8話♡:おこ。
「魔石は、基本的には、魔物を倒すと得られるものです。あなた方は、運が良いのか悪いのか、魔物と今まで出会ってはおられなかったようですね」
初老の男性は、顎に手を当てると、「ふむ」と僕らの軌跡を言い当てた。
確かに、僕らは、直接的に魔物とは出会っていない。
その理由は、秘密裏にエキドナが活躍していたから――
――って、あれ、ちょっと待って。
そういえば、道中、地面には魔石がただの一個も落ちていなかった。
魔物を倒せば出て来るのであれば、ここに来るまでの間に、一度も見かけていないのは少しおかしいよね。
エキドナが魔物を倒してくれているのだから、必ず、落ちているハズなんだけれど……。
どういう事なんだろう?
色々と不思議には思うものの、原因が分からない。
どこかにヒントが無いかなと頭を捻って、あれこれ考えて、ステータスなんかも眺めて見る。
そして、僕は、自分自身のスキルの説明文を見て手を止めた。
――――――――――
※、召喚獣は異空間に待機させて置く事も可能。
――――――――――
この一文が目に入ったからだ。
そういえば、すっかり忘れてしまっていたけれど、こんな機能もあったよね、と。
「……って言うか、この機能って実はかなり凄い気がする」
改めて眺めた所、僕は、この機能には特別な制限等が何も書かれていない、と言う点に気づいた。
召喚獣の召喚には制限があったように、ステータスとやらは、制限がある場合にはきっちりそれを説明してくる親切設計である。
それを踏まえてこの説明を見るならば、異空間への召喚獣出し入れと言うのは、好きな時に、どんな場所であっても可能、と言う風に解釈する事が出来る。
これは凄い事だ。
だって、要するに、どんなに離れた場所からでも、異空間に入れてから自分の近くに出す、と言う方法を取る事によって、瞬間移動みたいな形で呼び戻せるのだから。
……ちょっと、試してみようかな。思い立ったが吉日という言葉もあるし、それに、この手のことを試すには、今は絶好の機会でもある。
ゴリ達は今、初老の男性が出した魔石を、食い入るように見つめていた。僕へは意識をまるで向けていなかった。
探索を終えて帰り、待機班と交代してから試す、と言う方法もあるものの、その手は取りたくなかった。
非常に危険だからだ。
待機班は、4班全て固まって探索班を待つ事になっている。つまり、探索をしている時よりも、人目が多いのだ。
という所もあり、僕は覚悟を決めて、実行する事にした。
まず、遠方にいる姿の見えないエキドナを、異空間にしまえるかだけど……えっと、特に引っかかりもなく普通に出来ました。
で、僕のステータスの所に、
――――――――――
※2、異空間 格納召喚獣:1
――――――――――
こんなのがポコッと生えても来た。
どうやら、何匹の召喚獣を異空間に入れているのかを、逐次確認出来るようだ。そして、更に詳細を見ると、名前も一覧で表示される。
なんという、便利機能……。
と、まぁこんな風に上手く行ったのは良いのだけれど、最初の召喚の時と同じに魔力的なものを消費しているのか、何だか少し疲労感が襲ってきた。
レベルが2になったとはいえ、ステータスはショボいままだからかなぁ……。
まぁそれはさておき。
次に、エキドナを僕の傍に出せるかを試してみた。
こちらも、多少の疲労感こそあったものの、格納同様に普通に上手く行った。
少し時空が歪んだように見えた後、そこから、エキドナが姿を現し――
――うん?
「ぎぷぅ……」
あれ、なんか、エキドナの体が凄いパンパンになっているんだけど。
ツチノコみたいにお腹が膨れている……。
レベルが上がって進化した、ってワケじゃないよね。
だって、進化先は召喚士の僕が選ぶ的なニュアンスだったし。
えっ、ちょっ……。
よくわからない状況に、僕が戸惑っていると、エキドナが何かを吐き出した。
ぺっ、ぺっ、と吐き出されたそれは――あろう事か、魔石であった。
道中、魔石が全く見当たらなかったのは、エキドナが回収していたからであったようだ。
でも、どうして回収を……?
「あっ……もしかして、僕が前に拾っていたのを見て……?」
「ぎぅ!」
エキドナは、くいくい、と首を上下に振って肯定した。
なんて良い子なのだろうか……。
僕は、エキドナの頭をなでなでする。
と、その時、背後からゴリ達の会話が聞こえてきた。
「……なんにしても、俺らにはまだこの店は早いな」
「魔石が無いとなーんも買えなさそーだしな」
そろそろ、班員たちが魔石の鑑賞を止めそうだ。
僕は、エキドナへのなでなでをそこそこで切り上げ、新たな指示を出しつつ、こっそりと再び迷宮の中に放った。
それと同時に、ゴリ達が振り向いて来た。
既にエキドナは姿を消しており、そして、僕の足元には沢山の魔石のみがある。
出来れば、魔石も隠したかったけれど、さすがにこの量は無理だったよ……。
ともあれ、この大量の魔石に、全員が驚き目を見開いた。
「……魔石があるではないですか。それですよ、それ」
初老の男性がそう言ったのを皮切りに、班員たちが、各々反応を示した。
「おいおい、いつの間に……」
「……俺も全く気付かなかったな」
「……はぁ? なんでお前がそんなに持ってんだよ」
「すっご……」
ゴリ、二段、ケダモノ二郎、風見鶏の順にそう言葉を発する。
ただ驚いている、といった感じだ。
しかしながら、一人だけ、別の感情を抱いたヤツもいる。
ケダモノ一郎だ。
「……んだよそれ。どんな方法使ったのか分かんねーが、隠れて魔石を集めてやがったな? 魔石は魔物を倒せば出て来るらしいが、そういや、ここに来るまでの間、魔物が出て来なくて何かおかしかったよなぁ。……お前が何かやったんだろ! ――こんなんズルだろっ! 魔石独り占めかよフザけやがって! なぁオイ!」
ケダモノ一郎は、顔を真っ赤にして、怒鳴り声を上げた。
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