11話♡:女の子が女の子の胸を揉むのは許され……?
通路は、煉瓦造りの建物や、石畳で出来ている路面で整えられていた。
どこか、風情のある景色だった。
お店の人もきちんとおり、一見すると、普通の商店街に見えなくもないのだけど……僕以外の利用者がいないようで、その事で少しだけガッカリもしてしまった。
僕ら以外の迷宮探索者が居たのであれば、あるいは、有益な情報を聞ける可能性もあったのだけれど……。
「……まぁ、仮に居たとしても、話を聞いてる時間も今は無いんだけどさ」
早めに戻らないと、ゴリ達も待ちくたびれるだろう。
それが原因で、また揉め事が起きたりするのも、避けたい所ではある。
他の探索者が居ないのは、仕方がない事だとして、僕は最初の買い物をすべく、看板の文字を追う。
すると、そんなに広いわけでは無いからか、お目当ての衣類店がすぐに見つかった。
――エマ衣類店。
ここだ。
「……す、すみませーん」
扉を押し開けながら、僕が来訪を知らせると――カランカラン――とベルが鳴り、少女が一人、パタパタとこちらへ駆け寄って来た。
「いらっしゃいませ」
そう言って、ぺこりと頭を下げた少女は、とても小柄だった。
十歳くらい、と言われても信じられるくらいに、幼さの残る顔立ちでもある。
まさかとは思うけれど……
「……店員さん?」
「店員って言うか、店長のエマですけど……」
「……こんなに小さいのに?」
「小さくても店長だよー。小間使いとかじゃなくて、正真正銘の店長!」
「……」
「疑ってるって感じの目だね……」
「そんな事ないよ。ちょっと驚いちゃっただけ……。疑った感じになってごめんね……」
お店の中に、この子以外の気配はない。
店番と言う雰囲気でも無いから、確かに、店長なのだと思う。
だから、本当に、ちょっと驚いてしまっただけなのだ。
「分かってくれたならOK。……それで、お姉さんは当店に何をご所望で?」
「えーっと、下着を買いに来たんだけど」
と、手短に目的の品を伝えると、
「ふーん、そこそこデカそう。んっ」
「――ひゃっ」
いきなり、胸を鷲掴みにされた。
この子――エマちゃんの突然過ぎたその強行に、僕は一瞬唖然とした。
小さい指ながらも非常に乱暴で力強い手つきで、ぐにぐに、ぐにぐにと僕は自分の胸を揉みしだかれて――
「痛っ! 何するのっ!」
――エマちゃんの頭の上に拳を落とした。
「ぐぇ」
潰れたカエル見たいな声が出てきた。
表情も似たような感じである。
エマちゃんはしばらく悶絶したものの、そのうちに回復したようで、涙目になって頭をさすりつつ、立ち上がってくる。
「……何もげんこつ落とさなくても」
「痛かったんだけど」
わりと、本気で痛かった。
「うん、まぁかなり乱暴に揉んだので」
「何でそんな事したの?」
「だって巨乳ムカつ……いや、予行演習のお手伝いしようと思って」
「よ、予行演習……? 何の?」
「お客さん、彼氏とか旦那さんになる人が優しいって限らないよ? 見た目が優しそうだったとしても、夜は野獣タイプかも知れないでしょ? だから激しいの慣れてた方が……げっ、顔やばっ」
何か急に変な事を言い出す子だね。
言って良い冗談と悪い冗談の区別がつかないのかな?
「ご、ごめんなさーい」
ちなみに、僕がどんな表情をしていたかだけど。
ご想像にお任せします。
「……えっと、下着だったよね? それじゃあ、試着室行こっか。サイズ測るから、脱いでー」
「うん。お願いね」
「んっ、良い返事――って、ノーブラ……?」
確かに今は下着をつけてないけれど、それは仕方ない事であって。
男が女に突然変わるとか言う、ワケが分からない事情があるのであって。
まぁ、面倒だから説明しないけど。
「痴女?」
うぐっ……。
確かに、そう見えなくも、ないのかも。
「違うよ。痴女じゃない。色々あって……」
「色々ねぇ――あっ、もしかして盗まれた? お姉さん綺麗だし、おっぱいも大きいもんね。そりゃ盗まれるよねぇ。今頃盗んだ男はきっと匂い嗅いでると思うなあ」
メジャーを手にしたエマちゃんが、急にニヤニヤしだしたので、拳を強く握った。
なんというかその、本当に、冗談の線引きが苦手な子だね、と思う。
もっとも、空気を読む事は出来るようだ。
僕の握り拳を見た瞬間に、エマちゃんは真面目な顔になり、何事も無かったかのように僕の体を測るという業務を開始した。
「……えーと、アンダーが64……トップが90……嘘っ、Gじゃん……爆乳と言うには足りず、しかし巨乳と言うには少し大きい……いや、無い胸のあたしから見たら爆乳の類だわこんなん」
何かブツブツと言っているようだけど、何を言ってるのかよく分からない。
ただ、スルーしても構わない事だろうな、と言うのだけは分かる。
で、それから待つ事数分。
ようやく測定が終わった。
「じゃあ、測り終わったから、次はこっちねー」
「こっち……?」
「女性用の売り場」
エマちゃんは、僕の手を引くと、店の奥へと向かう。
そこには、女性専用、と書かれた部屋があった。
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