消えて然るべきおまえたちへ 《延山謀反》
2016年4月10日 レビュアー 延山謀反
堂々の完結。
三年と八か月の中断にじりじりと待ち焦がれていただろうおまえたちにとって、ようやく完結を見ることができ、生きていてよかったと実にそう感じているはずだ。作者の死亡説・収監説など根も葉もない噂が飛び交う数年の空白。信じて待つのは、戦地に送り出した夫を待つ妻もかくやという不安と心細さだったに違いない。明けない夜はないという言葉を信じた甲斐あって、いまおまえたちは得も言われぬ満足に打ち震えている。
いや、果たして本当にそうなのか?
伝説の脚本家シシリー・マフードの遺稿をもとに製作された『笑わない花嫁と三つのブーケ』のヒロインを見事に演じ切ったファスダが大女優への道を切り開くところで物語は中断したわけで、まるでおあずけを食らった犬のようにおまえたちは続きに餓え、浅ましく涎を垂れ流していた。もちろん中断の分だけ期待は高まるもの。さて、結末はいかに??
最終章においてファスダは交際相手の妻が雇った殺し屋に始末されかかるすんでのところでヒューロに救われることになる。組織に牙を剥き血に染まったヒューロもまたファスダを救うことで自らの魂を救済する。まだ読み終えていない読者のため詳説はしないが、だいたいそんなところだ。もっと陰惨な結末を待ち望んでいた品性下劣なおまえたちにとっては肩透かしだったろう。
わかっている。この物語の外側にまとわりついた付加価値は、恥も外聞もなくおまえたちを引き寄せた。光源に群がる蛾のように。予言や暗喩に満ちた謎の物語であれば、予定調和を打ち砕く不条理な結末、あるいは眼を覆うようなバッドエンドが用意されているべきだと心底見下げ果てたおまえたち豚の群れは考えてもおかしくない。物見高いおまえたちは公開処刑を望んでいた。物語が空中分解し、言葉の楼閣が瓦解する様を眺めたかった。処刑場の最前列を陣取るのはいつもおまえたちのようなクズ共だ。ファスダは失墜すべきだったし、できるだけ残忍な方法で非業の死を遂げるべきだった。両目を大きく見開いたまま女優は時を止られたように逝くべきだった。ヒューロに至っては、虫けら以下のやり口で踏みつぶされるべきだった。
それなのにどうだ? 物語は甘っちょろい大団円を迎えてしまった!
おまえたちは胸を掻きむしるほど苛立っている。それなのにおまえたちは物語に介入することはできない。この完成した作品に指一本触れることはできないのだ。だったらおまえたちはおまえたちの自身の物語を紡ぐ他ないだろう。根気も文才もないおまえたちに筆を取れと提案しているのではない。おまえたち自身の恥辱に塗れた実生活を、その惨めさをそのままに続けたらいいのだ。ご期待通りの無様さを自身に許せばいい。
あるいは、この物語の外側にほのめかされた宝探しの淡い夢に縋るのもいい。おまえたちもわかっているようにそんなものは幻だ。しかし、おまえたちには幻を追う活力さえない。この物語の閲覧数に1を足したことだけがおまえたちの生きた証だ。おまえたちは塩害の大地にぶちまけられたナメクジのように消えていけ。いや、もう消えている。おまえたちはどこにもいない。誰一人としておまえたちを記憶しない。無だ。蚊の鳴くような断末魔のエコーだったもの――それももう絶えた。
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