第18話 烏丸の話いち

「そういば、課長と唯月さんってどうしてあんなに仲良しなんですか?」


月城が門叶に尋ねる。


「仲がいいってよりも唯月さんが唯一、懐いている相手って感じかな。この課の創立メンバーだしね。」


「…そうなんですか。」


確かに烏丸の様子は課長に対する忠誠の様にも見えた。


「そんなことよりも問題はこっちでしょ。」


そう言って真新しいファイルを叩いた。

その中身は歌川義弘についてのものであった。


「特殊能力者排斥派の過激派グループ『日本の朝日を愛する会』リーダー。いくら聞いても仲間の居場所を吐かないで小山田さん達が苦労しているよ。」


そして弱りきった表情でつぶやいた。


「仲間の所在がわかればまとめてテロ等準備罪でしょっぴけるんだけどね。」


「大変ですね。」


月城が口調を合わせるように少し笑うと、門叶は彼の肩を揺すって言った。


「そんなに無関心で居られないんだよ?あいつら事あるごとに噛み付いてきてしかも一般市民だからそんなに重い罪にもならないし。」


「とっにかくっ面倒くさいんだよ!!」


そう言って「面倒くさい!」と頭をかきむした。


(…確かにそんなのに絡まれたら大変かもしれない。)


そんな話をしていると烏丸が一人、退勤するのが見えた。


「あれ?唯月さんがこんな時間に帰るなんて珍しいですね。いつも課長に付き合って結構な時間までいるのに。」


「確かに、まあこんな時間と言っても普通なら退勤の時間なんだけどね。」


そう言って「ブラック、ブラック」と深いため息をついた。



烏丸は一人、錦糸町の裏路地を歩いていた。

どんどん人気のない方へ進んでいく。

烏丸の足がある店の前で止まった。

そこには狭くこじんまりとしたバーがあった。

ガランガランと客の来訪を伝える鐘がなる。

店はすでに超満員であった。


「あっ、待ってたよ!」


一人の男が烏丸の顔を見て手をふる。


「こっちにで飲もうよ!今日は貸し切りでパーティーだから。」


そう言って烏丸の肩に腕をやると呼びかけるように言った。


「みんな!唯月が来たぞ!」


「さあ、グラスを持って唯月も!」


そして叫んだ。


「何でもない出逢いに乾杯!」


男がそういうと他の参加者たちもグラスを掲げ口々に言う。


「乾杯!」


静かに座る烏丸に男が声をかける。


「さあ唯月、そのしかめっ面はやめて今夜は楽しもう!」


「一応確認しておくけど成人だよね?」


烏丸の幼い見た目に他の男たちも軽口を叩く。


「一応ね。」

と烏丸もニヤリと笑う。

酒の入った男たちはこれでもかという大笑いを見せた。

パーティーは和やかに騒がしく進んでいった。

彼らのうちの何人かは数日前に別のバーで出会い意気投合した仲だ。

他の仲間も紹介したいということでこの宴会は開かれた。



『他の仲間も紹介したいから今度、飲み会開いてもいいかい?』


『もちろん』と烏丸が頷き、言う。


『僕の行きつけでいいお店を知ってんだ。そこならマスターとも顔が聞くから。そこでもいいかい?』


男たちは少し戸惑ったような顔を見せたが『君に任せるよ』と言った。

そうして開かれたこの宴会も終盤に近づいていた。



「そろそろお開きにしようか。」


幹事の男が言う。


「次の店はどこにする?唯月も行くんでしょ?」


別の女が烏丸の腕を引っ張り聞く。


「そうだ、もちろん唯月も行くよな?遅れてきて飲み足りないだろ?」


別の男も言う。

烏丸は引っ付く女の腕をほどき口を開いた。


「それは僕を何処に連れて行くつもりなのかい?」


彼らの顔が凍る。


「何処にって?」


「だから、僕の身柄をどうしたいんだい?」


烏丸は喉元を鳴らすように笑いを噛みしめ、言った。

彼の言葉に呼応するように全員が胸元から拳銃を取り出し、烏丸の頭に突きつける。


「どうしてわかったの?」


「こうなるのは僕の中では『決定された未来』だったからだよ。」


「そう」と静かに微笑んで女は言った。


「わかっているなら話は早い。我々のリーダーを保釈させて。貴方ならできるでしょ?指定特殊能力対策課課長補佐、烏丸唯月!」


烏丸は澄み切った声で聞き返す。


「君らのリーダーとは歌川義弘のことかい?」


「そうに決まっている!」


女は語尾を荒げる。


「それはできないと言ったら?」


女は嘲るように笑った。


「そんなことを言ってられる状況か考えろ。」


無数の銃口が烏丸を狙っている。


「君にそんなことを言われると悲しいな。」

烏丸が女に言う。


「我々は出会う前から貴様を狙っていた。我々のリーダーが逮捕されたその瞬間からな!」


硬く冷たい声で烏丸が聞く。


「逆に聞くけど仮に歌川を釈放させたとして君らは僕らギフテッドを狙うことをやめないでしょ?」


「交渉になってないよ。」


そう鼻で笑った。

女は更に激昂する。


「これは交渉ではなく脅しだ。リーダーを開放しろ。そしてギフテッドはひとり残らず消えるべきだ。」


「どうして?」


烏丸が聞く。


「ギフテッドが一般市民の生活にとっての脅威であるからだ。人が持つべきでない力は封印するべきだ!」


「じゃー、君たちは天才的な才能も封印すべきとか思ってんの?」

「馬鹿馬鹿しいね。」


女は怒りで回らなくなった舌で叫んだ。


「黙れ!!この化け物共が!!!!」


「早く我々の指導者を開放しろ!!あの方はこの世界を憂いておられるのだ!」


烏丸の顔から笑みが消えた。


「残念だよ。君とは仲良くなれそうだったのに。」


女は怒りで充血した瞳を開き言った。


「そうね残念ね、唯月」

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