丈夫かな?」


そう聞かれると少年はしっかりと頷いた。


「単刀直入に言うとね、君の友人の栗山くんについて聞きたいんだ。それと、君をイジメていたっていう佐藤くん達のこととか…。」


佐藤の言葉を聞いただけで坂本の顔が青ざめる。


「無理そうなら話さなくても大丈夫だよ。」

と月城が声をかける。


坂本は首を大きく横に振っていった。


「大丈夫です。話せます。」


そして拙い言葉を紡ぐように話始めた。


「元々、気が弱くて佐藤くんたちに目をつけられたのは仕方ない事だとは思っていたんです。それでもあと一年もないし我慢しようと…。でも、栗山はそんな俺を助けてくれて、生徒指導の松村先生、徳田先生に言おうと。証拠も日記も揃っていました。」


「ちょっと待っててください。」と言って坂本は一つの日記を持ってきた。


そこには日付とその日のニュース、天気、そして何をされたかが克明に書かれ、時には痛ましい怪我の写真が貼られていた。

あまりの内容に3人とも絶句する。


「これは…。」


「これをその先生方に見せたんです。」


そして、坂本は涙を堪えるように嗚咽を吐いた。


「徳田先生はこんなの見せられても俺らは動かんぞって笑っててお前に気迫がないからだって、松村先生に至っては根性が足りないんだと体育での僕らの扱きが一層ひどくなりました。佐藤くん達にも告げ口したことが伝わっていたみたいで全治一ヶ月の怪我を負いました。」


そしてなきじゃくりながら月城たちに伝えた。


「僕は弱いから学校から逃げたけど栗山はまだ一人で戦っているから…。」


「…何か連続して起きてる学校の事故について何か知っているのかい?」


門叶が聞き返す。

坂本は横に首を振って言った。


「良くは知りません。でもなんか良くないことはしているのだと思っていました。毎日のように来てくれるのは変わらないんですげど、どんどん雰囲気も険しくなっていって考え込む事が多くなりました。」


そう言って深く頭を下げた。


「栗山をどうか助けてやってください。あいつは俺のたった一人の友達なんです。」


月城はひどく胸が苦しくなった。

15歳の少年が友人を助けてくれと頭を下げているのだ。

その気持ちを思うとそのやるせなさをどこに置いたらいいのかわからなくなった。


「大丈夫だよ、秀明くん。栗山は僕らが助けるから…。だからさ一つだけお願いがあるんだ。」


「もし、いつもの栗山くんに戻った時に君が彼を支えて上げてね。そこまでは僕らには出来ないから…。」


坂本は泣き晴らした目を擦り、覚悟のこもった声で返した。


「もちろんです。」


門叶が優しく笑って言った。


「明日、栗山くんのところに行くから。」


それを聞いて坂本が言う。


「俺も連れて行ってください。俺は何度も栗山に助けられました。今度は俺があいつを助けたいんです。」


その瞳には強い意志が光っていた。

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