第14話 台風の帰還よん

ふと目を覚ますと白い天井とベッドを仕切るカーテンに囲まれている。


(医務室か…。)


「柊平くん起きた?ご飯食べれそう?」


カーテンを開いて朝雲が顔を出す。


「弾が貫通してくれ良かったよー。お腹で残っちゃってたらそっちの方が大変だった。」


そう言い、「お水持ってくるね。」と出ていってしまった。


「柊平くん!元気?!」


烏丸が急にドアを開ける。

そのままズカズカと月城の横にたち彼のお腹をさすった。


「また怪我させちゃったね。」


少し悲しそうに俯いている言う。


「…ごめんね。」


思いもしない言葉に月城がたじろぐ。


「またって?」


「んー。この前の事件で椿が来ていたこと読み落としていたからあんな怪我になったんだし…今回も。」


あまりにも悔しそうに唇を噛みしめるので彼の顔を見たまま何も言えなくなってしまった。


「…ごめんね。」


また寂しそうにつぶやく。


「…唯月さんが謝ることじゃないですよ!僕が弱いから椿にも負けたんですし…。」


「それに、僕は唯月さんが先に教えてくれなかったらもっと大きな怪我してたかもしれないです。唯月さんのギフトに助けられたんです。ありがとうございます。」


そう言って深々と頭をさげた。


「…そう。僕も強くならなきゃ。こちらこそありがとう。」


一瞬だけ晴れやかな顔を浮かべ、そしていつもの狡猾な瞳に変わった。


「柊平くん、早く起きておいで会議始めるよ。」



「それじゃあ、柊平くん昨日の夜の話をして。」


月城は昼までずっと寝てしまっていたようだ。


「はい、概ね唯月さんの読み通りです。海はダミーのケースを持っていきました。」


月城の次に波風が続ける。


「海とケースに付けたマーキングは正常に作動しています。」


彼女は指定特殊能力対策課2係の波風渚だ。


『私は波風渚、マークした人間を地の果まで追跡するギフトを授かっている。よろしく。』


波風は昨夜、月城にそう説明した。


(なるほど、これで跡を追うのか…。)


烏丸が続ける。


「…万年筆が偽物なのはすぐにバレるだろうね。こっちがダミーを用意しているのもあちらの想定内だ。」


烏丸の言葉に疑問が浮かぶ。

「じゃあどうして海は持っていったんですか?」


「順番が違うんだ。彼らの目的は『我々が狙っているぞ』と僕らに示すこと。それによってこちらが急激に動くのを待っているだ。海はそのための言わば捨て駒だよ。」


月城の顔が曇る。


(あんなに苦しそうな顔をしていたのに。それが捨て駒だなんて…。) 


やるせない。

そうとしか言えない行き場のない悲しみが月城を覆う。


「僕らは奴らに『画竜点睛』を奪わせたりしないし、使わせもさせない。この勝負は僕らの勝ちだ。」


烏丸の口元に不敵な笑みがこぼれた。


(僕は、僕は…。)


烏丸が卓上に地図をひろげた。


「陽動は二人、九条と天、柊平くんで対応する。それぞれバイクとトラックと自転車で別ルートを辿る。」


そう言いながら地図に赤ペンでどんどん書き込んでいく。

九条と門叶が大きく頷いた。

「柊平くん?」と怪訝そうに門叶が覗き込む。


(僕は…。)


「僕は海を助けに行きたいです。海のもとに行かせて下さい。」


顔を強張らせて月城が言う。


「おねがいします。」


「…やっぱり君はそっちを選ぶのか。」


烏丸が諦めた様に頭をかく。


「柊平くんならそう言う気がしてたけどね。」


「どうする?」と烏丸が課長の顔をみる。

碇は良いとも悪いとも判断のつかない顔で考え込んでいた。

その沈黙がより長く重いものである様に誰も言葉を発することはなかった。


そして、目を光らせ烏丸に尋ねる。

「唯月、柊平に死ぬような未来は視えているのか?」


「五分、あとは不確定。ただ海の意志が彼の中でも定まっていないから読みようがない。」


「…そうか。」


そして一回深く瞬きをし、柊平の目を見た。


「やれるのか?」


間髪入れずに月城が答える。


「やります。海が僕を撃ったときにあの子は泣いていたんです。『助けて』と泣きながらで僕に訴えていた。…ここで彼を見捨てたら僕は僕自身を心から軽蔑する。」


「そんな人にはなりたくない。」


碇は月城の言葉を黙ってきいていた。

そして、「そうか」と静かに呟き、その顔が信頼に変わる。


「死ぬなよ柊平。」


「はい!!!!」


柊平の覚悟の詰まった声が会議室に響く。

碇の顔に肌の焦げそうな熱気を感じた。


「各自、一貫として己を付き通せ。誰も死ぬなよ。」


碇の言葉に全員が奮い立つ。


「行動は一斉に始めるよ。各々抜かりないように。」


烏丸が人の悪い笑みを浮かべ、言う。

「さあ、始めようか。」

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