第24話 今の恋は上手くいく②
なんだか、こうやって伊波さんと一緒に帰ることが当たり前のようになりつつあることに思わず笑みが溢れそうになる。今日は寄り道していく用事があるからだけど。
「田中くん、凄い気合い入ってたね」
「……ほんと、何で俺なんかが選ばれたんだか。俺とアイツの燃え具合、真逆だと思うんだけどなぁ」
俺の場合、全くといっていいほど興味がない。逆に、田中は絶対に勝ちたいと思っている。アイツもいい格好を披露して女子からモテたいんだろうか。
「アハハハ……鈴木くんって結構冷静っていうか、よく考えて動くもんね」
――なのに、さっきは皆の前で大胆なこと言うんだもん。鈴木くんがどういう人なのか判断出来ないよ。
俺も、伊波さんのことで頭がいっぱいだよ。君がどういう人なのか、もっと知りたいと思ってるよ。
「性格上、熱くなるってことが少ないから」
「そうなんだ」
「だから、本当に謎なんだよ。どうして、俺が選ばれたのか」
少なくとも、クラスメイトの中に田中までとはいかなくてもモテたいと熱くなっていた男子はいた。
――お前は既に伊波さんとラブラブだからいいじゃねーか!
などと、とんだ誤解をしているやつからは妬まれる程に。
「鈴木くんボーッとしてたから気付いてないかもしれないけど……田中くんが推薦してたんだよ? 俺の目に狂いはねーぜ、とか言って」
「どの口が物言ってんだか……」
ヤバい。チームメートなのに既に嫌いになりそう。覚えてろよ、田中!
「あ、ちょっと待ってて」
内に怒りをためていると伊波さんが走り出す。向かった先には重そうな荷物を抱え、いかにも困っていそうなおばあちゃんがいた。
――困ってそうだし、力になりたい。
本当に優しいな。
おばあちゃんと何やら話している姿を見ながら、
――ど、どうしよう。どこに行きたいのか全然分からない!
「どうしたの?」
「あのね、ここに行きたいらしいんだけどよく分からないらしくて」
伊波さんに見せられた手書きの地図は目的地が分かるような代物ではなく、下っ手くそな物だった。
「これは、確かに難しいね……この近くなんですか?」
おばあちゃん曰く、この近くらしいので道案内することにした。
「申し訳ないねぇ」
「そんなことないですよ」
伊波さんがおばあちゃんの相手をしている間に集中して範囲を広める。まだ、おばあちゃんを探していそうな声は拾えない。
こういう時はこの能力は役に立つ。迷子なんて俺の前では迷子ではないのと一緒だ。遭遇したことなんてないし、遭遇しても泣かれるだろうから近づけないけど。
その点、伊波さんが近くにいれば警戒心は薄まるはずだから俺達二人でいれば無敵なんじゃ……!?
そんなことを考えながら歩いているとおばあちゃんを探しているであろう声を拾った。その声と距離が段々と近づいていき、
「おばあちゃん!」
孫らしき女の子と出会った。
どうやら、無事に送り届けることが出来たようだ。
「すっごく感謝されちゃったね」
人気ドーナツ店にて、新作ドーナツを頼んだ後に伊波さんと向かい合って座る。
あの後、母親らしき人とも出会い、三人から感謝された。
「やっぱり、伊波さんって優しいと思った」
「そ、そんなことないよ……!」
「ううん、そんなことあるよ」
俺は伊波さんがおばあちゃんに声をかける前から誰かが困っていたことには気付いていた。
でも、行動までは出来なかった。
目の前にいれば助けたかもしれない。
それでも、そうしなかったのは俺がそんなに出来た人間じゃないからだ。
この能力のせいで困ってる人なんてどこにでもいることが分かる。右に左に。前に後ろに。今も、店員さんが新作ドーナツを揚げるのに手を焼いて困っているのが手に取るように分かる。
「普通は困ってても自分から手を差し出せたりしないんだよ」
誰かを助けても誰かからは疎まれる。
誰かに手を伸ばしても他の誰かには伸ばせない。
これが、限界だ。
当たり前だ。このノンフィクションの世界に万人を救える勇者やヒーローなど存在しないのだから。
「でも、伊波さんは真っ直ぐにそれが出来る。だから、すごく優しいよ」
「……鈴木くんが見ていてくれるからだよ。鈴木くんが見ていてくれるから……」
――私は、友達が欲しいから……誰かに友達になってほしくて他人に優しくしてきた。でも、今はそんなことどうでもいいんだ。鈴木くんが友達として私を見ていてくれるから……少しでも好きになってほしくて、優しくあろうと思えるんだ。
「だ、だからね。鈴木くんにはこれからも私のことを見ていてほしい、な……」
「これからも、見てるよ……」
言われなくても、見るつもりだよ。
はにかんだ伊波さんは照れ隠しからなのかドーナツを小さく食べ始めた。小動物のような食べ方は心臓をぎゅっと握られたかのように視線を逸らせない。
「えへへ……ドーナツ、おいしいね」
見ていたことを知られたくなくて、急いでドーナツを口にする。
「うん、オイシイ」
「どうして片言なの?」
「な、なんとなく?」
チラッと伊波さんを見れば目が合ってしまった。それが、恥ずかしいはずなのにくすぐったくて思わず笑顔が溢れてしまう。伊波さんも同じのようでタイミングが重なってしまった。
「そ、そういえば。伊波さんは球技大会何出るの?」
「バドミントンのダブルスに出るんだ」
「あ、じゃあ仲良くなって友達になってみたらいいんじゃないかな」
「うーん、どうだろう……上手く出来るか不安だな」
「まあ、いきなり距離を詰められると驚くかもしれないしね」
心の声が聞こえる俺でさえ、メロンパンをあげただけで好意を抱かれたことには驚いたからな。俺の場合は心の声が聞こえるから、だけど。
「でも、スポーツって絆を深めるものだと思うから少しでも仲良くなれるように頑張ってみる!」
――鈴木くんともいつの間にかこうやって話すことが出来てるんだもん。すぐに仲良くはなれなくても、ちょっとずつでも仲良くなれるように!
「応援してる」
「私も応援しに行くね!」
「いや、いいよ。カッコ悪いとこしか見せられないだろうし」
好意を抱いてくれている女の子にダサい姿は見せたくない。
「ううん、行くよ。カッコ悪いところでも見たいから」
――例え、鈴木くんがドリブルで相手を抜けなくてもシュートを一本も決められなくても幻滅なんてしない。だって、そういう失敗する姿も焼きつけたいから。
「恥ずかしいなぁ……」
「大丈夫だよ。笑ったりしないから」
まあ、伊波さんはそんな子じゃないと分かってるからそこの心配はしてないけど。
「――あれ、伊波さん?」
「えっ――!?」
伊波さんの表情が固まり、さっきまで笑っていたのが嘘のように暗い表情になった。
伊波さんに声をかけた男子生徒を見ると同じ制服を着ている男の目から見ても分かるとびきりのイケメンだった。
見るからに優しそうなモテそうな王子様らしき彼に伊波さんは、
――会いたくなかった。会いたくなかった。会いたくなかった。
心の底からそう思い、今にも泣きそうになっていた。
彼が伊波さんの何なのかを知ろうと彼女の心の声の続きを待っていると彼の隣に同じ制服を着た女子生徒がひょこっと姿を出した。
「だーれー、その子?」
「ああ、元カノだよ。中学の時のね」
「ふーん」
どうやら、彼は伊波さんの元カレらしい。
そして、伊波さんの抱えているものの原因でもあるらしい。
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