10話♡:かーど。
――女性用の下着。
それを聞くのは少し恥ずかしくもあったけれど、聞かないわけにも行かない。
必要なモノだったワケでして……
自分でも、自身の頬が微妙に朱色に染まっているのが分かる。
まだ幸いだったのは、初老の男性が、普通の応対をしてくれた事だろうか。
「女性用の下着ですか。ある事はあるかと」
こんな感じにね。
何はともあれ、どうやら女性用の下着はあったようだ。
ホッとする。
「この中にある衣類店で販売していると思いますよ」
初老の男性は、言って、横にあった看板を指さした。
そこには、案内図が設置されていて、この施設にある店の場所や名前が載っていた。
どうやら、このカウンターで全てを済ませるのではなくて、この施設内部に色々な店舗が存在しているようで、そこで取引するようだ。
良く見ると、カウンターの両脇に通路が続いていた。
「……ふむふむ」
案内図を見た所、この施設の全容は以下の通りだ。
まず、今居る所が入り口。
つまりエントラスである。
そして、両脇に見える通路の道なりに、テナントの様に色々とお店があるようだ。
武具店や防具店などが複数あり、道具や薬屋、他にも治療院と飲食店……八百屋や肉屋なんてものもあった。
それから、この通路は、突き当たりで繋がり同じ場所に出るようになっていて、そこにあるのが宿泊施設との事。
「下着下着……衣類店だよね……あった」
指先でなぞるようにして案内図を確認すると、衣類店の文字を発見。
ともあれ、さっさと買い物を済ませようか。
ゴリにも言われたけれど、今は、魔石を使い切った方が良いから、他にも買えそうなものがあったら全部買ってしまおう。
僕は、カウンターの上に置いた魔石を、再び両手に抱える。
すると、
「――おっと、ちょっとお待ち下さいませ」
初老の男性に呼び止められた。
えっと……なんでしょう。
「魔石を抱えるのは、少々ご不便ではありませんかね」
それは……確かに……。
「魔石は、通貨に換えられます。その方が楽だと思いますが?」
そういえば、なんかそんな感じの事、最初の時に言ってたっけ。
ケダモノ一郎とのやり取りのせいで、すっかり、忘れてしまっていたよ。
「……まぁその、魔石でのお支払いを求められる場合も、ある事はあります。魔石単体にも使い道がありますので。……ですので、設備維持に使いたい、新しい商品の開発に使いたい、と言った場合に、店舗側が代金の代わりにと望まれる事もあります」
へぇ……。
「ですが、今回は、お金に換えた方がよろしいかと。あまり質の良い魔石ではないようですので」
何やら、僕の持っている魔石は、質が良くないらしい。
一瞬ガッカリしそうだったけれど、なんとなく、その理由は分かるので「それもそっか」と思った。
質が悪い理由は、恐らく、倒した魔物が弱いからなのだ。
エキドナがハイペースで狩れるぐらい魔物なのだから。
きっと、凄く強かったり、あるいは珍しい魔物から出た魔石なら、高いのだと思う。
まぁそれらはともあれ、換金を拒否する理由も無いのであって、僕はお願いする事にした。
「それじゃあ、この魔石を通貨に換えてください」
「はい、承りました」
初老の男性は、机の下から盆を取り出すと、魔石を乗せてカウンターの奥に入っていった。
で、数分後に、黒いカードを乗せたキャッシュトレイを持って、戻ってきた。
うん? え? カード?
「あの……」
「こちらの数字が、現在のあなた様の通貨資産になります」
カードには、白い文字で「3,480」と書いてあった。
ええっと……なんだろう、これって察するに、デビットカードとか電子マネー見たいなアレって事で良いのかな。
「ちなみに、この文字をなぞると数字が消せます。本人以外にこの機能は使えないように設定しておりますので、ご安心を。……数字が表示されたままですと資産が丸見えですから、上手くない事もあるでしょう。こちらは現在未登録となっております。登録はなぞるだけですので、どうぞ」
試しに数字をなぞってみる。すると、数字が消えた。もう一度なぞってみると、今度は数字が現れて。更にもう一度なぞると、数字が消えた。
……凄いね、これ。
「本人以外が使えないようになっているかのご確認の為、一度、私もなぞって見ます」
初老の男性が僕のカードをなぞる。
しかし、変化は何も無かった。
どうやら、本当に僕以外には使えないようである。
「以上でございます。それでは、どうぞ当館をご利用下さいませ」
これで説明は終わりのようだ。
なんとも謎技術なカードではあるものの、そもそもここは異世界であるので、気にしたら負けなのだとは思う。
ともあれ、後は買い物をするだけとなった。
と言う事で、僕はカードを手に通路へと入って行く。
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