21話♡:悩み方がもはや女の子@お風呂。
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――要約すると、スライムが服に入って来たせいで慌てて下着姿になった僕を見て、その瞬間に子豚の自制のタガが外れてしまった、と言う事らしい。
子豚のスキルは【甘美なる催眠】と言って、睡眠を誘う匂いを広範囲に撒き散らせる効果を持っていた。
これは、なんとも襲うには都合が良いスキルでもあり、実際に行動を起こす後押しともなってしまった――と子豚は語る。
『……ううっ、もう全部言った。これが全てだよぉ。……痛ぇよ。痛ぇよ。足だけじゃなくて、肩とかわき腹にも突き刺さってんだよぉぉぉ』
「……針が飛び出ない所を見るに、ウソを言ったわけではないようだな」
ゴリが指を鳴らすと、鉄の処女が再びゆっくりと開き、体の所々から血を滲ませている子豚が放り出された。
痛みと恐怖からの解放によって、子豚は嗚咽混じりに涙を流し、
「……ママァ」
そう言って気を失った。
「……」
「……」
クラスメイト達は、誰一人として何も言わなかった。
いや、言えなかったのだ。
この状況で一体何を言えと言うのか……。
「……誰か、手当てをしてやってくれ」
ゴリのその言葉に、クラスメイト達がハッとした。
そして、治療系のスキルを持つクラスメイトが、慌てて子豚の傍へと駆け寄り、治療を始める。
スキルがまだ弱いからなのか、子豚の傷の治りはゆっくりだ。
けれども、少しずつは確実に治っており、それのお陰か徐々に場の雰囲気が和らいで行き、その中でも一際に安堵した様子だったのはゴリだった。
ゴリは、色々と生徒の事を考える人だ。
施設の存在を独り占めせず、迷う事無く全員に伝える、という決断を下した所からもそれは分かる。
でも、だからこそ、子豚との事はかなり心を痛めているように見えた。
僕は、この事態に巻き込まれた被害者であって、だからゴリに助けを求めたけれど――結果的に、ゴリにも辛い思いをさせる事になってしまった。
「……」
なんとなく、居心地の悪さを感じる。
今更だけれど、もっと別に、何か良い解決方法があったんじゃないかなって、そんな事を考えないでも無くて……。
この事について考え始めると、どんどん気分が悪くなっていった。
けれども、別の事を考えようにも、倒れた子豚と哀しそうなゴリの表情を見てしまう度に、思考が引き戻されてしまう。
色々考えた末に、僕は、子豚の治療を最後まで見届ける事なく指輪を使って扉を出した。
物理的な距離を置く事で、一旦気持ちを落ち着かせようと思ったのだ。
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ひとまず、ポーチの中にパンパンに詰まっていた魔石をお金に変える。
すると、カード残高が、「8,580」となった。
結構増えた気がする。
「これぐらいあれば……宿に泊まれるかな……?」
僕はそんな独り言を呟きながら、施設の奥の方へ、つまり宿まで向かう事にした。
今は一人で休める場所に行きたいからだ。
とぼとぼと歩きながら通路を進んで行く。宿にはすぐに着いた。
「いらっしゃいませ」
宿の中に入ると、角刈りの若い男性――フロントマンから入店の挨拶を貰った。
「……お疲れのご様子ですね。であればこそ、当宿でぜひとも羽を伸ばして頂けたら幸いです」
凄くニコニコしていて愛想は良い感じだけれど、あまりにそれの粗が無さ過ぎて、営業スマイル感も強いフロントマンだ。
まぁ、営業スマイルだとしても、態度悪いよりは良いけど……。
「一泊したいんですけど、これで足りますか?」
取りあえず、数字を表示した状態のカードを見せる。すると、フロントマンが眉根を寄せた。
「……これだと、一番安い部屋になります。一泊朝食付きのかなり狭いシングルのお部屋なら、8,500で泊まれます」
ほぼ全額……。
一泊したら残金80になってしまう。
「どうされますか?」
僕は少し悩む。
でも、一人の時間はどうしても欲しいワケで。
だから僕は、
「……お願いします」
と、全財産をほぼ使い切る事になるとしても、泊まる事に決めた。
「ありがとうございます。それでは、お支払いは先払いとなっておりますので、一旦カードをお預かり致します」
カードを渡し、手短に支払い手続きを済ませ、カードを返却して貰う。すると、カードの返却と共に、「101」と書かれたタグのついた鍵も同時に渡される。
「あの、鍵を渡してくれるって事は、もう部屋に入っても……?」
「はい。いつでも準備は万端ですので、常々と、すぐにお渡し出来るようになっております。……他のお客様が一人もいませんので、予め準備する時間はたっぷりありまして」
……な、なるほどね。
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「……本当に狭いや」
101号室に入ってすぐに、思わずそんな言葉が出た。
簡素なパイプベッドと、テーブルとクローゼットが一つと、非常に質素な家具しか無いのに、圧迫感を感じてしまうぐらいに狭い。
フロントマンの言う『かなり狭い』と言う言葉に、嘘偽りは無かったらしい。
「まぁ泊まれるならなんでも良いけど……うん?」
狭い部屋をうろつきながら、ふとクローゼットを開いてみると、そこに、バスタオルとナイトウェアが置いてあった。
この宿のお風呂を自由に使って良い、という事かな?
「……お風呂入りたいな」
そこまで汗を掻いていたわけでは無いけど、お風呂があるなら入りたい。ゆっくりと湯に浸かれば、きっと、気持ちも落ち着く。
部屋の中にはお風呂は無いから、きっと施設の中のどこかにある。
僕は、部屋を出て大浴場探しを始める事にした。
そうして、宿内をうろついていると、大浴場はすぐに見つかった。
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暖かいお湯に浸かると、心も体もほぐれていくような感じがした。
「ふぅ……」
僕の吐いた息の音が、広い大浴場の中で木霊する。
お客は僕しかいないから、ほぼ貸切状態で広々とこの空間を使えていて、それのお陰もあって思っていた以上のリラックス効果を得られていた。
「……それにしても、女の体ってやっぱり柔らかいや」
ふと、自分自身の二の腕や太ももをぺちぺちと触って見ると、なんだか、とても柔い。
僕は太っているわけではなくて、むしろ体は細めではあるのに、それでも、肌というか筋肉と言うか、とにかく全体的に肉体が柔らかさを伴っていた。
男だった時とは明らかに違う体と言う事を、改めて、再認識させられる。
……自分が女になった、と言う事をきちんと受け入れる必要がある。それは分かっている。けれど、それでも、どう受け止めるべきかについては、やっぱり難しい所がある。
そう簡単に「じゃあ心まですっかり女になります」とは行かないのだ。
でも、僕は男だと言い張っても、それを周囲が納得してくれるとも限らないのも事実であって。子豚が僕を襲いに来たのも、僕を女として見ていたからだったワケで。
僕自身の思いとは裏腹に、この体が、そして周囲が、僕を女にしようとしてくるし、そうであるべきだと訴えかけて来ている。
「……どうすれば良いんだろう」
はしたないとは知りつつも、僕は、湯の中に顔を埋めるとぶくぶくと泡を作る。
悩み事も、この泡みたいにすぐに弾けて消えれば良いのにとか、僕はそんな事を思った。
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