第2話 交番勤務に

翌日、交番の机に見覚えのあるひとかげが座っていた。


(…まさか、昨日の子供のような大人?!)


くるりと椅子を回してこっちを見た彼はまさしく昨日の彼だった。


「やぁ!そろそろ来ると思っていたよ。」


麩菓子を口に頬張りながら彼は言った。


「唯月さん!麩菓子のカスを落とさないで下さい。」

と後ろからぬっと男が現れた。


(昨日の茶髪の人もいたのか…。)


「すみません。掃除するので…」


とこちらの顔をのぞく表情に昨日のような張り詰めた様子は見えない。


「えっと、お気になさらずに…」

「そうだ!どうせここだって土足なんだし!!」


唯月さんと呼ばれていた彼が続くように言う。


「お菓子は蟻が来ちゃうんですよ!砂とは違うんです!!」


茶髪の青年がなだめる様に言った。


(この人たち何しに来たんだ?)


「あの、何か御用があっていらっしゃったんじゃないんですか?山本さん…山本呼びますか?」


二人は思い出した様にこちらを眺め


「いや、今日は君に用があってきたんだ。」

と言う。


「僕に御用ですか?」

「うんそう」


そして少し意地悪そうに「捜査協力してよ。」と言った。


「は?いや僕がですか???なっ…」


「まあまあ、座って」と僕を座らせる。


「仕事ありますから…」


「上には了解とっているから。大丈夫、大丈夫」


(何が大丈夫なのかわからない。)


山本さんの方を見ると「いいから、いいから」としっしっと手を振られた。

困った顔で茶髪の方(…門叶さん??)を見ると申し訳なさそうな顔で「お願いします。」と口パクで言われる。


「本当に了解とってあるんですね?」


「うん。月城君に話聞きたいからちょっと貸してねって言っといたから。」


(それで、大丈夫ってこの人たち何者だ?)


「こいつら何者だって顔しているね?」


あまりにピンポイントに言われたので驚いてしまった。


「昨日も言ったけど僕らは指定特殊能力対策課の人間だよ。」


「だからその指定なんとかってなんなんですか?」


一言置いて唯月が言う。


「君はギフテッドと呼ばれる人間を知っているかい?…その様子では知らないようだね。」


「指定特殊能力通称『ギフト』ギフトを持った人間を『能力者』もしくは『ギフテッド』と呼んでいる。そういった人非ざる能力を持った者たちの犯罪を取り締まるのが僕ら指定特殊能力対策課だよ。」


(なるほど意味がわからない。)


「人非ざる能力とはなんですか?そんなものが存在するですか?」


「君は本当に昨日の死体がただの人間の仕業だと思うのかい?切り口と言えるような断面はなく、まるで獣に引き裂かれた様な傷跡、現場に残されていたのは指紋でもなく狼の毛、これが本当に人間のできることかい?」


「じゃあ、まさか狼にでも襲われたって言うんですか?」


「そのまさかだよ!」


「馬鹿な、狼がこんな町中にいるわけがない。動物園から逃げ出したとでも言うんですか?」


「狼は狼でも僕らが探しているのは狼人間、狼になるギフトを持った人間だ。」


「つまり、その狼になるというギフト?を持った人間が昨日の殺人を起こしたってことですか?」


ふふっと笑い彼は

「うん、理解が早いね」と言った。


(いや、理解できるわけがない。なんだ?ギフトって?非現実的すぎで意味がわからない。)


「例えばそこの門叶君、彼のギフトは影を操ること。ね?」


と門叶さんの方に目をやった。


「月城君に見せてあげれる?」

「…申し訳ないですが暴れないでくださいね。」

と僕の肩を叩く。


(僕にやるのか?!)


「ちょっ、待ってくだ……」


言い終えるよりも門叶さんの声のほうが速い。


「『幻影跋扈』影を縛れ。」


金縛りというやつなのか、何か言おうとしても口が動かない。指一本も動かすことが叶わない。


(…これが人非ざる能力か。)


理解というか本能が危険だと呼びかける。

そんな感覚だ。


「影を解け。」


門叶さんの言葉で体の力が解ける。


「ごめんね。息できる?」

優しい声が聞こえる。


「実感できた?これがギフテッドの力だよ!」

「という訳で君に協力を頼みたいんだよ!まあ、拒否権ないけどね(笑)」


(どうゆうわけだ!!!!)


「すみません、無理なお願いだとはわかっているんですけど…。」


後ろから門叶さんの申し訳なさそうな顔で言う。


(手伝う以外選択肢はなさそうだ。)


「えっと、よくわかんないとこが多いですができる限りのことはお手伝いします…。」


「ありがとう!」と嬉しそうに門叶さんが言う。

「この人はいい人そうだ」勝手に考える。


「そういえば、昨日の事件は連続殺人なんですか?」


「ん!そうだよー、それは間違いない。」


「そうですね。説明していなかったね。」


そう言って門叶が月城に話始めた。


「事件の発端は先月、昨日同様の死体が新宿関内にて発見されます。残されていたのは昨日と同様動物の毛。その残虐性と被害者の財布の中身が何もなく金銭目的だと推察されることから犯人はすぐに次の犯行に及ぶと考えられましたが、そこから一月昨日まで痕跡一つ見せませんでした。」


「そして、昨日の事件がおきました。関連は言わずもがなです。先月の事件と昨日の事件、遺留物の毛が一致しました。そして、何が鍵かと言うと先月も今回も満月の夜だということです。」


「まるで、本当に満月で狼に変わる狼人間のようだよね。」


それはなんというか、つまり…


「つまり、また次の満月に誰かが死ぬということですか?」


「そういうことだね、それまでに犯人を突き止めなくては…」


そう言って門叶は唇をギュッと結んだ。


「まあ、そういう訳だからよろしくね!!」


「じゃっ!」っと言って二人は帰ってしまった。


(いや、捜査協力?…いらなかったのか???何しに来たんだあの人たち?)


まったく、意味がわからない。

悪い白昼夢だったようだ。

表から「話終わったのか?」と山本さんが現れた。残念ながら夢じゃないようだ。

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