第20話境界の国2

ハイドラはローデシア大陸とエイジン大陸を結ぶ唯一の陸路にある。


東は未開の大陸ケラム、西はエルシャ海に面している。


ハイドラは水性民族ヒドゥィーンの国だ。


ハイドラの国土の半分以上はカリビアと言われる水深50cmから3mの遠浅の海だ。


カリビアは世界一透明度の高い海水に、色とりどりの海藻やサンゴ、マングローブの一種 デメロネアの緑の葉が生い茂る。


アクアブルーからエメラルドブルーに海水が輝く、神秘的でとても美しい場所だ。


色彩豊かな魚、海老、貝など美しく珍しい生き物が豊富に住んでいる。


アルマダイの豊富なハイドラには、巨大な島々が浮遊する地区がある。


バハヌノアだ。


微生物ビルムスの生息する苔の力で、島も浮遊する。


境界の国ハイドラは、連合国家であるデューンと大帝国アマルの狭間にありながら、独立状態を保っている。


かつて境界の小国達は、永い間、大国の植民地だった。


アマルに滅ぼされたサルトリアが栄華を誇った54000年前から。


小国達は、国力の弱い順に、大国に併合された。


アルマタイトなどの鉱物資源を取り上げられた後、民族ごと滅亡に追いやられた。


美しい大地は踏みにじられ、人々は蹂躙された。


やがて、民族毎に別れていた小国達は、大きな国々から身を守るため、まとまり始めた。


国力の強いイリーナ族やルカイ族の国を中心に。


タント、シャガール、ジャワ、ダンヌ、ジャイナ、サラディーンなど、次々とハイドラの州として編入された。


大国の脅威に晒され身を寄せ合ったヒドゥイーン達は、外見も文化も、風習も異なったが、一丸となった。


歴史上一度もハイドラが国内で紛争を起こしたことが無い。


そして、16部族長達は、今から少し前、大首長シーアハーンのもと、三大政策を実施し、より一層ヒドゥィーンとしての団結を誓い合った。


ハイドラにある豊富な、アルマダイは、ヒドゥィーン達の身体を、自然に大きく、ケラム生物のように強靱にした。


唯一の陸路であること、超エネルギー資源アルマタイトが豊富なこと、そしてヒドゥィーンの屈強さは、ハイドラの歩みを数万年に渡る灼熱の茨の道にした。


試練がハイドラの人びとをより純粋に磨き上げ、磨かれた魂だからこそ、より苦しい道を歩まざるを得なかった。


ヒドゥイーン達は、古代サルトリア帝国の侵略では5000年もの間、奴隷以下の人間家畜として扱われた。


屈強だが穏やかで純真無垢なヒドゥイーン達は、人を疑わず愛に満ちた種族達であるという罪で、想像を絶する虐待と殺戮を受けた。


やがて、帝国アマルがサルトリアを滅ぼしエイジンの盟主となり、ハイドラを植民地として併合した。


アマルは、過去にハイドラを蹂躙した国々と同じように、ヒドゥイーンを根絶やしにすることにした。


男性の生殖機能を無くし、妊婦の腹を割き赤ん坊を殺した。


そして、定期的にヒドゥイーンの幼児達を、定期検診の名目で集め毒殺した。


アルマタイトを得るだけのために。


アマルが残虐の限りを尽くしたのには、理由がある。


代々アマルの神帝は、ヒドゥイーンという種族の潜在能力を恐れていた。


ヒドゥィーンという種族の本質的な強さ、生物としての強さを見抜いていたのだ。


その理不尽で突然の殺戮に、ヒドゥイーンの母達は身をよじり悲しんだ。


自ら我が子を追い死ぬ者も後を立たなかった。


しかし、ヒドゥイーン達には復讐や報復などと言う概念はない。


彼等は、ただただ悲嘆にくれた。


帝国アマルは少しずつヒドゥイーンの存在を消して行く。


ヒドゥイーンは、耐え難い怒りや悲しみに耐え、アマルとの契約を飲んだ。


アマルはそれでも、手をゆるめない。


やり口は巧妙だ。


子供のための遊具や公園を設置する裏で、薬物を撒き、見えないところで無数の子供達を殺害した。


着実に手堅くヒドゥイーンという種族を減らしていった。


ヒドゥイーン達は、平和と共生の精神の代償として、歴史に記憶を刻み続けた。


重い鉛のような悔しく悲しい記録を。


13000年前のハイドラの建国記念日。


ついに、若者達は、決起した。


しかし、帝国アマルに対するレジスタンスは、僅かに3時間で鎮圧された。


若者1000人のささやかな抵抗は、大帝国アマルに大義名分を与えた。


ハクアなど、ハイドラを支援する国は、アマルへの対抗策を無くした。


13067年帝国アマルは、人口僅か9000万のハイドラに対し、1230万の大軍隊を送った。


容赦ない総攻撃だ。


誰も救うことのできない凄まじい殺戮。


何百万、何千万の命が絶たれ、何億の祈りや、希望が踏みにじられたその時。


人びとがもう立ち上がれなくなってしまった、その時。


その男は現れた。


太古からの神話の勇者。


ヒドゥィーンの希望。


戦闘神ナジマの化身。


ハイドラの守護者ハイドゥク。


エイジンで最も古い歴史書ハイドラ戦記では、ハイドゥクは、1249日昼夜闘い続け、1250日目に、大帝国アマル軍を退けた。


全てのハイドラの人びとを、大帝国アマルから、そして家畜民族としての地獄から解放した。


そして、ハイドゥクは、12の予言の書を残し息絶えた。


ハイドゥクのその伝説は、永きに渡り、そして、未だに、ハイドラの強い国防力となっている。

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