地球「わたし、できちゃったみたい・・・」
ちびまるフォイ
新しい地球は誰のもの?
最初の変化に気づいたのは宇宙ステーションだった。
「なんか……地球でっぱってませんか?」
「あのな、地球は丸いんだぞ。でっぱってるなんて……んん!?」
地球に住まう人に送られた衛星写真では南半球の一部分に少し盛り上がっている部分があるようなないような。
そんな乏しい変化でワイドショーの視聴率を稼げるわけもないため誰も見向きもしなかった。
しばらくして2枚目の衛星写真が送れられてくると、さすがに無視できないレベルとなった。
「いやこれでっぱってるって!」
「なにか悪い兆候の前触れか!?」
「悪魔じゃ! サタン様が地下から現れるのじゃーー!!」
「これは地底人による地上への侵略がはじまったんだ!」
「いいや、これは世界の黒幕による恐怖の人工地震装置が発動したんだ!」
丸いはずの地球がひょうたん型になったことで世界の人々はパニック。
あらゆる陰謀と噂と幻想が入り乱れ、どういうわけかトイレットペーパーが買い占められた。
ますます大きくなる「しこり」はしだいに球体へと形を整え始め、
表面が徐々に地球に似てきたと宇宙監視衛星「ちまわり」から連絡があった。
「……あれ地球じゃね?」
宇宙飛行士が切り忘れた音声へわずかに含まれたそのつぶやきは流行語大賞となり、
予言したかのように出っ張りは「新しい地球」として形づくられ始めていた。
広く認知されたミニ地球。
球体の半分以上ができ始めると移住希望者が殺到した。
「こんな薄汚れた旧地球なんてまっぴら!」
「自然豊かなミニ地球で悠々自適な生活を送るわ!」
「新しい地球には手つかずの資産が山ほどあるぞ!」
「もしかすると高く売れる新種の動物がいるかも!」
各々が新しい島に移住をするどうぶつのようなテンションで新しい地球へと向かう。
けれど、待ったをかけたのはミニ地球の分離部分に近い現地の人だった。
「駄目だ駄目だ! お前らのような悪しき人間を新地球に住まわせるわけにはいかない!」
「いったいどうして!? もうミニ地球はほぼ出来上がっているじゃない!」
「お前らのような人間を住まわせればどうなるか。
そんなの今の地球を見れば一目瞭然だろう!?
動物を絶滅させ、森を焼き、ゴミで汚すに決まってる!」
「だからって、あんたたちになんの権限があるのよ!
ちょっとミニ地球に近いからって我が物顔で独占するつもり!?」
「我々はこの新しい地球を守る使命がある!」
「本当は自分たちだけで移住したいだけでしょう!!」
移住希望者と地元との争いは激化した。
新しい地球が生まれ落ちる境界部分はとくに激しい戦闘が行われた。
多くの人の命が奪われ、土地は荒れ、それでもなお人々のフロンティア精神は止まらなかった。
「絶対に新しい地球に移住してやるーー!!」
3度目の戦略的核攻撃が行われたときだった。
たび重なる戦闘に地球がついに耐えきれなくなってしまった。
「大変だ! ミニ地球が溶けててしまっている!!」
地球から生まれ落ちる部分にダメージを受けたことでミニ地球はドロドロと液体状に溶解。
誰も足を踏み入れていない未開の地のまま、宇宙空間へと溶解して消えてしまった。
「ああ……なんてことだ……」
「我々はいったい何をしていたんだ……」
手に入れたはずのものも、守れたはずのものも失ってしまった。
人々は目先の幸福にかられて周囲が見えていなかった自分たちを恥じた。
「私達はなんと愚かだったのだろう。移住することで頭がいっぱいで
争って勝ち取ることしか解決方法を考えなかった……」
「我々現地の人もそうだった。最初は守るはずのつもりだったのに
いつしか相手を駆逐することばかりに考えが偏ってしまった……」
「もっと、お互いが納得できる話し合いをしていれば……」
「もっと、自然を大切にしながら住める方法を模索していれば……」
どれだけ後悔したところでもう戻らない。
誰もが空を見上げて失われたミニ地球に思いをはせた。
そのとき、ひとりの研究者が声をあげた。
「みんな聞いてくれ! ミニ地球の誕生メカニズムを調べていたら、
人工的にまたミニ地球をいくらでも作る方法がわかったぞ!!」
それを聞くなり人々は顔つきが変わった。
「早くもっと大量の地球を作ってくれ!」
「資源を集めるためだけの地球も作ってくれよ!」
「ゴミ捨て用の地球もほしい! 核廃棄物が溜まってるんだ!」
「私は動物と虫のいない自然豊かな地球に移住したい!」
「こんな旧地球なんかほっぽって、早く豊かな新地球をよこしてくれーー!」
地球「わたし、できちゃったみたい・・・」 ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます