4−5

 当主が生贄という結論は、二人を沈黙させた。

 加那は考えを巡らせた。

「あの」

 加那は思いついたことを口にしてみる。

「篠乃さんと佑さんは、見ていれば分かるわ。篠乃さんは被人に安らぎを、佑さんは篠乃さんを助けたくて動いているのが分かる。けど、あなたは?」

 加那には不思議だった。

「貴方の、その身を削ってまでこのシステムを研究したり解明したりする動機は何なの?」

「俺か?」

 加那から腕を放して、薫は加那を見下ろした。

 眉を寄せて自嘲とも取れる笑みを作る。

「嫌いなのさ、単純に。いろんな者を犠牲に成り立つこのシステムが」

「本当に?」

 加那には納得がいかなかった。話を聞いていれば、薫が一番この一族そのものを毛嫌いしているように思える。

「それにしても、お姫様は……動じないんだな、こんな話を聞いても」

 思わぬ切り返しに加那は目を瞬かせた。

 薫は再度頬づえをつくと加那を上から下まで眺める。

 近くでそう見つめられては良い気分はしない。

「別に……怖くはない。満さんのことも、自分のことも。色々知りたくて、ここまで来たんだし」

「そっか。そりゃ──覚悟が足りないわけだ」

「どういうこと?」

 思わずムッとした口調で返してしまった。薫は動じずにニヤッと笑った。

「だから分かってるのかって話だ。お前さんは、篠乃のように大量の被人を抱え込む覚悟が出来てここにいるのかっていう」

「それがわからないから──ここに来てるの」

 加那は少しイライラとし始めている自分に気づいた何だろう。触れてほしくない部分に触れられているような。

「それにしちゃ、楽しそうだ。そこのウサギの坊やと遊んだり、居衣へ受け入れてもいないのに綾や東吾と仲良くしたりな。……本気に見えないんだよ」

 そこまで言われて、加那は言葉に詰まった。

 そんなところがないわけではなかった。自分は確かにこの状況をも楽しんでいる。

 純粋に被人や一族のことを憂えてここに来ているわけじゃない。

 ……家から逃げ出したかったのだ。

 あの窮屈な、自分を殺さなかくてはいけない家。くだらない毎日。

 そういったところから飛び出したかった。

「だったら、あなた達はどうなのよ。私はたまたま選ばれた。その私に、単に篠乃さんの分まで背負わそうとして、利用しているんじゃないの?」

「俺も篠乃も、勿論佑も。自分のために動いてるさ。けれど、根底は皆、自分の大切な人のために動いている」

 対する薫は静かで、加那を見上げる目に今までの誂いの色はない。

「だから、あんたに、大切な誰かのためにそれができるのかと聞いている」

 加那は言葉に詰まった。くるりと踵を返す。悔しかった。言い返せなかった。

 なんで、どうしてと怒りで目の前が真っ赤になる。

「加那さん!」

 満に引き止められて、加那は肩越しに振り返り、薫に言い放った。

「私には、その大切な人がいない!」

「作ろうとしないからだろう?」

 それに笑いながら、薫が言った。聞き取れたが、理解したくなかった。

 加那は満を置いてその場を後にした。

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