第3話
お父さんの家は道場近くのマンションの一室だった。こんないいところに住んでいるんだ……。
もし、ママがお父さんとよりを戻したらここに住めるのかな。なんちゃって。やっぱり厳しいお父さんは好きになれない。
「もうご飯は用意してあるから」
ドアを開けるといい匂いがした。そして……。
「おかえりなさい。あっ、この子がミモリくん? こんにちは」
「こんにちは」
エプロンをつけた知らない男の人がいた。
「シャワーに行く。ミモリは?」
「ううん、いいや」
それよりもこの男の人は……?
「彼は僕のパートナーだ」
「パートナー?」
「んー、結婚相手……」
結婚⁈ 男の人だよ?
「じゃあミモリくん、さきにごはんたべましょ、私と」
と居間に通してもらった。
そこにいくとおいしそうなチャーハンと卵スープ、鶏ハム、サラダが用意してあった。
「たくさん食べてーおかわりもあるから」
匂いもすごくいい。この人が作ったのかなぁ。
「ふふっ、彼に本当にそっくりー」
……嫌だなぁ。知らない人と二人っきり。
「ねぇ?あなたのお父さんは剣道の時どんな感じ?」
とりあえず会話しよう……。
「怖いです」
「そうなのぉ? 普段は優しい人なのよ。そりゃあね、自分の子供ですもの。厳しくするわよ」
「普通反対じゃないの?」
「ううん、だって可愛いんだから。可愛いからこそ厳しくするよ」
「訳わかんない」
「私も訳わからないけどさ。てかね、せっかくの冬休みなのにあなたに稽古をしっかりつけたいって言って週に二回剣道場行ってあなたのために通っているのよ? 私との時間削ってまで行ってるんだからさ、ちゃんと習いなさいよ」
そこまでして……なんかお父さんのパートナーの人には申し訳ないなぁ。
「春の大会に向けて頑張ってるんでしょ?たくさん遠慮なく食べて食べて!」
と鶏ハムをたくさんお皿に載せられた。彼はニコニコ笑ってる。
「……こんだけ気合い入ってるのも、あなたが春に東京行くからっていうのもあるのよ。焦ってるかもしれないから熱が入ってるかもねぇ、多めにみてやって」
そうだったんだ。……風呂場からお父さんが出てきた。
「お、チャーハンおいしそう」
そこに道場では見ない柔らかい顔をしたお父さんがいた。母さんが隠し持っていた写真と同じ笑顔。そして少し僕に似た顔。
「ミモリもたくさん食べろよ、大きくならないぞ」
「はい……」
目の前では仲睦まじく会話をするお父さんとそのパートナー。そうか、もうお父さんはお母さんとは一緒になれないんだね。
しかし冬休み明けから世の中は新型ウイルス感染のニュースで持ちきりになって、小学校が休みになって周りも自粛、規制……そして道場も閉まって剣道ができなくなった。
友達だけでなく、お父さんにも会えない。ママはおうちでお仕事をするからずっと家にいる。
「剣道できなくて嫌だなぁ」
「待ちなさい、今は我慢よ」
と言うママの顔は浮かない。少し前から何回か誰かと電話をしている。仕事の電話ではなさそうだ。時に大きな声出したり、泣きながら話をしていたり。
そういえば引っ越しの準備も途中だし、新しいパパと最近会ってない。
「結婚はなくなったの」
……と言われてからやっぱり、しか思えない。
「新型ウイルスの件で東京行くのは危ないし、こんな時に彼は来てもくれないし……」
「よかった……」
「なにがよかった、なのよ……」
ママは僕に抱きついて泣いた。僕も目から涙が溢れた。
「剣道続けられる!」
「そうね、続けて頂戴……応援するわ」
でもママがかわいそうだった。この後布団の中でずっと泣いていたんだもん。……僕が守ってあげなきゃ。
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