14話♡:災禍の咆哮。

 さて、かくして僕らA班は迷宮に戻る。

 先頭にゴリ、僕と二段が最後尾で、残り三人が真ん中と言う、最初の頃と同じ陣形にて、一旦帰路につく事となった。

 施設の事を、早く皆に伝えたい、というゴリの要望を受け入れたのである。ゴリ曰くは――全員が施設の事を知って使えるようになれば、心の余裕も産まれるだろうから――という事らしい。


 ゴリがこうした心配を抱いたのは、恐らく、ケダモノ一郎の暴走を見たからなのだと思う。


 クラスメイト達は、基本的に、楽しげで軽い感じの雰囲気ではある。異世界だー! で、テンション上がってたくらいだしね。

 でも、それは、いつ瓦解してもおかしくないものなのだ。

 ケダモノ一郎が、それを、証明してしまった。

 ゴリは教師だからこそ、そうした、生徒達のメンタル面をも気にしているのだろう。

 こういう分野は、僕がどうこう出来るものでもないので、経験もあるであろうゴリに素直に任せた方がきっと上手く行くと思う。


 ……ところで、エキドナちゃんを迷宮内に再び解き放っているという事もあって、今現在、僕個人のやる事出来る事がほぼ無くなっている。

 うーん……暇だ……あっ、そうだ!

 暇つぶしに自分のステータスでも眺めよう。

 詳細を記すには今が丁度良いと思う。


 ――――――――――

 氏名:小桜 勇気 

 性別:女 レベル:0.2 

 次のレベルまで:10/120


 動体視力1.01

 基礎筋力0.75

 身体操作0.87

 持続体力0.86

 魔力操作2.18

 魔力許容1.98

 成長水準3.65


 固有スキル 召喚士2.45

 ――――――――――


 こんな感じだ。

 筋力とかがまだ低いけど、意外と、魔力関係の上がり幅が大きめ。


 なんとなくは気づいていた事だけど、僕って、ステータス的に前衛タイプではないよね。

 まぁでも、僕のスキルは召喚士なのだ。

 物理系のステータスに上がられても、スキル的に意味が無いから、不満は特に無いです。


■□■□


 しばらく歩いていると、スライムと出くわした。

 僕が前に見たのよりも少し大きくて、色が赤のスライムだった。

 そいつは、にちょにちょと地面を這うように動いている。

 どうやら、エキドナが言う事をきちんと聞いて、魔物を残してくれていたようである。


 この赤スライムとの戦いは、班員に委ねる事になる。

 僕は、エキドナ以外の戦う術を持っていないので、手出しが出来ない。

 まぁ、他のクラスメイトの戦い方やスキルとか、実は、地味に気になっていた事ではあったので、見させて貰う事にする。


「俺がやる」


 ふん、と鼻息を荒くしながら前に出張ったのはケダモノ一郎で、他に、名乗り出る班員はいないようだった。


「おらっ」


 ケダモノ一郎は、そそくさと赤スライムに近づくと、豪快に蹴っ飛ばす。

 蹴り飛ばされたスライムは、「ぴぎぃ」と鳴きながら壁に当たり、ぐににににっとしなった後、またすぐに元の位置に戻って来た。

 赤スライムは、いくらかダメージを負ったようだけど、一撃とまでは行かないようである。

 なるほど。

 スライムと言うだけあって、意外と打撃には強いのかも知れないね。

 エキドナが、地道に倒し続けていられるのは、毒牙のスキルが、効果を発揮しているからなのかも知れない。

 思えば、僕の目の前で倒した時も、牙を突き立てていた気がする。


「くそっ……」


 ケダモノ一郎が悪態をつく。

 どうやら、今ので決める予定だったようで。

 随分と不満そうに赤スライムを見ていて――


 ――突然、赤スライムが何かを吐き出した。


 ごうっ、と舞ったそれは炎だった。

 

 僕を含め、全員が一瞬ビクついたものの、よく見ればそこまでの威力は無さそうな炎ではある。

 あっと言う間に消えてしまう炎だった。


「……あんま熱くなさそうだが、舐めてかかるワケにはいかねぇな。はっ、ここはスキルの出番だな」


 ケダモノ一郎が、喜々として、赤スライムを見やる。

 多分、スキルを使いたくてしょうがなかったんだろうな、と言うのが凄く伝わって来る。

 僕に突っかかって来た理由に、そういう部分も、あったのだろうね。

 魔物が出て来ないんじゃ、スキルを使う機会も無いのだから、それを奪われた怒りもありそうだ。……犯すのがどうの、と言う台詞もあったから、まぁ、女を求めてた側面もあるのだろうけど。


「――くらえ」


 仁王立ちをして、赤スライムの前に立ちはだかったケダモノ一郎が、大きく口を開けた。

 そこから飛び出たのは、空気を振動させ、四方の壁や床まで揺らす咆哮だった。

 思わず、僕は耳を塞ぐ。

 他の班員たちも、少し驚きつつも、僕と同じように耳を塞いだ。


 咆哮が収まったのは、数秒後の事だった。

 そして、咆哮をまともに受けたらしい赤スライムが、痙攣を始めた。

 ぴくぴくしてる。

 何かしらの効果がある、咆哮だったようだ。

 でも、どんな効果があるのだろうか……?

 スキルの使用者で、どのような状態異常を掛けたのか正確に把握しているであろうケダモノ一郎は、鼻をこすりながら、再び赤スライムを蹴っ飛ばした。


 すると、これで勝敗がついたようで、赤スライムはただの液体へと戻り地面の染みと化した。

 残ったのは、お馴染みの魔石だ。

 ケダモノ一郎が、満足げに魔石を拾う。


「へへっ、一発目で効果あったか。運が良いな僕」

「おいおい……今のはなんだ? 何したんだよ?」


 と、聞いたのはケダモノ二郎。ケダモノ一郎は、「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに、胸を張りながら、それに答えた。


「スキルを使ったんだよ。俺のスキルは【災禍の咆哮ディズ・ラウド】っつーんだが、一定確率で相手を状態異常に出来んだ。今はまだ一つ、麻痺だけな上に低確率ではあるが……スキル値が上がれば確率上がって状態以上の種類も増えるっぽくてな。かなり良い感じのスキルだぜ」


 なんと。

 ケダモノ一郎のヤツ、案外良スキルを持って――いや、そんな良いスキルでもないか。

 だって、状態異常を無効化出来る能力持ちの敵とか、あるいはそういう装備とかあったら、何の意味も無いワケだし……。

 そこらへん考えた方が良いんじゃ? と言いたい所ではあるものの、「ケチをつけるのかよ」と怒り出しそうな気もするので、僕は言わない事にした。



 と、まぁ。

 こんな感じに、僕らは、ゆっくりと待機班の待つ場所へと戻って行った。

 その道中で出た魔物は、全てスライムで、数は五匹だ。

 で、ケダモノ一郎が、それら全ての相手をした。


 他の皆が特に文句を言わなかったのは、魔物云々に関して、僕に突っかかってきたケダモノ一郎を見ているから、今回は好きにさせてやろう、といった所なのだと思う。


「にしても……急に魔物が出て来るようになったな」


 そう言って、ゴリがなぜかチラりと僕を見た。

 僕は、口笛を吹きながら、ぷいっと横を向いた。


■□■□


「おい、高田! 大丈夫か!?」

「かひゅ、かひゅ……」

「小さくてすばしっこいスライムではあったが、まさか口ん中に入っちまうとはな……高田も運が悪い……」


 僕らA班が、待機班の待つ場所に到着した時、なんだか、とても騒がしい事になっていた。

 スライムを呑み込んでしまったクラスメイトが出たらしいのだ。


「あひゅ、かひゅゅ……」


 呑み込んだスライムが気道に詰まっているのか、掠れた呼吸になり、青ざめた顔で目を剥くクラスメイトは――なんと、モジャ男だった。

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