第23話 学校の七不思議よん

翌日、月城と門叶はもう一度海の通う中学校に訪れた。

海もまた校門の前で待っていた。

車を停めて校長に軽く挨拶をする。

校長の大山は弱りきった表情て彼らに頼んだ。


「…どうか、よろしくお願いします。」


門叶は神妙な面持ちで「全力を尽くします。」と返した。

校長を出ると門叶の顔に微かな殺気が見えた。


(…天さんピリピリしてるな。)


門叶がこうなるのは珍しくない。

係の中でも年が近いこともあって捜査で組むことが多かった。

そんな中で捜査の重要局面に立つと彼の空気は一変する。

いつもの温厚な雰囲気とは変わり殺気とも感じれる張り詰めた空気が流れていた。


「お兄ちゃんたちどこからいく?」


海が伺うように聞いた。

部活動の生徒らしい活発な声と管楽器の音が聞こえている。


「うーん、とりあえず松村先生の教え子の所とか。担当クラスわかる?」


「担当クラスはわかんないけど顧問だった部活なら野球部だったよ。」


海が答える。


「じゃあ、まずそこからかな。」


それを聞くと海はグラウンドの方に連れて行った。



「休憩中にごめんね。」


門叶が野球部の生徒達に声をかける。

彼らは怪訝そうに門叶の方へ振り返った。


「警察のものなんだけど…。」


そう言って警察手帳を見せると急に彼らのテンションは跳ね上がった。


「うお!本当に見せるだ!!!」


「ドラマみてー!」


「スゲー本物だ!!!」


先程までの不審者を見る目から尊敬の眼差しに変わる。


(流石、中学生…。)


「皆に聞いて回っているんだけどさ、松村先生ってどんな先生だった?」


松村の名前を聞くなり、場の空気が失笑に変わる。

一人が口を開いた。


「多分好きだった奴いないですよ。なんかいっつも変なノートもって何かするとすぐ減点…。好かれている訳がないですよ。」


「自分で『閻魔帳』って呼んでドヤってるのキモかったし。」


「俺なんか体育で準備運動で腕を大きく上げなかっただけで減点ですよ?バカじゃねーのって思ってました。」


別の生徒も続ける様に言う。


「俺らにいっつもそんなんなのに夜な夜な悪戯してたなんて、ストレスでも溜まってたんかなって。」


その言葉にその場にいた全員が笑い転げる。


「確かに、『ざまあ』って思った。」


「ほんとそれ。」


彼らは口々に悪口を言った。


(なるほど、失笑した理由はこれだったのか。)


松村の話で盛り上がる野球部一同にお礼を言って次のところへ向かう。

校舎に戻り休憩中の管弦楽部の生徒を捕まえて話を聞いた。


彼女らは門叶の顔を見るなり

「ヤバい、ヤバい。」と照れてお互いの後ろに回りだんだん後退していく。


確かに門叶は一見モデルかと見間違われる程のスタイルと顔である。

年頃の女子中学生が、見たら騒ぎたくなるのも無理はない。


彼女らの歓声を聞きつけて他の女子生徒たちもわらわらやってくる。

門叶が「こんにちは」と微笑むとそれだけで黄色声が上がった。


「こんにちは、警察の者なんだけどね。」


そう言って声を低めて聞いた。


「松村先生ってどんな先生だった?」


それを聞くなり「ああ…。」と嫌そうな空気が流れる。

一人の女子生徒が門叶に言った。


「あの人気持ち悪いから嫌いだった。正直いなくなって清々したって気持ちはある。」


「気持ち悪いって?」


門叶が聞き返す。


「いつもの変なノートもって、にちゃにちゃこっちを見ていると思ったら『スカート短すぎないか』って言ってそのノートにチェックするの。」


そう言って「普通にキモい。」と身をよじらせた。


「なるほど…。逆に聞くけど松村先生に恨みを持ってそうな人って誰かな?」


すると口を揃えた。


「全員。この学校の全員。」


そう言ってさも可笑しそうに笑う。


「特に、松村先生の被害を受けていた人とかわかんないかな?」


困ったように門叶が聞く。


「うーん。」と一人が答えた。


「受験、公立の進学校狙っている組は辛いと思う。特に運動の得意じゃない子。」


「それはどうして?」


「高校受験に一番必要なのは内申点って言っても過言じゃないんです。もちろん体育の点数も含まれるんです。」


「あの人、運動出来ない子に対するあたりが特に強かったから…。出来ないのもやる気がないからだって感じで…。」


一人が苦々しく呟いた。


「脳みそ昭和野郎。頭が昭和のままアップデートされてないんだ。」


「アップデートって単語も知らないんじゃない?」


その言葉にその場の全員が笑い転げた。



「うーん。なかなかなの嫌われ様だね…。」


門叶が面白そうにつぶやく。


「誰に聞いても出てくるのは悪口しかないですね。」


学校の中とは言えども全校800人以上から一人のしかも証拠の残さない犯人を見つけるのは至難のわざだ。


「唯月さんが何にも言ってこないってことはまだ未来が視えてないってことなんだよなー。」


「ギフテッドだと能力がわからない限り囮も意味をなさないですしね…。」


そう言って困り果てた顔で海を見た。


「なんか、いい案ある?」


海は少し考えてから答えた。


「とりあえず松村先生を恨んでいる人って多分、3年生だと思う。受験も控えててストレスも溜まっているだろうし。」


月城が同意した。


「確かに、彼女たちの話でもそんなこと言ってたね。」


海は続けて言う。

「3年生が勉強しているところなら自習室か図書室だと思う。」


「とりあえずそこ行ってみようか。『今日も収穫ありませんでした。』とは言えないしね。」


門叶は大きくため息をついて階段を登り始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る