第9話 不思議な隣人ご

「柊平くん!こっち!!!」


表に門叶さんと大量のパトカーが待っていた。


「ここは小山田さんに封鎖してもらっているから。君たちは早く本部へ戻ろう。」


そして申し訳ないと僕に謝った。


「君が来たばっかで慣れてないのに一人で行動させてこんな怪我を負わせてしまうなって…。本当にごめんね。」


いきなりのことで面食らってしまった。


「いや、あの状況なら僕もそう言ってたと思います。僕には僕のやるべきこと、門叶さんは門叶わのやるべきことをやった結果なんですから、僕の実力不足です。それに、一見大怪我に見えますけどほとんどかすり傷で血が派手に出てるだけなんで…。」


「それでも、そんだけ切られてたら重症だよ。帰ったら連さんに診てもらわないと…。それに、椿が出てくるなんて…。」


「椿ってさっきの男のことですか?そんな有名人なんですか?」


声を低めて門叶が続ける。


「あの若さ手間烏鵜組の暗殺部隊の総括、組の幹部補佐まで上り詰めた男だ。その強さもさることながら残虐性で組でも恐れられている。」


「そんな、そんな男を九条さん一人で大丈夫なんですか?」


そう聞くと情けない顔が一変し、余裕の表情を浮かべた。


「ああ、九条さんなら一人で十分だよ。あの人は最凶だから。」


「久しぶりだね、椿。大きくなったね。」


九条が椿に手を振った。


「巫山戯るな!警察に下った犬が!!」


怒りの嵐とともに無数のナイフが九条へと襲いかかる。


「何だまだ持っていたんだ。全部『饕餮』が食べちゃったからさ。」


そう言いながら九条の横の獣が大きな口をあけ全て飲み込んでしまった。


「クソッ!!!」


九条の真上にネオン看板の雨が降り注ぐ。


「『鷹視狼歩』鉄を操ることギフト…。やることが派手だねー。」


そう笑いながらも饕餮と呼ぶ獣が一つ残らず飲み込んでしまった。


「君ならもう知っているだろう?物では私を殺せない。『饕餮』は悪食でね。」


饕餮が椿の太ももに牙を食い込ませる。


「片足を失いたくなければ私の話を聞け。君らのお頭に伝えて、『薬の件は私達が差し押さえた分だけでルートも叩かない。代わりに鳥羽春夏と片山くんから手を引け。痛み分けになる前にそれで手を打て』ってね。」


「…そんなことが通用するわけがない!」


「私は君よりあの人を知っている。あの人ならそれで手を打つはずだ。報復に畏怖を覚えさせる以外に意味はないからね。」


椿の目は大きく開かれ握りしめられた掌には血が滲んだ。


「…誰が何を言おうと俺はお前を絶対に許さないからな。」


九条の皮膚にしらけた笑いが浮かぶ。


「恭一は私を許してくれるさ。なぜなら彼は私の親友だからね。」


「お前がその口でその名前を語るな!!!!」


椿の瞳には底知れない殺意で紅く変わり、病的な白い首に蒼い静脈が浮き出ていた。

彼の足に饕餮の牙が更に食い込む。


「それ以外動くと足ちぎれるよ。私を殺したいなら五体満足のほうがいいでしょ?」


怒りで顔を歪ませ苦悶の表情が彼に浮かぶ。

忌々しそうにチッと舌打ちをして

「次こそ殺す。」と吐き捨てた。

看板の上に乗りビルの屋上まで飛び、そのまま夜の闇に消えてしまった。

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