20話♡:歪な片思い。

「……へっ、大した事無さそうなスキル」


 ゴリのスキルを見て、子豚はそう強がって見せたものの、その体は震えていた。

 ――歪な片思いインモラリスト

 このスキルは、恐らく、ゴリが言った通りに普通ではない。


「……大した事があるか無いかは、お前の返答次第で変わる。……何度も言うが、本当の事を言ってくれよ」

「だーかーらー、なんでそんな事――」


 と、子豚が反抗しようとした次の瞬間。

 ゴリのスキルによって現れた鉄の処女が、賛美歌を歌う事をピタリと止める。そして、錆付いたような軋む音を響かせながら、ゆっくりとその前面を開き、その内部が露わにした。

 鉄の処女の内部では、無数の金属製の針が、跳び出たり引っ込んだりを繰り返している……。


 ガチン! ガチィン!


 と、無機質な音が鳴り響き、それを見た子豚が、さすがに言葉を失ったようだった。


「あっ、あっ……」

「……安心しろ。スキルの説明によると、人が入れば、針は一旦出なくなるようだ」

「――あ、安心するとかしないとかそういう問題じゃねーだろ! お前っ! まさか俺をこの中に入れるつもりじゃねーだろうな⁉」

「そのまさかだ。……それでだが、このスキルは尋問用途で使えるらしいんだ。尋問したい相手を中に入れ、スキル使用者の俺が問う。ウソを言えば、針が出る。真を言えば、針は出ない。そういう仕組みだ。……ちなみにだが、黙っていると言うのは無しだ。答えない=ウソをついている、という判断になるらしい。……で、回答の制限時間だが、これは俺が決めれる。そうだな、今回は一分にしよう」


 ゴリが言い切ると、鉄の処女が風を吸い始めた。

 不思議な事に、その吸い込みは僕らには何の影響も無く、ただ子豚のみが引き込まれていった。


「やだっ、やめてっ、死にたくないいい」

「嘘を言わなければ良いだけだ」

「ふざけんな! ふざけんな!」


 子豚は必死になっていた。

 懸命に地面に爪に付きたてて、吸い込まれないように抗っている。

 嘘さえつかなければとは言っても、あの中に入れられて描けるイメージは死しかないからだろう。


「ぐううううっ!」


 儚い子豚の抵抗をあざ笑うかのように、鉄の処女はあっという間に子豚の体を飲み込むと、開く時とは対照的に、目にも留まらぬ速さで扉を閉めた。


 なんと言えば良いのか。

 とにかく、ゴリのこのスキルは、あまりにも怖すぎる。

 このスキルを持つのが、決して悪用はしないであろうゴリで良かった、と僕は思う。


『――出せぇええ! ――出せえええ!』


 出せとは言うけれど、ガッチリしまっているのであって、これはもうどうしようも無い。

 可能性があるとすれば、ゴリがスキルを解除する事だけれど……当の本人ゴリは、どこか決意を固めたような表情をしているので、多分無理だと思う。


「スタートだ。さて、答えて貰う」

『……何が答えだ! この世界から戻れたら、絶対PTAや教育委員会に訴え出るからな! 失職も覚悟しとけよ!』


 威勢が良い言葉に思えるけれど、良く聞くと涙声なのが分かる。

 だけど、これをかわいそうだとは僕は思えなかった。

 だって自業自得だから。

 そして、クラスメイト達も僕と同じなのか、その表情にはゴリのスキルへの畏怖はあっても、子豚への同情の色は全く見えなかった。


 ただ、一人だけ……スキルを使ったゴリ本人だけは、少し辛そうな顔をしている。


「それで、なぜ、お前はスキルを使って皆の意識を奪った? それと、どうして勇気の蛇に噛まれたりしたんだ?」

『……』

「どうして黙る? 頼む。命を奪いたくは無い」

『そう思うなら、さっさとこのスキル解けよ。今回の件、絶対俺忘れねぇからな。お前マジで覚えて――あがあああっっ!!』


 突然子豚の悲鳴が上がる。

 中の様子を伺う事は出来ないけれど、すぐに、悲鳴の原因は分かった。

 鉄の処女の足元から、ぽたり、と一滴ずつ赤い液体が流れ出てきている。

 針が子豚の体を突き刺し始めたのだ。


 どうにも、制限時間内中は安全、と言うワケでは無いようだ。

 答えるにしても、さっさと喋らないと、どんどん痛めつけられていく仕様らしい……。

 ゴリ曰くは尋問用、らしいけれど、これは尋問と言うよりも拷問に近いものがある。


『足がああっ、足がっ、痛ぇ――痛ぇよぉおお!』

「言い忘れたが、制限時間が来るまでの間にも死なない程度に針が飛び出て行く。時間が過ぎるか、嘘をつけば、その瞬間に全てが飛び出てくるがな。……なあ、本当の事を言ってくれ」

『分かったよぉ、分かった。言うからあああ!』


 傷害を与えられて、子豚が急に素直になる。それから……ぺらぺらと本当の事を喋りだした。

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