第16話 台風の帰還ろく
「唯月さん、定位置につきました。追跡は車がかざ、3台です。」
門叶が唯月に指示を仰ぐ。
「もう少し引っ張って人気のないところで叩くでいいですか?」
「うん。それでよろしく。」
そう言い唯月が席から立った。
「渚、他の妨害はありそう?」
「んにゃ、視界良好!その調子だと天の方も無事そうだし、九条に至っては心配してもこちらが損をするだけだ。」
と豪快に笑う。
「問題はなさそうだね。」
そう言い烏丸は一つの古びた鍵を取り出した。
どうやっても会議室の鍵とは違うそれをドアの鍵穴に差し込んだ。
『鉄狸』
静かにそう呼ぶとカチャカチャとドアの形が重そうな金庫のドアに変わる。
それを器用に右に左にと回していく。
『鉄狸』は残留ギフトとして対能課の危険物の保管庫として使われている。
鍵と鍵穴さえあればどんな扉でも鉄狸の入り口に変わる。
ギッと重苦しい音を立てて鉄狸の扉が開かれる。
中は普通の保管庫のようでかすかに壁が波打っている。
特定のもの以外が侵入すると、鉄狸の一部に組み込まれてしまう。
そんな仕掛けが施されているらしい。
物騒な銃火器の奥の一角に『画竜点睛』を置いた。
(…暫し眠れ。)
そう心の中で呟き唯月は外に出た。
そして、にやりと笑い一言
「任務完了、僕らは柊平くんを迎えに行こうか。」と言った。
(…流石にやすやすとは帰れないか。)
門叶は一人つぶやく。
人気のない場所で車を止めた。
烏鵜組の者らしい黒塗りの車が続々と止まる。
(唯月さんがこの中にギフテッドはいないって言ったな…。)
「『幻影跋扈』片付けろ。」
車の影が使用者の意思を反し動き出し積み上がる。
中から這い出てくる人々を自らの影が縛り本体を縛り上げた。
「これで連絡がくるまで待機っと。」
そう言い車のフロントに座った。
「ぐおら離せ!!!!」
「離せどアホ!」
動けない男たちから汚い罵詈雑言が飛んでくる。
「『幻影跋扈』黙らせろ。」
ため息を付きながらそう命じる。
スルスルと影が登り男たちの口を塞いだ。
「はあ、この人たちの見張りは気が重い…。」
そう言って諦めるように天を仰いだ。
「唯月さん早くしてくんないかな…。」
九条はすこぶる機嫌が悪かった。
顔はニコニコしていたがすこぶる機嫌が悪かった。
昼休み返上の業務に昼に、食べたかった月に一回の「いちごのスペシャルクリームパン」を買い逃してしまったこと。
そして、目の前に世界一嫌いな男がいること。
すこぶる腹が立っていた。
「私はね今すっごく虫の居所が悪いんだけど日を改めてくんない?」
世界一嫌われている男、嵐山尚弥は満悦といったふうに笑う。
「お前の神経を逆なでするためにわざわざ出向いてやったんだ感謝しろよ。」
彼が踏みしめた足元から地割れが起き、九条の足元を崩す。
そのままで地割れで出来たコンクリートを彼の真上に振り落とす。
「『饕餮』」
獣が現れ瓦礫全て飲み込んでしまった。
「莫迦の一つ覚えみたいに…。」
「うるせぇ舌噛むぞ。」
九条の真横に急に現れた嵐山が彼の横腹を蹴り飛ばした。
「ギフトだけだと思うなよ。」
土煙の中から饕餮が牙を向いた。
「…くっ!」
瓦礫を饕餮の口を塞ぐように吹き飛ばす。
フラフラと
立ち上がり九条が言う。
「私はね尚弥。饕餮が強すぎるから体術は受け身くらいしか使わないんだよ。」
「…調子に乗りやがって。」
アスファルトを割り真下から九条を狙って飛び上がる。
「いくら、ギフトが強くても保持者がよえーって言っているようなもんじゃないか。」
「うん、だけどね君の動きは私には手を取るように読めるんだよ?」
そうケラケラと笑う。
「それより椿なんとかしといてよ、尚弥。いちいち噛み付いてきてきりがない。」
「しるか、あいつは姉御の部下だろ。」
軽口を叩きながらも戦いの手が止むことは無い。
あたりがどんどん廃材の山とかす。
(唯月さんからそろそろ連絡来るかな。)
九条のイヤモニから唯月の声が聞こえる。
『九条、天。無事終わったから帰ってきていいよ。』
(…了解。)
と心の中で呟き尚弥に呼びかける。
「こっちの用事終わったから帰るね。」
「おい、ふざけんな。」
そう言いながら九条の目の前に瓦礫の山を積み上げる。
「意味がないって…。」
饕餮がひとつ残らず吸い込む。
「バーイバーイ、ばーーーーか。」
そう言い残し隠していたバイクに乗り込んで行ってしまった。
「うるせぇ、とっととおっちね!」
嵐山は口汚く罵り中指を立てた。
「柊平くん…柊平くん!!」
朝雲が強く呼ぶ声がきこえる。
(…なんですか、連さん。うるさいなぁ。)
「柊平くん、意識を保って!」
(…僕は起きてますよ。いつも居眠りしている人に言われたくないです。)
「柊平くん!!これ抜くから麻酔かけるよ?痛み感じる?」
(…傷口があるという感覚が消える。)
痛くないと首をふる。
「…このパイプ抜くから海くん傷口抑えて。」
海が傷口をガーゼで圧迫する。
ズルズルと蛇が体の中をはえずりまわるような気持ち悪い感覚に顔をしかめる。
痛くはないが気持ちが悪い。
そしてパイプが抜けた傷口から血がどんどん流れ出し、ありえないほどの寒さが体を襲う。
『死を畏れ、生を渇望す。全ての命に祝福を』
体に熱が戻ってくる。
気がつくと傷口は完全に塞がっていた。
(…助かった。)
「柊平くん、栄養剤うっとくね。」
そう言って注射を取り出した。
「前々から思っていたんですけど、連さんって医師免許持っているんですか?」
ニヤリと笑って
「うーん、秘密」
と答えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます