21,5話♡:夢の中にて。

■□■□


 その日、僕は夢を見た。

 寝入ってから、夢を見た。


 僕の眼前に映っていたのは、小さな子どもの背中。女の子の格好をしていて、動物のお人形が住人の玩具の家で、遊んでいる小さな子ども。


 この光景に僕は見覚えがある。

 でも、これは、忘れようと努力して、そして、確かに忘れたハズの光景でもあった。


 ジッと眺めていると、まもなくして、妙齢の女性が現れた。

 子どもの母親だ。

 母親は、玩具のお人形で遊ぶ子どもの頭を、愛おしげに何度も撫でた。


「それで良いのよ」

「これで……良いの?」

「そうよ。女の子だもの。だから、こういうので遊ばないといけないの。あなたは女の子よ」

「僕は、女の子? でも――」

「女の子よ! ほうら、動物のお人形さんとお家で遊ぶの、とっても楽しいでしょう? ……あのね、私は女の子が欲しかったの。だからあなたは女の子なのよ。それに、女の子の格好すると凄く可愛いじゃない。他の人もそう思ってるのよ。他の人からいつも何て言われてる?」

「可愛い、って……」

「ほら。そこいらの女の子より、ずっとずうっと可愛いんだから……。ねえ、勇気・・


 この子どもは僕だ・・・・・・・・

 小さい頃の僕だ。


 これは、思い出さないように完全に完璧に蓋をして、忘却したハズの過去。

 数年後に、「僕は男の子だ」と強く断言した時に、母親が発狂して自殺して以来……僕と言う人間の歴史から、抹消した過去なのだ。


「――どうして⁉ なんで男の子だなんて言うの⁉ ――あああああああ‼ 女の子よ‼ 勇気は女の子‼ 私が女の子だって言っているんだから、あなたは女の子よ‼ どうしてお母さんを困らせるの⁉ 困らせてどうしたいの⁉ 死ねって言いたいの⁉ ……そう、分かったわ。なら、死んであげるわ‼」


 ……今、これを夢に見てしまったのは、思い出してしまったのは、僕の体が本当の女の子になってしまったせいなのかも知れない。


 もしも、僕が最初から女の子に産まれていたのなら……。

 あるいは、母親の願いを汲んで、女の子として振舞っていたのなら……。


 自分自身と女の子と言う結びつきを否定する度に、嫌な事が起きる。母親が亡くなった事もそうだし、それに、今回襲われかけた事もそうだ。

 僕は女の子にならない、という強い拒絶が母親を追い詰め、そして、自分自身が女の子になってしまったという事実を軽んじていたが為に、慌てて服を脱いでしまって、それが子豚のタガを外させてしまった。


 僕は……。


 僕は……心も……女の子になるべき、なのかも知れない。そうする事で、全てが解決するような、そんな気がする。


 今までのように、瞼を閉じて見なかった事にする、と言う手も確かにある。

 それはとても容易い事でもある。

 けれども、そうしたとしても、こうして何かの拍子に思い出してしまうのだから、望む望まないに関わらず、いつかは克服しなければいけない時が必ず訪れるのだ。

 その”いつか”が今であるような、そんな直感にも似た感覚を、僕は抱いていた。

 勇気を持って、目の前の現実をしっかり見ていかなくちゃいけない時が、来てしまったのかも知れない。


 僕の名前は勇気。少しぐらいは、そんな名前の通りに勇気を持っていると思う。



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