4−6

 開け放たれた部屋の入り口で、佑は加那とすれ違った。加那の目には涙が浮かんでいた。

 ため息を着きながら、薫の部屋へと佑は入室する。

「全部聞こえてましたよ。……あんな若い子に、言い過ぎです」

「誰かが言わなきゃ、ずっとお飯事のままだろう」

「それでも、です。自分の居場所探し結構じゃないですか。それで彼女がこちらへ味方してくれるなら」

「あの……」

 満が、二人に割って入った。

「僕、加那さんを追いかけないと……失礼します!」

 満はぺこりと頭を下げると、脱兎という言葉そのままに、駆け出す。

 佑はそれを見送って、薫の前へと座った。

「自身のお母様のこと、お伝えにならなかったんですね」

 ポツリと佑が言った。

 鋭い視線が飛んでくるが、佑はものともしない。

 薫は佑から視線を外すと、ごろりと庭へ向かい横になった。いつもの姿勢だ。

「あの子には、関係ない話だろう」

「いえ、あなたの大切な人……お母様の話をしてあげなかったのは、フェアではないです」

「俺の母親が朱雀の先々代の当主で、当主になってたった三年で死んだ話か」

「ええ。貴方はだから、こんなにも一族を憎んで……」

「いいや違うね。──嫌いなだけさ。このシステムも何もかもが」

 薫は佑に向けて手をひらりとさせた。もう出ていけという合図だ。

「……玄武が見つかったんだろう。忙しくなるぞ」

「聞いてらしたんですね」

「まあな」

 沈黙が両者の間に落ちた。

 佑は立ち上がった。こうなってはもう薫は有益なことは話はしない。のらりくらりと躱すだけだ。

「加那様は、また綾たちに送らせます。伝言は?」

「ないさ、今のあのお嬢さんにはな」

 佑はため息をついて薫の部屋を後にした。


 加那は目に浮かんだ涙を瞬かせて、腕でぐいっと拭った。

 悔しい、あんなやつに言い返せなかった。

(補佐役って……私を補佐してくれる人じゃないの!?)

 図星を突かれて部屋を飛び出してしまったが、まだここに詳しいわけではない。悔し涙を浮かべながら、加那は迷路のように入り組んだ廊下の途中で道に迷ってしまった。

「あれ」

 不意に甲高い声がした。

 見ると、近くの部屋から例のカラスの双子が顔を出していた。

「だれか、お客だなって思ったら……あんただったんだね、お姫様」

 姉が喋り、ついで弟が後を継ぐ。

 今一番会いたくない被人かもしれなかった。彼らは確か、加那を歓迎していない。

 しかし、構える加那に二人はにこっと笑みを浮かべた。

「そんなに身構えないでよ、前回は──」

「そうだよ、前回はちょっとした勘違いだったんだ」

 二人異口同音に喋る二人の声はよく似ていて聞きづらい。姉のほうが弟を制して喋り始めた。

「私達は桜と蘭。……この間は、朱雀から削除されて白虎に強制的に行かされると、勘違いしてたのよ」

「え?」

 意外な理由を桜と蘭は語った。勘違いと言いながらもその態度は偉そうだ。

 蘭が自らの胸に手を当てて胸を張る。 

「ほら──僕らは力が強いから。……篠乃様の身体を弱らせる原因になる。だから、強制的に居衣から削除されて白虎に行かされるんじゃないかって。あんたを襲えば候補から外されると思ったから、あんなことした。まあ、桜が言うように勘違いだったんだけど」

「元白虎の綾と東吾が候補って聞いたのよね、この前」

「だからまあ……」

「申し訳なかったっていうか?」

 あくまでも上目線で謝られて、加那はぷっと吹き出してしまった。

 そこに加那を追いかけていた満が追いついた。

 カラスの二人を見つけると威嚇するように、満の匂いが濃くなった。

「お前たち、また加那さんに何の用事だ」

「ううん、満さん。それが……」

 加那は満に話をした。満もきょとんとした顔をして二人を見比べた。

「それで、この態度なんですかこの子達」

「謝ったもの、良いじゃない」

「そうだ、謝ったぞ」

 悪びれない二人に、はあっと満も肩の力を抜いたようだった。

 加那はそうだと思いつく。

「なら、お詫びにってことで屋敷の門まで連れてってくれない? 迷ちゃって」

 二人は顔を見合わせてから、ニコリと頷いた。

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