第15話 台風の帰還ご
「柊平、ちょっと。」
と波風に呼ばれ2係の部屋に入る。
そこには壁一面にはめ込まれたモニーターとディスプレイがいくつもあった。
「ほい、これ。」
そう言ってスマホの様な手のひらサイズのデバイスを渡される。
「ここ電源ね。」
教えられたボタンを押すと地図と赤い点が点滅している。
「これは私のギフトと地図を組み合わせたものだよ。なんだったらこの部屋全部私のギフトで機能している。この点滅しているのが海だよ。迎えに行ってあげるんでしょ?」
(これがあれば海を追える。)
深々と頭を下げ波風にお礼を言う。
「お礼はいいから早く行ってあげな。」
と月城の背中を押す。
「はい!」
と一言返事をし、踵を返して走り出した。
波風から渡された機械で海の居場所を確認する。
旧東京卸売市場を示していた。
(あそこなら人も少ない。)
課のバイクに急いで乗り込む。
(海、待ってろよ…。)
旧東京卸売市場は立入禁止のテープが貼られ解体を待つばかりの建物が整然とと並んでいた。
立入禁止のテープを超え中に踏み入る。
「うみー、いるのか?うみーーー!」
返事はない。
どんどん奥の方へと進んでいく。
「うみー!?」
カタッと物音がしてそちらの方を覗く。
「うみ?!」
物陰に小さい影が見えた。
隅に怯えきった様子で隠れていた。
「海、良かったここに居たのか。一緒に帰ろう。」
そう言って海の方に手を伸ばす。
海は一向に手を取ろうとしない。
「…逃げてお兄ちゃん。早く!!!!」
焦った声で月城の体をグイグイと押す。
「おっおい、うみ?」
「早く!!…っ!!!」
そう言いかけて海の顔が恐怖の色で蒼く変わる。
「お兄ちゃん。早く逃げっ…」
「『鷹視狼歩』切り刻め。」
聞き覚えのある細い声が聞こえて無数のナイフが月城とを襲う。
(椿!!!!!)
ナイフを飛び避けながら月城が叫ぶ。
「どうしてお前が居るんだ、椿!!!!!」
「お前に答える義理はない。」
そう吐き捨てその猛追が止むことはない。
「なんで海を追うんだ!?」
「追う?俺はそいつを迎えに来ただけだ。」
コツコツと海の方に近づく。
「海は僕と帰るんだ!」
と海の腕を引っ張り自分の方に引き寄せる。
すると椿が皮肉そうに声高にせせら笑う。
「帰る?何処に?その殺人鬼が帰れる場所は血の海の中だけだ。」
(…海が殺人鬼?)
ことの真実を確かめるように海を見ると、今にも泣き出しそうな顔になり項垂れた。
「透、教えてやれ。自分が殺人鬼であると…。」
そしてこの世の苦渋を全て啜ったような笑顔を見せて言った。
「なあ?神代透?」
海は月城の裾を引っ張り蹴り飛ばされた子犬の様な顔で必死に首を横にふる。
「ち、違うのお兄ちゃん。騙そうとしたとかじゃなくて…。」
「何が違うんだ?」
椿の糸を引くようなねちっこい声が海を更に追い詰める。
「お前はわざと記憶喪失の振りをして対能課に入り込みそいつを撃って残留ギフトを盗んで逃げた。…まあ、ダミーだったがな。」
「違う…。違うの…。」
だんだんと海の声が小さくなっていく。
その瞳は絶望の色しか写していなかった。
感に触る椿の高笑いが響き渡る。
月城は海を抱きしめて言った。
「その話は後で聞くから、だから…。」
一息ついて覚悟を決めた様に語りかける。
「だから、今は君を守らせてほしい。」
海は大粒の涙を流し
「ごめんなさい、お兄ちゃん。ごめんなさい。」
と繰り返した。
「もう、謝らなくていいから。大丈夫だよ。一言『助けて』と言ってくれれば僕らは君を見捨てない。」
漏れ出る嗚咽を飲み込み海は言った。
「お兄ちゃん、助けて。」
酷く憔悴した海の頭を優しく撫で、椿を睨みつけた。
「その気色の悪い高笑いをやめろ。」
彼は何も映さぬ虚ろな瞳で聞き返す。
「これを笑わずして何を笑えばいい?」
「五月蝿い!その下品な口を閉じろ!」
『岩をも砕き、天を割る、その神速は麒麟をも超える。』
体が熱く、力がみなぎる。
地を踏みしめ拳に力をこめる。
椿の顔面をめがけ月城が拳を叩き込む。
「お前はどうしてそんなに海を苦しめるんだ?」
血で滲んだ口元拭い、椿が笑う。
「なぜ?面白いことを聞く。そいつが苦しんでいるのは己の業だ。俺が苦しめているのとはちがうだろう?」
「めちゃくちゃな事を言うな!」
月城が椿に殴りかかろうとするが彼の操るナイフが空を切り月城の足を切り裂く。
「逆に聞くが、なんの訓練もされていなかった子どもが一月拳銃の握り方を教えられただけで人を殺せるか?そいつのギフトがいくら暗殺に向いていたのしてもだ。そいつの血に流れているのは根っからの人殺しの血だ。」
(…それでも、それでも。)
「だったらなぜ、海に別の生きた方を教えてあげなかったんだ?」
「…そんな可能性は存在し得ない。なぜなら組に買われた以上組に有効な様に使うのは当たり前だろう?」
椿の猛追がやまない。
だんだんと月城の体に切り傷が増えてゆく。
しかし、その月城の顔には底知れぬ怒気に渦巻いていた。
「それだ。どうしてお前たちは人を物のように扱うんだ?意味があると意味がないとか、使えるとか使えないとか。どうしてそんなことをお前らが決めるんだ?!」
椿が答える。
「人を物のようにして何が悪い?この世界は所詮、食うか食われるかだろう?」
「だったらなぜ、海に救いの手を差し伸べない?お前ならできたんだろう?!」
「五月蝿い!どうして救ってやらなければならない?!」
「…それが大人だからだ。力のある人間が力のないものを助ける。」
「そんなこともわかんないのか!?」
「俺に助けてやる義務も義理もない。」
苦痛に喘ぐ様に椿は顔を歪めた。
「誰も救ってはくれない。差し伸べられた手は切り落とされた。なにのどうして九条や透は罪を負いながらそんな場所にいれるんだ?!」
「お前、可愛そうな奴だな。羨ましいんだろ?自分の見れなかった光の中にいる海を!」
「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!!」
「『鷹視狼歩』散らせ!!!!!」
数十のナイフやそのへんの廃材が飛んでくる。
「寂しいんだろ?羨ましいんだろ??」
「巫山戯るな!黙れ!!その口を閉じろ!!」
空を飛ぶ鉄材をよける。
が、死角から飛んできたナイフが一直線に月城の腹を狙う。
庇う片手を貫通し、それでもなお脈打つように動く。
(…くそっ!!)
するとドカン!とちょうど椿と月城の間を隔てる様に屋根が落ちてきた。
ドカン!ドカン!ドカン!と爆発音が続く。
「お兄ちゃん、逃げるよ!!」
そうは言うが足が言うことを聞かない。
海が僕を引きずるように担ぐ。
「僕の体を離さないで、そうすれば気配は気づかけれにくい…。」
表に出ると唯月と鼓、朝雲がバンに待っていた。
「早く乗って!!!」
朝雲が月城を抱きかかえ、海も車に乗せる。
「お兄ちゃん、死んじゃだめだよ。」
海が、泣きじゃくって僕を見る。
(…そんな顔すんな平気だから。)
血のついた手で海の頭を軽く撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます