第13話 台風の帰還さん
寝落ちた海を医務室のベッドに寝かし、会議室に赴く。
「海、寝ました。」
そう言い、月城も席につく。
課長も含めた1係の面々がすでに揃っていた。
それと見覚えのない女性が一人鼓の横に座っている。
女性は月城の方をちらっと見てそれからにこりと笑った。
月城も会釈でかえす。
(2係の人かな?)
「みんな、集まったみたいだね。」
そう言いながら鼓がプロジェクターの前に立つ。
「今日集まってもらったのは他でもない、例の残留ギフトについてなんだけど…。」
「あの、残留ギフトとはなんですか?」
恐る恐る月城が尋ねる。
「残留ギフトとは、ギフテッドが能力で作り上げた生物や武器が能力者の死後も残ってしまった物のことを言んだ。普通は能力者の死亡と共に消滅するんだけどたまに残ってしまうものがあるんだ。」
門叶の返答のに鼓が補足する。
「先日死亡したギフテッドの残留ギフトを回収しに行ってたんだけど…。問題はその保管場所なんだ。」
「ギフトで造られた生命体なら飼い主の元に送ってやればいいんだけどギフトで造られた武器だと活用方法があるから保管する様にしている。」
そういい、手に持っていたジェラルミンケースを開けた。
なかには鈍く光る万年筆が鎮座している。
「それはなんですか?ただの万年筆に見えますが…。」
「これは『画竜点睛』このペンを使って書かれた現象を実現させるギフトを持った能力者が遺した物なんだけどね、唯月のギフトが『未来を決定させる選択肢を見る能力』だとするならこのペンは『想定される未来を故意に決定させる能力』言えるね。」
(そんなものがあったら…。)
「そんなものがあったら世界を滅ぼせる?」
唯月が笑う。
「もし、空が言っていることが本当ならそれは不可能だ。なぜなら僕と言う存在が抑止力になるからね。」
それでもと烏丸は声を抑えていった。
「だけどもしこんなものが他の誰かの手に渡ったら大変だ。それこそ世界を滅ぼそうなんて考えるバカ共にね…。」
「だからね、残留ギフトの中にこの万年筆みたいに世界に莫大な影響を与えかねないものは『封印指定』と言われて厳重に封印し、保管されるんだ。」
(なるほど…。)
「逆に使われている物とかあるですか?」
「うんあるよー。例えば…。」
と烏丸は碇の肩に手を置く。
「課長の刀は残留ギフトだよ。」
烏丸の言葉に碇は静かに頷いた。
(…そうだったんだ。)
「そんなことより!」と九条が一回手を叩く。
「そんなことより、唯月さん。問題は海くんの方ですよね?」
烏丸が警戒するように僅かに目を細めた。
「海くん、烏鵜組の構成員だよ。」
烏丸の言葉に九条、碇を除く全員の顔がひきつる。
(海が烏鵜組の人間?)
「そんな莫迦な。あんな少年が組の人間な訳がない!」
月城が声荒く叫ぶ。
「…柊平くん。海くんが起きるから静かに。」
烏丸の圧のある声にたじろぐ。
「信じたくない気持ちはわかる。だけど彼は間違いなく構成員だ。目的はその万年筆。そして作戦の途中で君は彼に拳銃で撃たれる。」
あまりのことに頭が真っ白になる。
(海が僕を?)
弱々しい声で烏丸に聞く。
「それは決定事項なんですよね?」
「うん。」
「…それなら、その中に海が組から抜けられる未来はありますか?」
「ある。だけど彼がそれを望まない。」
やるせない虚しさに泣きたくなってくる。
涙を堪えるために口元が歪む。
「わかりました。僕のやるべきことを教えて下さい。」
朝もまだ開けない早朝に医務室のドアがカチャリと開いた。
皆まだ寝ている。
彼のギフトは『自分の存在感を自在に変化させる』こと。
誰も彼の存在には気づかない。
『画竜点睛』の入ったジェラルミンケースを手に取った。
「そこにいるのを海だよね?」
突然の言葉に海がこちらを振り返る。
「どう…して?」
か細い声を絞り出し、海が月城の顔を凝視した。
(唯月さんの予想通りだ。)
「…海、それを返して。」
海は黙ったまま俯いている。
「それは、作為的な誰かの手に渡ってはいけないものだ。」
海は頑として首を縦に振らない。
「うみ…。」と月城が声を掛けて近づこうとするとカチャっと拳銃を彼の方へ向けた。
苦しそうに拳銃を構える彼に月城が言う。
「海、大丈夫。君は一言僕らに言えば良いんだよ。『助けて』って。」
海の顔がどんどん哀しみと苦しみの渦を巻き、唇を苦しそうに噛み締めた。
「お兄ちゃん…。」
「ん?どうした?」と月城はしゃがみ優しく海の顔を覗き込む。
そうして、拳銃を手放すよう促す。
「いいんだよ、大人に頼って。そんなもの置いてこちにお出で。」
海が拳銃を下ろす。
その時、プルルルルルと電子音 が鳴り響いた。
(…携帯?)
海は音を噛みしめる様にギュッと目をつぶり再び目を大きく開く。
「…ごめんねお兄ちゃん。」
パーンと乾いた音が寝静まった警視庁に響いた。
自分の腹を触り滴る血の多さを確認する。
膝からガクッと崩れ落ちる。
傷口が熱くて仕方がない。
(…やっぱり唯月さんの言った未来は変わらないか。)
薄れゆく意識の中で海が泣いている様に見えた。
(なんて顔して泣いているだよ…。)
だんだん瞼を開いているのも辛くなる。
「…海、き、気にすること…ないから…ね。」
海は何も言わずに横を通り過ぎていった。
(…しっかり逃げ切れよ。)
そこからは何も覚えていない。
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