第22話 学校の七不思議さん

対能課に戻ると時刻はすでに6時を回っていた。

月城は海に帰るよう促したが、

「やだ。」と頑として帰ろうとしなかった。


会議室に1係の鼓を除くメンバーと海が集められた。

門叶が口を開く。


「今回の都立鳥間第二中学校の事件は唯月さんの読みどおりギフテッドが関わっていると考えていいと思います。」


そう言ってプロジェクターにあの渡り廊下の写真を写した。


「これが今日起きた事故です。ガラス片を鑑定に回してますが何も発見されないと思います。」


九条が「こりゃ壮観だね。」と笑う。


「笑い事じゃないですよ!」


門叶が語尾を荒げて言う。


「こんな仕業が出来る能力者が学校という閉鎖的な空間で野放しにされているんですよ?」


「確かに問題だね。」


烏丸が眉間にシワを寄せていう。


「これの攻撃対象は誰だい?それによって話は変わる。」

烏丸の問いに申し訳なさそうに門叶が答えた。

「それが、生徒への聞き込みの前にこの事件が起こってしまって…。まだ被害者の正確な情報もつかめていないです…。でも、あの状況だと犯人にとって僕らは初めて見る相手だし、海も転校して間もない。となると徳田先生と見て間違いないと思います。」


萎れる門叶を慰めるように九条がいう。


「まあ、『私のテリトリーに入るな。』と言わんばかりの惨状だからね。退いて正解だと思うよ。」


「それにこれを見てください。」


そう言って門叶は松崎のノートを取り出した。


「これだけは唯一、聞くことができました。」


中のページを確認させるようにペラペラとめくる。


「これは最初の悪戯の犯人として捕まえられた松崎先生が毎日つけていたノートです。他の先生方に確認したところ本人も『閻魔帳』と呼ぶ生徒の授業態度に関する減点事項などを詳しくつけていたみたいです。」


その執拗とも言えるまめさに舌を巻く。


「こんなにネチネチと書かれていたらこれだけで恨みたくもなるね。」


九条が言う。


「特に減点の多い生徒を中心に明日聞き込みをしたいと思っています。」


門叶の言葉に九条が疑問を呈す。


「でも、授業が原因なら他の生徒が怪我をしている理由は?」


「それなんですよねー。」と門叶は悩ましそうに頭を掻いた。

暫く、椅子に座ったままスマートフォンをいじっていた海が口を開いた。


「学校の子たちに色々聞いてみたんだけど…。」


そう言ってホワイトボードにどんどん名前を書き込んでいく。



「松崎先生のあとに最初に怪我をしたのは佐藤千秋っていう2年生。教卓に置いてあった濃硫酸を腕にかぶったらしい。」


「評判はあんまり良くなくて仲間と共謀して同じクラスの子に万引させたり色々やっていたらしい。」


【佐藤千秋 実験中に濃硫酸で火傷】

と書き込む。


「次にあったのは元野光輝。この人も佐藤千秋の友達の一人。この人は階段から落ちて骨折。」


【元野光輝 階段から落ちて骨折】


「3人目は僕の知っている先輩でリュウト先輩。3年生。この人は今、老朽化で立ち入り禁止になっている旧倉庫のそばで頭に瓦礫があたって倒れているのを発見された。」


【リュウト先輩 頭を打つ】


それを見て月城が海に尋ねる。


「どうしてその人だけ『リュウト先輩』なんだ?」


海は一度、自分の書いた文字を見直して笑って言った。


「皆がリュウトって呼んでいるからフルネームわかんないんだ。」


(…なるほど。)


「そして、四人目が柴田友樹。1年生。よっかかっていたベランダから急に落ちたらしい。目撃者によると本当にバランスを崩したようにしか見えなかったって。」


【柴田友樹 ベランダから転落】


「彼もあんまりいい雰囲気の奴じゃなくて、柴田の兄が有名なヤンキー校でヤンキーやっているって鼻にかけてて結構嫌な奴。」


月城は海が嫌な奴って言うなんて相当だなと思いながら話を聞く。


「そして最後が田所真也。これも柴田の友達。学校の購買の配達するトラックの後ろに引っ掛かって十数メートル引きずられたらしい。」


【田所真也 交通事故】


「こいつも嫌な奴だよ。2人揃わないとなんにもできないくせに。」

と海が顔を顰めさせた。 


「5人とも命に別状はないけど一歩間違えば危険だった…。って感じらしいよ。」


海がそう言って席に戻った。


「海くん、ありがとう。」


九条がお礼を言う。


「だけどなー、こんだけ並べても接点みつからないくないですか?」


門叶が半分諦めた様に言う。


「いや、そうでもないよ。」


そう言って烏丸はその目を鈍く光らせた。


「この情報から推察出来る犯人像は1つ。『内気しかし内面のプライドはとても高い』これに絞られる。」


「どんなギフトかはまだわからないがやり方がとても慎重だ。この中の5人中2人ずつが友人どおしならまとめて事故らせることもできたはずだよね。でもそれをしなかったてことはとても慎重であると言える。」


「だけど手口があまりにもおおっぴろげなんだ。もし、気づかれないように嫌な奴に痛い目合わせようと思ったら場所を変えるか、逆に特定の場所で時間を空けて行うのが普通だろ?」


烏丸の言葉に全員が頷く。


「だけど学校という特定の場所で事故と言うにはあまりにも事例が特殊だ。」


「そこで3つの仮説がたてられる。」


そう言って烏丸は指を3本立てて見せた。


「1つは特定の場所でしか発生出来ないギフト、もう一つは噂になるようにわざわざ同じ場所で行っているか、若しくはそのどちらもか。」


「どちらもとはどういう意味ですか?」


月城が尋ねる。


「犯人は自分のギフトが特定の場所でしか発生しないのを知ってなお学校で行うことに固執しているか。」


「どちらにしてもその下に潜むのは奢りとも高慢とも言える恐ろしいほどの自己顕示欲…。」


「慎重とも内気とも言える計画とそれを上回る、偶発性の不自然さ。これは犯人自身の内面が矛盾しているにほかならない。」


そう言って烏丸は一回溜めてから月城たちに言った。


「明日はその線で調べてみてくれる?」


「了解。」と3人の声が揃う。


「あと、その徳田先生もマークしておいたほうがいい。一回狙われたなら二回目がないとは言い切れない。」


九条が海たちに言う。


彼らは自信満々に大きく頷いた。

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