第21話 学校の七不思議に

翌日、門叶と月城は海の通う中学校の前に来ていた。


『能力者は思春期に暴走しやすい。もしかしたらギフテッドの仕業かもしれない。』


という烏丸の言葉が思い出される。


(…ギフテッドの可能性。)


月城はなんとなく憂鬱な気持ちになり、何でもないように頭をふった。

校門の前で海が待っていた。

彼らの姿を見るなり大きな手く振って「おーい」と呼びかけた。


「ああ、海。授業はもう終わり?」


授業が終わった16時頃、殆どの生徒が部活をしている。


「そういば、海は部活していないの?」


月城が尋ねる。


「まだ、決めてないだ。この学校は強制的に所属しないといけないって訳でもないし…。」


「海なら引く手あまただろう?」


門叶が聞く。


「うーん、色な子に誘ってもらって色々見学に行ったけどどれもいまいちって感じかな…。」


海は困ったように言う。


「まあ、部活だけが学校じゃないしね。」


そう門叶が言うと「それもそうかー。」と笑った。

来賓用のスリッパに履き替え海に連れられ校長室へ向かう。


「失礼します。」


そう言って門叶はガラガラと校長室の扉を開けた。

月城も「失礼します。」と言って中に入る。

中には白髪の混じった50代くらいの男性が座っていた。

机に校長と札がたてられている。

彼らの顔を見ると立ち上がり、目の前のソファーに座るよう促した。


「私は指定特殊能力対策課、門叶と申します。」


そう言って門叶が警察手帳を見せる。

聞き慣れない課に少し不思議そうな顔をしたが、校長は校長らしいよく伸びる声で言った。


「私はここ東京都立鳥間第二中学校の校長をしております大山と申します。」

「捜査というのはここ最近続いている事故のことでよろしいのですか?」


「はい。ここの調書を拝見しまし全て事故ということでしたが、そちらの捜査とは関係なく別の件からこちらの連続している事故について調べに参りました。」


「別の件とはお聞きしてもよろしいのでしょか?」


大山が尋ねる。


「申し訳ありませんが捜査機密ですので…。」


「…そうですか。ここ一週間続く事故にこちらとしても対応に倦ねておりまして、『厄払いに加持祈祷でもしてもらうか』なんて話が出たほどです。」


そう言って門叶たちに深く頭を下げた。


「捜査よろしくお願いいたします。」



校長室を出た二人は隣の職員室へ向かう。

海の後ろについて職員室の中に入っていった。

部活動の指導のためか中にいる教師の数はそこまで多くない。

整然と並べられた教師机とパソコンと、雑然と積まれたプリントの山に懐かしさを覚える。


「職員室、なんか懐かしい。」


門叶が月城に囁く。


「僕はこうやって客として入るのが変な気持ちですね。」


そんなこと言っていると「こっち、こっち」と海が手招きをした。

海が待っていた席は例の生活指導の教師の机だった。


「ここが松村先生の席。」


机を開けると体育の先生らしくストップウォッチやらがしまわれていた。


「ねえ、柊平くんこれ…。」


門叶が呼びかけるので手を止めてそちらを見る。

門叶が手にしていたのは一冊のノートだった。


「それがどうかしたんですか?」


門叶は中を開いて見せる。

見開きに生徒の氏名と日付の書かれた表が何ページにも渡って記されている。

表の中には正の字でバラバラに数が書かれていた。


「…これは?」


「多分、生徒の減点表だよ。ここまで厳密にやっているなんて…。」


「海はこれ知ってる?」


門叶が海に尋ねる。


「松村先生自体よく知らないんだ。」と首を横に振った。

その他にめぼしいものはないのでノートだけを手にとって外に出る。


「…もしかしたらこれが原因かもね。」


「それでも他の生徒に怪我させる理由にはならないですのね?」


「そうなんだよね。」と悩ましい顔をして門は言った。


「それでも一応、他の生徒に聞いてみてこれが何なのか、もし閻魔帳なら特に減点数の多い生徒に聞いてみよう。」


門叶の言葉に月城、海は大きく頷く。


「おい、鼓こんなところで何しているだ?」

と通りすがりの先生に呼び止められた。


「あ、徳田先生…。捜査のために学校を案内しているんです。」


そう海が答えると分厚い眼鏡を押し上げて言った。


「捜査?なにの?」


「この学校で連続的に発生している事故についてです。」


門叶が答えた。

すると、徳田と呼ばれた教師はゴミでも見るかのように門叶の方を見た。


「お前はそんなチャラチャラした格好をして本当に警察なのか?」


確かに門叶の格好は一見警察には見えない。

髪は茶色で長く、耳にはピアス、今日は流石にスーツを着ていたが遠目にはホストにも見えるだろう。


「僕らは警察と言っても特別部署ですので…。」


門叶が苦笑する。

徳田は鼻を鳴らして言った。


「事故と言っても素行に問題のある不良たちじゃないか。ただの天罰じゃないのか?それにお前らも本物かどうか怪しいしな。」


徳田の嫌な目線が彼らに絡みつく。

その言葉に海が噛み付いた。


「お兄ちゃんたちは警察官だし、不良じゃない!!それに、先輩も怪我をしたのを天罰とかいって笑う人間よりもクズじゃない!」


海の言葉に徳田の顔が歪む。


「お前、そういえば鈴木達とよく話していたな。」

「付き合う相手は選べよ。いくら成績が良くてもクズに足を引っ張られちゃ世話ないからな。」


海の首に怒りで青筋が立っていた。


「そんな言い方…!」


と月城が言いかけると彼らのいた渡り廊下の窓ガラスがこれでもかとたわんでいるのが目に入った。


「伏せろ!」


門叶が大声で叫ぶ。

「え?」っと動かない徳田を引っ張り床に押し付け、門叶の『影』が全員を覆った。

その瞬間、パリンパリンパリン、ガシャン!!!

と言うと轟音が響いて渡り廊下の窓ガラスが全て割れて散っていた。


「誰だ!!!」


と徳田が窓の外を覗く。

しかし、ボールがあたった様な割れ方ではない。

徳田が門叶に掴みかかった。


「お前らが何かしたのか?!」


「僕らではないですよ。」


静かにそう言って胸元から手を外させた。

物音を聞いて他の先生達が集まってくる。


「どうしたんですか!これは!?」


騒ぐ教師たちに月城が言った。


「警察です。暫くここの保存をお願いしたいのでここを封鎖していただいてもよろしいですか?」


教師たちは月城の見せた警察手帳に驚いた顔を見せる。


「わかりました。」


教師たちの中でも比較的年配の一人が他の教師たちに指示をだし始めた。

月城は「よろしくお願いします。」と会釈して門叶の元に戻る。


「何か、仕掛けがありそうですか?」


割れた破片を一つ一つ眺めながら門叶が答える。


「それが元々入ってたようなひびもないし薬品の匂いもしない。しかも、一方通行に吹き飛ぶんじゃなくてどちらも内側に向かって割れている。一応一部を持って帰って調べてもらうけど…。」


そう言って海と月城を交互に見た。


「ほぼ確実にギフテッドだね。人間業じゃない。」


彼らの顔に緊張が走る。

門叶は深いため息をついて言った。


「今日のとこはここまでにして情報を精査してもう一度こよう。これ以上つっつくともっと酷いことになるかもしれない。」


「…そうですね。」


ガラスの破片をいくつか包み、校長室に挨拶をして帰り車に乗り込んだ。

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