12話♡:えちえちな下着。
中に入ってみると、そこかしこに隙間無く女性用の衣類等が陳列されていた。
あまり広くはない事もあってか、変な圧迫感も感じる。
「んーと、お姉さんのサイズだと、ここらへんの商品だね」
下着売り場の場所の中でも、僕に合うサイズがある場所を案内される。
けど、そこに並んでいる商品は、品数が少ない感じ……。
すぐ隣の棚に陳列されている下着は、いっぱい種類があるんだけれど。
まあ、別に着れればなんでも良いと言えば良いんだけれど、でも、折角だし、種類があるなら選びたいとも思うのが人の性だと思う。
お金との相談にはなるけども。
「ここの何か少なくない? 隣の棚にはいっぱいあるようだけど……」
「うん? そうは言ってもねぇ」
エマちゃんが、露骨なくらいに眉をひそめる。
「大きめサイズはデザインが少ないから。……女ならそれぐらい知ってるでしょ」
元男なので、そんな事情知りません。
「デカ過ぎて既製品じゃ着けれないっていう人より良いでしょ」
「……そんな人居るの?」
「居るよ。ちなみに、あたしはそういう人見たら、陰でミルクタンクってあだ名つけるかな」
「エマちゃんの心の声は要らない。……とにかく、この中から選べば良いんだね」
種類が少ない理由は分かった。
文句を言っても仕方がない事のようなので、この中から選ぶ事にしようか。
と言う事で、下着を眺めて――ふと、僕は、ある事に気づいた。
ただでさえ種類が少ないと言うのに、並んでいる下着のどれもが……なぜか、どことなく扇情的な感じの下着なのだ。
この白いヤツなんて、スケスケのレースなんですけど……。
白って清純なイメージあったのに、全然清楚じゃないよコレ。
勝負下着ってヤツ?
でも、勝負する機会なんて未来永劫に来て欲しくない僕からすると、こういうのはちょっとね……。
悩みながら、ついでにチラリと値札を見る。
27,200と言う数字が見えた。
思わず吹きそうになりました。
確か、僕のカードに入ってる金額が「3,480」だよね。
軽く八倍くらいなんですけど……。
「ん? お姉さんどうしたの?」
僕の様子を横で伺ってたエマちゃんから声が掛かる。
どうしようか。
いや、正直に言おう。
もしかしたら安いのを見繕ってくれるかも知れない。
「いや、お金足りなくて。高いなあって」
「お姉さんが今手に持ってるのは、良い生地使ってるヤツだから、そりゃあ高いよ。でも、何の効果も無いヤツだから、効果付きのと比べたならまだ良心的な価格かな」
「効果って……そんな下着もあるの?」
「あるある。魅了とか誘惑がうっすらと掛かってるのとか、自動体調補正が掛かってるのとかだと、その十倍は軽くするよ。当然それより上もあるし」
その効果、多分僕は一生使わないと思うから、絶対要らない……。
「うーん、今の手持ちがこれしか無くて」
取り合えず僕は数字を表示させた状態でカードを見せた。
エマちゃんの表情が少し曇る。
「お姉さん貧乏……」
「うるさい」
「……これだと、女を捨てたようなデザインの一番安いのしか買えないよ。そっかあ……うーん、うーん……うん、分かった!」
何が分かったのかな?
「さっき揉み揉みしちゃったし、そのお詫びも兼ねて一着プレゼントする。代わりに、これからもご贔屓にしてね? ……じゃあちょっと待ってて。妖婦のブラって言うのがあるんだけど、それ持ってくるから! ちゃんと上下セットだから安心して」
そう言って、エマちゃんは足早にどこかに行った。
プレゼントって……そりゃ、金銭的に助かるから嬉しいんだけど、何だか悪い事したような気分になる。
確かに、揉み揉みされてイラッとしたのは事実だけれど、それはもう、心情的に水に流しているんだけどなぁ……。
にしても、妖婦のブラ、ね。何か不穏な名前に聞こえるのは僕だけ……? と、そんな風に感じた僕の不安は、なんと的中してしまう。
エマちゃんが戻って来た時、手にしていたそれを見て、僕はそう思った。
淡い桜色のそれは、すけすけでは無いけれど、どこかセクシーさを感じさせるレースとフリルがあしらってある。
初心者の僕には、ちょっと難易度が高い感じの、そんな下着であった。
唯一の救いだったのは、面積が狭くは無く広めだった事くらいなもの。
「可愛い柄でしょ? お姉さん、あんまりきわどいの好きそうじゃないと思ったから、妖婦のブラ合うかなーって思ったんだよねえ。フルカップだから、そんなに胸の大きさを強調するワケじゃないし。頑張らなくても既存在感ある胸だし」
「そ、そう? でもその、色とかが」
「……可愛い色だしデザインだよ」
「そうかも知れないけど、黒とかそういう色で飾り気の無い方が……」
黒って、大人っぽくて、落ち着いた色の様な気がするんだよね。
「え? 黒? 逆に目立つって言うか、随分攻めた色だと思うけど……」
「へ? そうなの?」
「そうだよ。黒とか赤とかもだけど、えっちなお姉さんとかが良く着けてる攻撃的な色だと思うけど」
なるほど……確かに言われて見ると、テレビに出たり雑誌に載ってるセクシー女優とかって、黒いのとか赤いのとか着けていたような気がする……。
そうか、黒ってえろいんだ。
「こういう桜色とか白とか、デザイン間違えなきゃ女の子だなーって色だよ。間違えると黒以上のスケベ下着になるけど。……まぁその、えちえちなのが良いなら、そういうの持ってくるけど?」
「待って! えちえちなのは要らないです。それが良いです……」
俯きながら、頬を赤く染めながら、僕はエマちゃんの腕を掴んでなんとか食い止める。
「そっか。なら良かった。じゃあ、これについてる効果について説明するね」
「効果……? 何か効果がついてるの?」
「うん。まずこの下着はちょっと特殊で、どの女性にも合うようになってるんだ。自動でサイズが変わるから」
変な効果じゃ無さそうで、ほっと一安心。
もしも、誘惑とか魅了って言葉が出てたら、投げてた自信あるよ。
「それともう一つが、防酸かな。多少の酸じゃ溶けない」
「防酸……? それって何か意味あるの?」
「酸攻撃してくる魔物と出くわした時とか、絶大な効果があるんだよ! 服も下着も溶けてボロボロです、大事な所も隠し切れません――的な状態で迷宮逃げ回りますって嫌でしょ? こういう時に下着が無事なら、多少恥ずかしいだけで済むけど」
た、確かに、この先そんな魔物が出てくる可能性を、否定はしきれない。
その時、素っ裸で逃げ回るハメになるのは、凄く恥ずかしくて嫌だ。
そうなるくらいなら、まだ、下着姿で逃げ回る方が良い。
僕は、エマちゃんの言葉に、こくこくと何度も頷く。
すると、エマちゃんは下唇を舐めながら、ぼそっと何かを呟いた。
「……でも、服だけ溶けて下着が無事って、それはそれで男から見るとかなりエロい見た目になるそうだけどね。だからこそ妖婦のブラっていう名前なワケで。これは教えなくていいか」
上手く聞き取れなかったけれど、なんて言ったんだろう。
まぁ、大した事では無さそうな雰囲気ではあるので、気にする必要は無さそうだけど……。
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