7話♡:扉の中は……。
少しだけ時間が経って。
ふと、自分自身のステータスを再び確認して見ると、僕のレベルが上がっていた事が分かった。
エキドナが未だに頑張り続けてくれているようである。
ここは、レベルアップを喜ぶより先に、「班員に変な疑問を抱かれる前に、早く戻って来て~」と思うべきなんだろうけれど、レベルアップの嬉しさの方が勝ってしまった。
ステータスはそこまで上がったワケではない感じだったので、詳細はまた後で記すとして、ともあれ、クラスメイトの中で一番先にレベルアップしたであろう事実に、僕は思わずニヤけてしまう。
「……どうした。急に気持ち悪い笑顔になったが」
「あっ、いや、なんでも無いよ」
「なら良いが」
どうにも、ヤバイ感じのニヤけ方をしてしまっていたらしい。
二段から心配のお言葉が出て来てしまった。
■□■□
「……何か扉があるんだが」
少しだけ進んだ先で、先頭のゴリが立ち止まり、前方を指さした。
そこにあったのは、木製の扉だ。
洞窟の中にいきなりぽつんと現れた人工物に、全員が違和感を覚えて、一斉に怪訝な表情となる。
「物音はしないが……」
ゴリは、慎重にノックを何度か繰り返す。
しかし、中からの反応は無かった。
「……開けるべきか否か」
ゴリは、片眉を上げて何やら考え込み始めたものの、良い案が浮かばなかったのか、しばらくしてから「お前ら、どうする?」と僕らに意見を求めて来た。
それに対する班員の反応は、概ね、次のような感じだった。
「……取り合えず開けて見たら良いんじゃねぇの。なんかあったら、その時はその時だろ」
「はぁ? 何言ってんだよ鉄。ゲームだと、こういう怪しい部屋の中ってのは、モンスターハウスとかトラップ部屋だったりする可能性もあんだよ。スルーが正解だろーが」
「俺は斉藤(※ケダモノ一郎)に賛成だ」
「……えっと、じゃあ俺は、最終的に賛成が多いほうに一票」
二段が取り合えず開けて見ろ派で、ケダモノ一郎と二郎がスルー派。風見鶏は多数派に付く、という感じ。
「勇気、お前はどう思う?」
最後に、僕が意見を求められた。
どっちが良いかな、と少しだけ考える。
まず、ケダモノ一郎と二郎が言っている、モンスターハウスとかトラップ部屋の可能性と言うのは、確かにあるにはある気がする。
この二人の意見に理解を示すのは癪だけれど、事実として、その可能性は存在していると思う。
――でも、だからと言って、確認もせずにスルーすると言うのは賛同しかねるかな。モンスターハウスやトラップ部屋ではない可能性も、等しく存在しているのだから。
この扉は確かに怪し感じがしているけれど、よくよく眺めて見ると、決して不穏な気配がしているワケでも無い。
こんな所にポツンとあるから、怪しい気はするけれど、それ以上の感じは何も受けないのだ。
怪しくはあるけれど、危険そうにも見えない、と言うか。
だから、
「僕は開けて見た方が良いと思う」
僕は、二段の意見に乗っかる事にした。
「……ふむ。見事に二つに意見が割れたな。って事は、俺がどっちを選ぶかって事か」
こうして、扉を開けるか否かの判断は、ゴリに託された。
はたして、ゴリはどっちを選ぶのだろうか――
「じゃあ開けるか。別に物音とかもしなかったしな。そこまで危険って事も無いだろう」
――それなりに悩むかな、と思っていたら、ゴリは案外あっさりと扉を開ける決断を下した。
「おいゴリ――」
「ゴリおまっ――」
ケダモノ一郎と二郎が、唾を飛ばしながらゴリに文句を言おうとしたものの、その頃には扉は既に開けられていた。
□■□■
結論から言うと、怪しい扉の中は、モンスターハウスでも無ければトラップ部屋でも無かった。
ただ、想像の斜め上を行く部屋ではあった。
「――いらっしゃいませ」
部屋の中は、こじんまりとした、小さなホテルのフロントのような所だったのだ。
カウンターの向こうに、立派なヒゲを蓄えた、どこか品を感じさせる初老の男が立っている。
意外な展開に、僕を含める全員が驚いて、言葉を失う。
「何やら戸惑われているご様子。まあそれも無理からぬ事でしょう。初めて当館を訪れられたのでしょうから。ええ、私には分かります」
ふむ、と初老の男性は、こちらの心中を察しつつ、話を続けた。
「ここは迷宮の探索者の方達の為の憩いの場。宿の提供をはじめ、武具防具、道具類の売買、加工、そして鑑定等もお承りしている、探索者の為の総合施設でございます」
簡潔明瞭に説明を終えると、初老の男性はぺこりと一礼する。
今の説明で、大体の状況が掴めて来た。
つまり、ここは、迷宮内にあるお店って事なのだ。
「なるほど。こういうのもあるのか。……すみません、利用したいのはやまやまなのですが、実は我々には今の所、お金がありません」
状況を察したらしいゴリが、そんな事を言う。
すると、初老の男性が小さく笑った。
「ご心配には及びません。施設内では、迷宮内で入手された魔石の換金サービスも行っておりますし、お手持ちの武具防具、道具等による物々交換を承れる事もあります」
「魔石や武具ですか? いえ、思い当たるようなモノは特に……」
「本当ですか? 例えば、魔石と言うのは、こういったモノなのですが……見覚えはございませんか?」
言って、初老の男性は、カウンターの上に色々な色や形をしている石を幾つか置く。
それを見て、「これが魔石……?」と言った感じの言葉を皆が漏らす中で、僕だけは違う反応を示す。
これらの石には見覚えがあったからだ。
スライムを倒した後に出てきた、あの石に似ていたのだ。
……どうやら、拾っていて正解だったようだね
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます