年々歳々
削り節
第1話 交番勤務いち
「おはようございます!今日から着任いたしました月城柊平です!よろしくお願いします!!」
元気な声が交番内に響き渡る。
警察学校を卒業したばかりの19歳の青年が交番の入口に立ち挨拶をしていた。
彼は今日からここ代々木二丁目派出所に勤務する。
「おお、よろしくな。さすが新人は元気だな。」
と笑う中年の男が、これから彼の上司となる山本英樹である。
人が良さそうな顔つきと黒い髪にまばらに白髪が混じっている。
「着任そうそで悪いんだが警邏に行く準備をしてくれ。聞いてるかわしれないが、この辺で不審死体が先月発見されてな。まだ犯人は見つかっていない。しかも、バラバラ死体。本部の奴らが目を皿にしてさがしているよ。」
「というわけで、警邏の回数を増やしている。それに習うより慣れろ。回数を踏んだほうが覚えるってもんだ。」
制服に着替え白チャリに跨がる。が、
「おーい、白チャリは使わないぞ。今日は歩きでだ。お前に道を覚えてほしいしな。」
少し顔を赤らめて
「すみません。楽しみだったものでつい…」
「あははは、白チャリに乗るのが楽しみなんて変なやつだな!」
と山本が笑うのでさらに顔が赤くなる。
「まあ、そういう奴もいるわな。ほれ、いくぞ」
山本の横に付き従う様に並ぶ。
通行人に挨拶をしながら場を繋ぐように山本が話をふる。
「そういえば月城、お前警察学校の実技主席らしいな?なんか武道でもやっていたのか?」
「はい、小さいときに空手を少し。」
「ふーん」と少し考えた後「何かの大会で優勝したとか?」と続ける。
「まあ、ジュニア大会とかなら…」
山本は驚いた顔をし
「すごいな。そんな奴どうして警察官になろうとおもったんた?」
何度も聞かれた問いだがやはり答えるのは少し気を使う。
「じじ様…祖父に育てられたのでが、祖父が日頃から『人に優しく、人を守れる様になりなさい』と言われていたので警察官を志しました。祖父には優しく守ってもらったので、僕もそうなれたらなと思っています。」
「うんうん。いい心構えだ。」
と山本は大仰な相槌をうつ。
「ああ、そこの角は酔っ払いが寝てたりするから必ず確認して…ああほら、誰か寝てるよ。」
目をやった曲がり角の先に人の手が見える。
「ああ、今日もか。こういうときは声をかけて自分で歩けそうなら帰らして、無理そうなら保護するから。」
と人影に近づき声をかける。
「お父さん、こんな所で寝ていたらだめだよー」
「ねえ、聞いてるー?」
と、曲がり角を曲がりそこには信じられない光景がひろがっていた。
そこに横たわっていた人は人の形をしていなかった。
引き裂かれたという表現が似合う様な手、足、とも判別のつかない肉片が点々と落ちている。
壁に擦りつけられた血から苦しみと恐怖が推察できた。
ごろりと落ちていた首と目があう。
何も映さないはずの瞳に恐怖が見えた。
「と、とりあえず月城!何も触んなよ、応援が来るまで通行人をここに入れるな!」
そして、無線を手に取り
『こっ、こちら代々木二丁目派出所勤務山本英樹巡査部長。代々木二丁目丸山ビル付近の路地にて不審死体を発見!至急応援求めます!』
月城は呆然と血の海を前に立っていた。
「おい!月城!!!通行人とパトカーの誘導!」
山本の声で現実に引き戻される。
「はっはい!」
冷や汗でぐしゃぐしゃになった手をズボンで拭い道路へ走る。
そこから他の警察が来るまでにいくらの時間が過ぎたのか覚えていない。
これまでにここまで長く感じる時間はあっただろうか。
「君もちょっと来てくれ。」
捜査本部の人らしき人に山本と共に呼び出された。
現場は騒然としている。
「それで、警邏中にここで死体を見つけたと…」
「はい」
そう答えた所で、
「ねぇねぇ、ちょっといい?」
と子供のような声に驚いた。
月城らに質問をしていた刑事の後ろからひょこりと声に何ら遜色のない子供が現れた。
「…子供?」
「残念ながら唯月さんは君より年上だよ」
と、烏丸さんと呼ばれた子供の後ろからまたも現場に似合わない二人の青年が現れた。
片方は赤茶色の髪にピアス、そしてもう片方は銀色のポニーテールに薄い緑色の瞳。
どちらも現場ににつかわない整った顔立ちをしていた。
彼ら三人の風体は警察官とはかけ離れている。
「私達は指定特殊能力対策課1係所属、初めて聞くだろうがここは私達の管轄だ。」
ポニーテールの青年が話し出す。
「名乗るのが遅れたね、私は九条鳴海。」
「そして、君が子供と間違えたのが烏丸唯月さん。もう一人が門叶君だよ。」
「はあ、僕は月城柊平です。」
ニコリと笑って「ご丁寧にどうも」と彼は言う。
「単刀直入で申し訳ないんですけど、あなた方が夜ここを見たときに異変などはありましたか?」
「…僕は今日ここに着任したばかりなので」
「私が昨日警邏したときにはなんの異常もありませんでした。」
「そうですか。また何か思い出すことがあればご連絡ください。」
そう言って僕らは通常業務に戻された。
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