13話♡:謎技術、再び。
「はいはい、じゃあ着けて見てー」
急かされて、早速上下ともに着けてみる。
慣れないからちょっと手間取ったけど、なんとかなった。
さて、せっかく着て見たのだから、今の自分がどんな感じなのか確かめてみようか。
試着室の中に、丁度よく姿鏡があったので、自分自身を眺める。
すると――そこには美少女がいた。
さらりとした長いセミロングの黒髪に、小さく整った輪郭、それに通った鼻筋と少し垂れ目がちの瞳が絶妙なバランスで配置されている。
それとなく存在感を放つ大きめな胸と、すらりと伸びた肢体が、可愛らしさの中に大人っぽさを足すような感じになっている。
……。
自分の容姿を直視して思う。
持ってきてくれた下着が可愛い色柄のでよかったな、と。
これがもしもアレな下着だったら、多分本当にやばいくらいエロそうな女にしか見えない、かも。
「取り合えず、大丈夫そう?」
「うん。ありがとう。でも、本当に良いの? これ高いんじゃ……」
「定価なら340,000くらいする」
僕の所持金のざっと百倍の金額もするらしい。
思わず僕は目を丸くする。
「な、なんか悪いよ。やっぱりこれは――」
「良いの。私も楽しかったから。……その、周りにこういうお話出来る人居なかったの。他のお店に居る女の人とかでも、どんだけ若くても中年くらいだもの。歳が近そうな女と楽しくお話出来るのは貴重なんだって」
歳が近そう、と言う事は、大体十代中ごろってくらいなのかな。
-五歳ぐらいにしか見えないけれど、人の発育や成長に、あれこれと言うのも性格が悪い。
それもまた、一つの個性だしね。
そもそも、エマちゃんはエマちゃんで、子どもらしい愛らしさがある事はある。
変な人にお持ち帰りされる危険とかありそうな感じ、と言うか。
「で、お姉さん。何回も言うようで悪いんだけど、ちゃんとうちを贔屓にしてね?」
「……うん。分かった」
ジャージを羽織ながら、僕は頷く。
お金に余裕が出来たら、今度は、ちゃんと買いにまた来店しようと思う。
■□■□
エマちゃんのお店を出て、つらつらと帰路につく。
なんだか、思っていたよりも、時間が掛かってしまった気がする。
ゴリ達も待ちくたびれているかも知れない……。
そこはかとなく悪い気がしたので、僕は、お土産みたいなものでも買って行く事にした。
何かないかな、と思いながら通路に並ぶお店を見ていくと、ひとつ100くらいで買える、フランクフルト見たいな食べ物を売っている所を見つけたので、全員分それを購入。
下着が一枚だけ、と言うのもそれはそれでヤバイと思うので、次のを買う為にお金を貯めたい事は貯めたいんだけれど……皆からの印象も、大事ではあるからね。
ちなみに、ケダモノの分は近づきたくないから無しにしようかと一瞬思ったけど、さすがにそれをしてしまうと、僕の性格が悪いように見えるからやめた。
……ところで、揉め事になるから、魔石を全部使えって話だったけれど、こうしてカードの数字に全てを変えられるのであれば、あんまり気にしなくても良くなった気がする。
現物があるから気になるのであって、すぐに数字に変えてしまえば、後は数字を見せないように教えないようにすれば良いだけなワケだし。
■□■□
「おや、お戻りになられましたか」
「はい」
入口カウンターの初老の男性に挨拶をしつつ、僕は、ゴリ達を見る。
すると、目を瞑っていたり欠伸をしていたりと、各々、少々待ちくたびれた感があるようだった。
ごめんよ……。
代わりに、食べ物を買ってきたから、許しておくれ。
「さて、そろそろ当館からお帰りになられる頃かと思いますが、その前に、これをお渡しして置きましょう」
「へ……?」
ゴリ達の元に戻ろうとする僕を、初老の男性が呼び止める。
なんだろう? と、僕が振り返ると、すっと指輪を一つ差し出して来た。
「えっと……」
「当館へ入る為の扉は、一度外へと出たのなら、消えてしまいます」
えぇ……ウソでしょ……。
エマちゃんに、また来る、って言ったのに……。
「――ですが、こちらの指輪を使えば、任意で扉を出す事が出来ます。これは、初めて来られた方には必ずお配りしております」
な、なるほど。そういう事かぁ。一瞬ビクっとして不安になってしまったよ。
「どうぞお収め下さい」
僕は、一度食べ物をカウンターの上に置いて、それから指輪を受け取って……どの指に嵌めようか迷った。
大きさ的には中指当たりが丁度良さそう、かな?
「どの指に嵌めても、丁度良い大きさになりますよ」
初老の男性から助言が入る。
あのカード見たいに、謎技術がふんだんに使われている指輪のようである。
試しに、ブカブカになるであろう小指に嵌めて見ると、指輪はするすると小さくなって、言葉通りにピッタリとなった。
「おー」
「……と、まぁこんな感じですな。それで驚かれている所を悪いのですが、指輪には注意事項が一点ございますので、それもお伝え致します。扉が出せるのは、周囲に魔物が全く居ない事が条件になります。魔物がいる、気配がある、そんな時には扉は出ません。そういう風に造られております。……魔物がこの中に入って来ても困りますので」
どうやら、完全な安全地帯のみでしか、この施設には出入り出来ないようになっているらしい。
でも確か、エキドナを普通にここに出せてしまったような気も……。
まぁ、魔物とはいえエキドナは僕の召喚獣でもあるから、そういうのは扱いが違う、って感じなのかも知れないけど。
「それでは、またのご利用をお待ちしております」
と、初老の男性が丁寧に頭を下げる。
何はともあれ、ここには確実にまた来れるのだから、色々な疑問はその時にでも改めて聞こうと思う。
今はそれよりも、早く戻らないといけないのだ。
僕は小さく手を振りつつ、カウンターの上に置いた食べ物を再び手に取り、ゴリ達の所へと向かった。
「……ようやく戻って来たか。随分時間が掛かったようだな」
「え? そんな掛かった? 五分くらいでしょ?」
「いや、一時間以上は掛かってたぞ」
ゴリが渋い顔をしていた。
「……食べ物買ってきたから、これで許してよ」
僕は自分の分を取り出して頬張りながら、順々に配って周る。
二段は普通に受け取り、ゴリが「良いのか?」と言いつつも受け取り、ケダモノ二郎は「おせーよ」等と言いながらも受け取り、風見鶏が少し迷ってから「へへっ」と受け取った。
皆、お腹が空いていたのか、頬張りながら笑顔になっていく。
待ちくたびれた事に対しての憤りは、これで許されたようで、何よりです――
――っと、そうだ、ケダモノ一郎にも渡さないと。
「ほらっ」
「……んだよ。僕の分まであんのかよ。いらねっ」
「仲間はずれは嫌でしょ? さっきの事は、僕もう忘れてるから」
「ちっ。だからいら――」
押し問答をいつまでも続けるのも面倒なので、強引に受け取らせる。
「お、おい……」
「さーじゃあ行こー」
僕は、拳を上げて、ケダモノ一郎からの返答をシャットアウトした。
すると、
「そうだな。ここの事、他の連中にも教えてやらないといけないしな」
ゴリが、自分自身の指に嵌っている指輪を見て、そんな事を言った。どうやら、ゴリや二段達は、既に指輪を受け取っていたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます