第4話 交番勤務よん

『君をスカウトしにきたんだ。』


理解が及ばず聞き返す。


「はい?僕はそんな特殊能力なんでもってないので誘われる理由がわからないのですが…。」


「いや、君はギフテッドだよ。自分でも薄々感づいていただろう?ギフテッドという言葉を知らなくても自分が他の人間と何か違うのだと。」


「恐らく君のギフトは身体能力を跳躍させることだ。あの狼化した人間をただの人間に追跡できるのか?いや、不可能だ。」


冷や汗と動悸が止まらない。

これは誰の話をしているんだ?僕が??


「仮に僕がギフテッドだとして、どうしてそれを貴方が知っているですか?僕自身も知らなかったのに…。」


「それはね」と烏丸が柊平の肩に手を置いた。


「それはね、僕のギフトが『未来視』だからだよ。」


「未来というのはいくつもの分岐と分岐が永遠に無限と続いている。例えば、土間を捕まえられない未来も可能性としては視えていた。逆に土間を今回で捕まえる未来には必ず君がいた。君がその能力で戦う姿が視えた。だから君をこの事件に巻き込んだ。そして、君がギフテッドであることもわかっている。」


「つまりあなた方は僕がそのギフテッドであることを知り事件に巻き込み、僕がここに来ることも知っていたということですか?先月わざわざ派出所まで来て事件の話をして僕が犯人を追うようにしぬけたんですか?」


「仕向けたというのは少し語弊があるな。先月の現場で君のことを見た。君とあった瞬間、未来が動いたんだ。」


「そんなこと言われても…。じゃあ先月の会った時にはもう犯人はわかっていたんですか?」


二人は静かに頷いた。


「それなら、犯人がわかっていたなら捕まえとけば今日の事件も起こらなかっただろうに。どうして、そんな能力を持ちながらそれを使わなかったんですか?!」


「そんな選択は存在しなかった。」


「ギフトは万能じゃない。僕の能力は『未来を視ること』ただそれだけだ。未来をいのままに変えることなどきでやしない。今日、このタイミングで君を対策課に呼ぶことが最もマシな選択だった。」


そんな、そんな悲しい能力があるだろうか。

彼は視えていながら切り捨てることしかできなかったのだ。

それを社会正義の様に攻める自分が恥ずかしかった。


「何も…何も知らずに失礼な事を言ってすみませんでした。」


烏丸は「ううん。」と首を横に振り


「それで君は対策課にきてくれるの?」

と続ける。


『その力を使ってはいけないよ。』とじじ様の声がまたくり返される。


「僕はこの力を使ってはいけないんです。強すぎるから…。」


「それは、小学生のころ上級生に大怪我を負わせたときの話をしているのかい?」


急な言葉に九条の方に目をやった。


「どうしてそれを…?」


「君のことは色々調べさしてもらったからね。もし、少年であった自分と今の自分を同率に考えているならそれは大きな間違いだ。」


「ギフトは自らの訓練で制御できる。さっきの男がの様にならないためにも自分を鍛えなさい。君が少しでもギフトを封印するのではなく制御することを望むなら私達のところに来るといい。君には友人を傷つけたことを悔やむ優しさと弱さがある。その弱さが君の強さだ。」


「…それでも、僕はだめなんです。じじ様に使うなって言われているから。」


烏丸は月城の頭を撫でながら


「後は君の選択次第だよ。好きな方を選ぶといい。何かを守りたいと思うのなら一緒においで、後悔はさせない。」

と微笑んだ。


(それなら、もし、もし…。)


「…もし、もしじじ様の言いつけを破りあなた達の所でこの力を使い何かと戦ったとして、じじ様は僕の過ちを許してくれると思いますか?」


「それは過ちではない。それは君の選択だ。」


「ならば僕に教えて下さい。この力の活かし方を、この身に余る能力で自分の弱さを守る方法を。」


自分の何かが嫌いだった。

自分自身とも向き合えない奴が「誰かを守る」なんて上辺だけのように感じていた。

もし、この胸にかかった靄が晴れるなら。

自分が何者かわかるか。


「ようこそ指定特殊能力対策課へ」と微笑み手を差し伸べる彼らをまるで青天の霹靂、天変地異そんな言葉でも表しきれない様な衝撃であったのは間違いない。



「ここが、能対課…。」


狼男の事件が解決し、一ヶ月もしない間に僕の本庁への異動が決定した。


(まだ実習期間終わってないんだけどな…。)


僕の異動はやはり特例中の特例だったみたいだ。


「よし!」と気合を入れドアを開けようとすると、僕が押そうと思った方向にドアが思い切り引っ張られた。


「う?へっえっ?!」


奇声を発しながら僕はつんのめる形で転び床に頭をぶつけた。


「…いったぁ!!」

「ああ、ゴメン」


飄々とした聞き覚えのある声に見上げると九条がそこにいた。


「そっかー、今日からだったねー。ごめんごめん。痛かった??おいでー。」

と月城を引っ張る。


まったくこの人はと心のなかで文句をいいながら導かれるまま部屋に入る。


「うちの人達はキャラ濃いから頑張ってね。」


(この人が言うキャラ濃いって大丈夫かな…。)


「さぁさぁ、皆さんご注目!!!」


九条の声に話し声がやみ、一斉にこちらを振り返る。


「今日から1係に来た月城柊平君です!はい、挨拶。」


と僕の背中を押し挨拶をするよう促す。


「き、今日からお世話になります月城柊平です。よろしくお願いします!!」

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