第2話

「おばさん、これここに置いとくよ」


「あー、うん。そこ置いといて」

 俺たちは今、勇者様の来る部屋の準備をしていた。勇者様がどんな目的で来るかは知らされていないため、出来る限りの対応をするために皆精を出している。万が一のことがあってはこの村を取り壊されかねないので、皆神経質になっている。


「よし、このくらいで良いだろう!皆お疲れ!後は勇者様とその従者様の出迎えの準備をしておいてくれ」

村長のクギバがよく通る声で言った。


「あー、カイン。お前は森の酒蔵に行って一番上等な酒をもって来てくれ」


「了解。行ってくるよ。」

 俺は酒蔵に行って一番奥にある酒を取り出した。

「毎年これを飲むために皆頑張って働いてるのに...それだけ大事な相手って事だよな。けど、何か嫌な感じがするんだよな」

 俺は昨日から嫌な感じが全然消えていなかった。俺は昔からこの嫌な感じを感じると毎回不幸が起こった。父さんが戦死したときもそうだ。でもここまで嫌な感じが長くて深いのは初めてだ。


「気のせいだと良いけど...」

 俺は森を出て村まで向かった。

すると村の方がやけに騒がしかった。

「あんまり騒がないとか言ってたのに...どうしたんだろ?」

俺は村の方に行った

すると勇者がもう来ていて村の入り口で口論をしていた。

「氷の魔法が使える女を出せ。これは国王直属の命令だ!氷の魔法が使える者は少ないが」

どうやらティアを連れて行こうとしているようだ

「知ってんだぞ!国王に呼び出された者は魔物討伐の道具にさせられるか身を穢されるんだろ!勇者はまともだと思っていたが、やはり国王直属とだけあってお前等もあいつ等と考えることは一緒だな!」

村長の声にティアの父親が賛同する

「誰がお前みたいな奴らのところに娘を連れていかせるか!!!さっさと出てけ!」

しかし、ティアは勇者の前に出てきてしまった。

「...私に何か用ですか?」

「ティア!出てくるな!」

しかし勇者アレクはそこにすかさず寄り、ティアの腕を掴んだ。


「俺たちの所に来てもらう。これは国王直属の命令だ!!!!」


「嫌っ離して!何であなたなんかと行かないといけないのよ!」


「おい、お前は勇者何だろう?何でまだ成人もしていない善良な村人を連れていくんだ!」

俺は遂に我慢が出来なくなって勇者アレクに怒鳴り付けていた。


「チッこっちが下手に出てるからって調子に乗りやがって!!!黙って付いてくれば良いのによ!かなりの美少女だって言ってたから急いで来たんだぞ!俺は早く帰りたいんだよ!

『第五異端魔法、《流牙》』ッおいッ氷の魔導師。お前が来ればこの村は無事だ!だが来なければ...分かるよな?」

 村の上空に巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。


「私が....行け、ば?」


「ティア!そいつが約束を守ると思うか?どうせ約束を破って終わるだけだ!」


「失礼な奴だな?お前はさっきからよ。俺は約束は守る方なんだよ。まぁ、でも今ので俺もちょっとイラついちまったから...じゃぁ、十数えるうちに決めなければ問答無用で村を吹き飛ばす」

十、九、八、七、と勇者アレクはカウントダウンしていく。

「五、四、三、ニ「じゃあ、行くから!」


「行きます、から。村を壊さないで下さい」

勇者アレクは勝ち誇ったような、下卑た笑みを浮かべ、魔方陣を消した。

「分かった。それなら手を引こう」

そう言って、上空の魔法陣を消した。

「さて、俺とて鬼じゃあ無い。最後にこの村に言い残す事ぐらいさせてやる」

傲慢な態度で勇者が言う。

「止めろ!ティア!行くな!!!」

俺は前に出てティアにそう言った。

「カイン、これ以外の選択肢があると思う?カインは頭が良いんだから分かるでしょ?これしかない。これ以外の選択をすれば皆死ぬ。だから私行くね?」

そう言ってティアは俺に近づき

「今までありがとう。好きだったよ。」

そう耳元で言った。

「じゃあ行くぞ氷の魔導師ティア」

 勇者アレクは転移の魔道具を起動させ、王都に消えていった。


沈黙が流れる


「あぁ、あぁ、あぁぁぁぁ!!!!」

俺の目から涙が溢れる。


 ー何故!何故!何故!あんな奴らにティアは!!!!!!ティアは...何で俺は立ち向かわなかった!....何故ティアが行く前に俺も好きだと伝えなかった!!!!!何故!何故!




  .......あぁ、そうか。俺に勇気が無かったからだ。俺に力が無かったからだ。それなら。変わってやる。力を得てやる!そしてティア救い出す!その為なら、魔王にでも何にでもなってやる!


  ー条件達成ー  彗光眼 獲得


心がスッキリした。やるべき事が見つかったからだろう。

そして村人たちの方を見た。そして異変に気がついた。...見えるのだ。村人たちの身体能力が。使用できる魔法が。

 俺はすぐにピンと来た。これはステータスだ。だが他にも見たことの無い表示がたくさん見える。俺はすぐに鏡を見に部屋まで言った。村人たちが何か言っていたが聞こえない。

 そして鏡で自分自身を見た。そうすると自分のステータスが見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族  人族

名称 カイン・アリストリア

レベル 15

体力    2850/2850

魔力量   392/392

スタミナ  975/975

知力    2300

魔力耐性  298

物理防御力 253


称号    転生者

      魔王

      勇者

      剣聖


転生特典  魔王の才

      異世界の魔法

      前世の記憶(非常時にしか発動しない。規定のレベルに達すると

           コントロール可能)

      異世界の聖剣

      異世界の魔剣

      異世界の装備


異能    彗光眼


特記事項  この世界の魔法に対する適性は無かったが彗光眼の取得により使用可能

      陰魔法

      化魔法

      夜魔法

      星魔法

      契約

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「ははッはははッ...よし!俺には才能があるんだ。それも魔王の」

まさか自分にそんな才能があったなんて思ってもいなかった。

「それにこの異能...『彗光眼』は恐らくこのステータスを見る事ができる能力の事だろうが、魔法適性まで増えるなんて...最高じゃないか」

カインは心の底から歓喜する。これで戦える。あの腐った勇者と!!!!

「まだ分からない称号とかもあるけど、俺は魔王を目指す!それは決定事項だ。待ってろよクソ勇者!絶対にお前から、ティアを取り返す!」


カインの宣言が、狭い部屋に響き渡った。

俺は後悔と希望を胸に、明日へと動き出した。

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