第5話 不思議な隣人いち
「今日からここが君の席だよ!」
そう言われて案内された窓際の席に続く形で向かい合わせに2列、横に3列、計6席並んでいた。
中には使われていないような席もある。
「まあ、机と言っても報告書書くくらいにしか使わないんだけどね。九条さんとか、唯月さんとか僕に報告書押し付けるし!」
門叶のものと思われるファイルの積み上がった席に目をやる。
「柊平くんはちゃんと報告書かかなきゃだめだよ!!!」
半泣きになって月城の肩を揺する。
「そういえば1係って仰ってましたけど他にも係あるんですか?」
「ああそういえば説明してなかったね。」
といつもの調子に戻る。
よほどあの二人にこき使われていたらしい。
「1係が僕らのいるここ、2係が犯人追跡、監視など、そして3係が経理や九条さんとかが壊した道路の修理依頼とかそういった事件の後始末的なことをしているんだ。」
(…道路を、壊すって何をしたんだろ九条さん)
門叶さんの説明を聞いていると
「よう!新入りくん!」
そう言って誰かが僕の頭を叩いた。
声の主の方へ振り返るとそこには眼鏡に白衣、色素の抜けた長髪を束ねた風変わりな姿の男がいた。
「私は朝霧連翹!君らの専属医だ!怪我はしても病気はしてくれるな!!」
(専属医なんているのかこの課?!)
「連さんはね能力者のなかでも治癒のギフトをもっているだよー。」
と門叶さんが補足する。
「あっ、よろしくお願いします。」
「他にも色々いるだけど今ここにいるのは連さんと九条さんだけだから。」
「そういえば、唯月さんは1係じゃないんですか?」
辺りを見渡しても烏丸の姿はない。
「ああ、唯月さんは課長補佐だから席が違うところにあるんだ。ほとんど1係と一緒にいるけどね。多分、今なら課長のところにいるんじゃないかな?」
と言って何かを思い出したように手を叩いた。
「すごい大事なこと忘れてた!課長に挨拶をしていなかったよね?!」
そう言い別室の前まで僕を連れていった。
コンコンと軽快な音でノックし
「課長、柊平君連れてきました。」
「入れ。」低い男性の声が聞こえた。
鉄のドアを開けると片目に眼帯をかけた四十代くらいの男がいた。
綺麗にアイロンがけされたシャツの下にその鍛え抜かれた肉体を伺える。
課長の机の上に座っていた唯月さんがこっちにかって手を振った。
「君が月城柊平君だね?私はこの指定特殊能力対策課を預かる碇宗一郎だ。乱暴な異動で申し訳なかった。」
思ってもいなかった言葉にたじろぐ。
「いえ、自分で希望した事ですので…。」
そう言うと
「君の活躍を期待しているよ。」
とニコリと笑った。
課長室を出ると唯月さんもついて来た。
「そういえばさ、柊平。技の名前考えたの?」
「技の名前ってどうゆう意味ですか?」
「んー、ギフトを発動するときに技を叫んだ方が使いやすいんだよー!」
そう言って門叶の方に目をやり
「例えばそこの天だって『幻影跋扈!!!』って呼んでいるじゃん?そう言うやつ!もう考えてある?」
「あー、考えてなかったです。」
「うんうん、そうだなー柊平君のギフトって身体能力強化だよね?横文字とかにしちゃう??」
急に現れた朝霧と九条に驚いた。
そう言ってホワイトボードに
『柊平君のギフトの名前!!!!』と書いた下に好き勝手な技名を書き連ねた。
【
【
【神々の
【血腥い《クリムゾン》】
(ご丁寧にルビまでふってある…。)
「天も何か意見ないの?」
と門叶に振る。
「うーん」と言いながら
「漢字の方がカッコいいと思います。」と書き足していく。
【白虎殲滅】
【極夜無双】
どんどん増えてく技名に唖然として眺めていた。
「技なら最も長い呪文みたいな方がいい?」
そう、烏丸が月城の顔を覗く。
「いや、僕は…。」
「なるぼど、なるほどもっと長いやつの方がいいみたいだね!」
月城の抵抗虚しく20分の審議の結果
『岩をも砕き、天を割る、その神速は麒麟をも超える。閃光羅刹!!!!!』
「決定したよー!覚えてね!!」
(本当にこれを言って意味があるのか?)
「あの、本当にこれを言えばギフトを制御しやすくなるんですか?」
月城は烏丸に聞いた。
「ああ、それ嘘だよ。」
嘘?
「嘘だったんですか?!?!」
一番驚いていたのは門叶だった。
「僕、ずっと意味があると思って言ってたんですよ?!なんのために言っていたんですか?ただの厨二病の痛いやつじゃないですか?!」
嗜めるように朝霧が言う。
「直接的には関係ないけど何かをきっかけにギフトを使うように訓練したほうが使いやすいんだよ。天だってやろうと思えば幻影跋扈って言わなくても出来るでしょ?」
「ってことは、技名とかじゃなくてもいいんですか?」
「うん、まあね。」
「…じゃあ、さっきみたいな言葉にしなくても…。」
「うん、あれはね僕らの趣味!」
とてもいい笑顔でいうが、どうやらここの三人に僕と門叶さんがからかわれていたらしい。
まったく、どうやら僕は厄介な先輩の後輩になってしまったようだ。
「すみません。少しいいですか?」
鈴のような声がして「鳴海さんちょっと…。」
と九条が連れて行かれてしまった。
「…何方ですか?」
「ああ、杠葉ちゃん。3係の子だよ。」
「随分親しいみたいですね。」
二人の距離感でその親密さがわかる。
門叶は声を小さくし、月城の体を引き九条に聞こえないように
「噂だと、一緒に住んでいるらしいよ!」
なるほどそう言う。
そんな与太話をしていると一人の刑事が駆け込んで来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます