第3話 交番勤務さん
そして次の満月の日が来た。
夜空に煌々と光る満月を見てふと言われた事を思い出した。
『次の満月にまた人が死ぬ。』
二人の言葉が思い出される。
狼人間なんて非現実的な話が信じられるわけがない。が、無視もできない。
「おい、夜の警邏いくぞ。」
山本さんが呼びかける。
「は、はい!今行きます!」
(狼人間なんているわけがない。いるわけがないが……。)
いつも通りの道を巡回する。
(いるわけがない…。いるはずかない…。)
細い路地を見ると壁に手を置き項垂れる男が見えた。
しかし、人間と言うにはあまりにもシルエットがゴツゴツしている。
「あのー、大丈夫ですか?」
と声をかけると男はすぐさま走り出した。
「お、おい待て!」
足元にゴツっと何かが引っ掛かった。
人が呻き倒れている。
本当に本当に狼人間なのか、胸が獣の爪のようなもので切り裂かれている。
「っ、山本さんは保護よろしくお願いします!僕が奴を追いかけます!!」
そして、男の逃げてった方を一心不乱に追いかける。
「おい、待て!!!!!」
待てと言われて待つ逃走者はいない。
影ではなく街灯に当てられた彼の姿は最早人間と言えるものではなかった。
脚と腕は毛深く、着ている服も膨張しその下の筋肉や毛皮を想像させる。
そして、爪は鋭く変形し血によって艶めいている。
(本当に狼のようだ。これがギフテッドか…)
通行人がほとんどいないのが幸いか、見ていたとしても映画か何かの撮影にしかみえないだろう。
ふっと、男が右に曲がった。
男が入った先は倉庫のようだ。
広い倉庫のへ追いかけて入ると男が笑って待っていた。
「ポリ公が一人で追いかけてくるなんて馬鹿だろう。助けを呼んでも誰も来ねーよ!」
「ここで死ね!!!!」
『柊平、その力は使ってはいけないよ。お前が人を傷つけてしまう力だ。それに頼って生きたら弱さを知らない人になってしまう。弱くありなさい柊平。弱さを守れる強さを持ちなさい。それにその力は必要ない。』
じじ様の言葉が思い出される。
生まれつき他の人より運動神経がよかった。
いや、良かったというレベルではなかった。
きっとありとあらゆるスポーツを望めば頂上を取れる…これは天武の才だ。
そう思っていた。
小学生のころ一回だけ喧嘩をした。
原因は公園のブランコを使うとか使わないとかそんなくだらない事だったと思う。
気づくと絡んできたはずの上級生が地面に這いつくばって唸っていた。
鼻の骨が折れていたらしい。
じじ様がとても悲しそうな顔をしていたのを覚えている。
それから、もう誰にも暴力を振るわないと決めた。
だけど、だけどこの状況はどうすれば良い?
ここでこの犯罪者を制圧してじじ様にどう顔向けする?
しかし、しかしここであの狼男に殺されるのか?
「しかし、お前よく俺についてこれたな…。お前本当に人間か?」
にやりと笑って柊平は言った。
「体力には少し自信があるんだ。」
「そうか…だが死ね。」
三人、いやもしかしたらそれ以上の人間を切り裂いた爪が満月にあてられて輝く。
(じじ様ごめん。約束を破ります。)
柊平に向って振り下ろされた爪を右に跳ね避け男の顔面に膝を叩きこむ。
「ぐっぐぁぁ!」と叫び点々と狼男の鼻血が散る。
顔を押さえ頭を垂れた首に思い切り振り上げた足を叩き落とす。
そのまま後ろに跳ぶが、男の爪が腹を掠める。
(…防刃チョッキに助けられた。)
が、勢いあまり転んでしまった。
(…まずい。)
顔を腕で庇う。
「『幻影跋扈』捕縛せよ!」
ゆっくりと目を開くと男は月城を今にも襲おうとしている状態で黒いなにかに覆われていた。
「月城君!だいじょうぶ!?」
目の前に門叶が現れた。
「…門叶さん、どうしているんですか?」
「僕だけじゃなくて唯月さんと九条さんもいるよ。」
「そうじゃなくて、どうしてここにいるんでか?」
ああと笑い門叶が言う
「君がここに来ると唯月さんが『視て』いたんだよ。」
(見ていた?どうゆう意味だ。)
「我々がどうしているかよりも、この男の話を先にいいかい?」
銀髪ポニーテールの男が口を開く。
「久しぶりだね。月城君、私の事はもう忘れてしまったかい?」
「えっと、たしか九条さん…助けていただいてありがとうございます。」
「いや、助けたと言えるのは天君の方だから私に言う必要はないよ。」
そして、黒ものに包まれたままの狼男の方に向き「君は指定特殊能力者…ギフテッドだね?」
「だからなんだ?!」牙を剥き出しにして男が叫ぶ。
「ここ三ヶ月似たような手口の殺人事件が毎回満月の夜に行われていた。犯人は土間晴人、君で間違いないね?」
「ああ」
「動機は金がほしかったから。」
「そうだよ!仕事を首になった夜がたまたま満月だった。な手に入れようと思えば手に入る状態でに金持ちそうな男が目の前を通ったんだ。やれと言われた気がした。抵抗したから殺した。」
あまりの言い草にありとあらゆる罵詈雑言を男にぶつけたくなる衝動を必死に抑える。
「だからってあんな酷い殺した方をする必要はどこにあったんだ!?」
「血が騒ぐんだ。俺の中の狼が切り殺せと命じるだ。これも全てこの力のせいだ!!」
「馬鹿を言うな。」
九条が低い声で静かに言った。
その声に殺意とも怒りとも取れる何かを感じる。
「人を殺せとギフトが命じる?それはあなたの潜在的な意識の問題だ。それを理性で押し殺すのが人間だ。」
「ギフトのせいにし人を二人殺めたあなたはすでに立派な猛獣だよ。」
皮肉そうに笑いだ言葉を紡ぐ。
「今からあなたの身柄は我々の預かりとなります。まともな裁きを受けられると思うなよ…貴方がギフトを理由にした様にギフテッドであることが貴方の普通の法の適用を妨げる。」
「天君、彼を連れて行って。」
「クソが!ふざけるな!この世界の全てがクソだ!望んでこんな能力であったわけじゃない!」
門叶が土間の口を影で塞ぎ、表へと連れて行ってしまった。
「ギフテッドの全てがギフトを望んだ訳ではない。そんなこと自分だけではないと少し考えればわかるのにね。」
そう言って九条さんは僕の方を見た。
「あの、俺もそろそろ行きますね。山本さんに説明しないと…。」
「いや、僕らの本命は君だ。」
烏丸さんが言う。
何を言われるのか身構える。
「今度はなんですか?」
「単刀直入に言おうか、君を指定特殊能力対策課にスカウトしに来たんだ。」
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