第13話タク1

教室には、色んな階級の子供たちがいる。


この学校は、1等市民の子も通う珍しい混合階級校。


通常、2等市民以上は、個別のトレーニングマシーンで教育を受け、通学は、集団•社会生活、対人体験授業のカリキュラムの時だけ。


混合階級校は一般的にインフラが古く自動化が進んでいない。


エスカレーターは古く、教室のドアは一部は手動。


運動場の一部は指定公園を兼ねている所が大半だ。


空調も含めイザナミのコントロールを受けられないものも多い。


その場合、マミーという第28ネルカゴルのスーパーコンピューターが未だに管轄をする。


このクラスの生徒たちは10歳児ばかりだ。


子供たちの元気な笑い声が響く。


始業のチャイムも、先生の制止する声もおかまいなし。


教師は20代の若い男。


未だに人間の教師が授業を行っている。


「はい。みんなー。いいですかー。しーずかーにー!。静かに。新しいお友達を紹介します。」


男の子が入ってきた。


子供たちは一瞬水を打ったように大人しくなった。


間を置いて、悲鳴や泣き声も聞こえる。


びっくりして固まる子も。


「はい。タクくんです。タクくん挨拶してください。」


「キリシマタクです。よろしくおねがいします。」


声は緊張した子供そのものだが、半分は機械音だ。


「わ!グロい。」


「わーキモっ!。」


「カッコイイじゃん。」


「ロボットなの?。」


「こいつアンドロイドだよね?。アンドロイドって法律で人間に奉仕するって決められてるよね?。」


「はいはーい!。えーっと。みんな、タクくんは少しみんなと違うけど、仲良くしてあげてね!。タクくんの席は...えーと、あそこ。ジャン君の前。イーノ君面倒見てあげて。」


先生に背中を押されタクは歩いて行く。


「先生、こいつロボット?。嫌だよ。ロボットなんかの相手すんの。」


イーノが椅子を引き、タクは床に転がった。


「こらー。ダメだぞー。仲良くしないと。」


興味なさそうに指輪をいじっていた女の子が、心配そうに振り返る。


色の白い端正な顔立ちだ。


...タッタッタッ...


走ってきてタクを起こした。


タクは、機械じゃない方の目を見開き女の子を見た。


名札にはキミモリケイと書いてある。


「こいつやっぱり会話できないぞ。笑える。」


タクの視線はケイに釘付けになっている。


「ケイのこと見てんぞ。機械のくせに性欲感じてんじゃねえよ!。」


「お前みたいな機械、人間が相手にするかよ!。笑」


「やめなさいよ!。」


教室がどよめく。


「何だよケイ!パンツ脱がしちゃうぞ。」


「てか、これロボットなんだろ?。ただのおもちゃだろ?。」


「そうだよ。質問に答えろよクロカワ。3等市民のくせに、パパにチクるぞ。」


「タクくんは、事故でケガをして、成体パーツや生命維持装置がついているけど、みんなと同じですよー。」


教師が不自然な笑顔を作りながら言う。


「これ、サイバーパーツじゃん。パパはジェネラル派の議員なのクロカワおまえ知ってるよね?。」


ジャンは、タクを押し倒して言った。


そして...。


...ガツッ...ガンッ...ガッ...ガッッ...


膝を抱えてうずくまるタクを容赦なく蹴り踏みつける。


かなりの勢いで。


ジェネラル派は、維持装置や補助知能を使う者を人とはみなさない。


最下層の6等市民とするか、市民権を剥奪するという立場を取っている。


それほど、人間とアンドロイドやサイボーグの境目は、曖昧になって来ている。


「こら、やめなさい。クロカワじゃないだろ、クロカワ先生だろ?。ジャンくん?。」


「うるせぇ。俺の質問に答えろよ。クロカワ。こんなもん。」


「そうだよ。先公。」


ジャンは、タクの頭の摘みを引っ張った。


タクはびっくりして、ジャンを払いのけて、立ち上がった。


その摘みは、タクの脳と補助知能の連絡を保ち維持するための生体液の注入口だからだ。


ジャンは、2回留年をしているため、もともとの体格もあり、タクよりふた周り以上大きい。


「この摘み抜いちゃおうぜ。」


イーノが言った。


「こ、こら!。や、やめなさい!。」


「うるせー、劣等市民。大人しくしてろよ!。」


「こ、こらやめなさい!。あ...あ...。」


「何だよ、劣等市民!。指図すんのか?。」


タクは、イーノを突き飛ばした。


イーノは、数メートル飛んだ。


タクは、呆然としていた。


「この野郎、やったな!。」


「上級市民に手を出したな、重罪だぞ、このポンコツ野郎!。」


ジャンはタクに掴みかかろうとした。


ジャンは、いつのまにか金属製クラブを持ち、明らかに、生体液の摘み目掛けて振り下ろそうとしている。


「あ...あ...死んでしまう。や...や...。」


クロカワがあたふたする。


「なんだよ、劣等市民。止めてみろよ。」


「やめなさいよ!。あなた達。」


ケイがタクを庇ってジャンを睨みつける。


「何だてめえ、おもちゃにされたいのか、アンみたいに。笑」


「うちのパパに言うわ。」


「何だとケイ。じゃ、みんなの前で剥いてやんよ。へへへ。落ち目のイプシオ派の議員なんて劣等市民と同じだぜ!。」


「おもしれえ、クロカワとまな板ショーさせちゃおうぜ。」


「何だまな板ショーって!?。」


「バカ。本番のことだよ。」


「イーノ、おめえ悪だなぁ。笑。それ興奮する。」


...脱ーがせろ!...


...脱ーがせろ!...


...やめなさいよ!...


...可哀想!...


...見てられない。!...


...脱がせ!...


...やっちまえ!...


...ねえ先生なんとかして!...


声が錯綜する。


ジャンがケイのシャツに手をかけ思いっきり引っ張った。


...ビリビリ...


小さな女の子は軽く飛ばされて机に激突した。


服はボタンが飛び破れた。


ケイは、顔をしかめ脇腹を押さえた。


ジャンは、容赦なくケイに馬乗りになった。


「こ、こら...。」


クロカワには何もできなかった。


抵抗するケイにジャンは、平手打ちを食らわせようとした。


しかし、ジャンの手が振り下ろされることは無かった。


タクがジャンの腕を両手でしっかりと掴んでいたからだ。


ジャンは、タクに飛びかかったが、タクはすばしっこく交わした。


サイバーパーツのついている身体は小さくても力がある。


ジャンも、イーノも何度も床に転がされた。


ジャンがクロカワの方を向いて叫ぶ。


「おい!劣等市民。貴様だれのおかげで飯食えてると思ってんだ!。」


「な...。」


クロカワは、完全にジャンの父の影に怯えている。


「おらおら、いいのか、ブッシュ議員にチクっても?。ジャンくんが暴力を受けてるのを放置したって!。」


イーノは、冷やかすように言った。


タクは反撃をしなかったが、ケイに指一本ふれさせなかった。


...ターク!...


...ターク!...


...ターク!...


...ターク!...


...ターク! ...


次第に、教室は女子を中心にタクへの声援が高まって行く。


笑いながら見ている、グループもいるが...。


「てめえら、調子に乗ってんなよ!。」


ジャンの怒声で教室は静まり返った。


水を打ったように。


ジャンとイーノは同時にタクに飛びかかりゴルフクラブでメッタ打ちにしはじめた。


「クロカワてめえ手出すんじゃねえぞ!。」


クロカワは動けない。


...キャー!...


タクの機械の頭が凹み始めた。


タクは半分機械でも小さな男の子だ。


「先生何とかしてあげて!。」


誰かの悲鳴が教室に響く。


ジャンは、クロカワを時々牽制しながら、タクを殴り続ける。


教室の歓声は、悲鳴へ、そしてすすり泣きに変わった。


クロカワは、全く動かない。


タクの頭からとうとう血が吹き出した。


ジャンは、手を緩めない。


「や、やめな、さい...。」


クロカワは、弱々しくすがるように言う。


この子がもし死んだとしても、一等市民達の証言によって、寧ろ下層市民の家族が処罰される。


タクは、膝を抱えて、動かなくなった。ジャンは、肩で息をしながら、生体液のプラグに手をかけた。


一部を除く生徒達は顔を手で覆った


...ガガガガーーーーー...


教室の前の扉が空き、誰かがバケツを持って勢い良く入って来た。


色白の金髪の少年が。


少年はジャン目掛けてバケツをぶちまけた。


頭から。


バケツの中の粘度の高い白い液体が、ジャンの頭を覆う。


「あ、あ、あちぃ!。熱、熱!。あちちち!。」


液体は、ジャンの顔にへばりつき、呼吸もままならない。


ジャンは、くるくると回っている。


「い、痛てぇ!。ち、ちきしょう!。め、め、目にも入った!。」


「今日の給食のシチュー全部やるよ!。おまえ好きだったろ?。笑」


教室から、大歓声が上がった。


冷ややかだったグループも、爆笑している。


美少年は女子から絶大な人気。


一等市民である少年の父は、ジャンの父親よりも、役職が上のだ。


少年は肩で息をしながら叫んだ。


「ジャン!てめえ、いい加減にしろ!。俺が相手だ掛かって来いや!。」


見た目によらず男らしい...。


「てめえビンセント!。」


イーノが叫んだ。


イーノはビンセントに掴み掛かった。


ケイが足を伸ばし引っ掛けた。


イーノはクロカワの前に転がった。


「何やってんだよ、劣等市民!。」


イーノは、クロカワを睨んだ。クロカワは冷ややかな目でイーノを睨み返す。


もはや、クロカワは、イーノを恐れてはいなかった。


ビンセントは、ジャンから目を離さず言った。


「先生、いいからやっちゃって!。じゃないと、ウチのパパに言いつけるから!。」


「そんなぁ...。」


クロカワの顔はほころんでいる。


「て、てめえ、この野郎!。ビンセント!。ぶち殺してやる!。」


ジャンは相変わらずくるくる回りながら言う。


...ガンッ...ガン...ガンッ...ガンガン...


ビンセントはバケツでジャンの頭を殴った。


何回も何回も。


自分よりも一回りは大きなジャンの頭を。


爆笑が起きる。


ジャンが闇雲にビンセントを掴もうとする度。


...バシィッ...


クロカワは、イーノの尻を叩く。


ビンセントが叫ぶ。


「先生、ヌルい!。ビンタ!。ビンタ!。やんないと、パパに言いつけるよ!。」


ビンセントは、ジャンを蹴飛ばしながら言った。


「く、くそ、ビンセントてめえ。」


ジャンは、やられっぱなしだ。


「上級議員のご子息の指示なら、劣等市民の私は従うしかない。すまないね。イーノくん。下層市民で...。私を恨まないでくれ。」


...パン..ビンッ...


クロカワは、イーノを往復ビンタした。


満面の笑みで。


「で、君たちのやってることは人殺しだぞ!。」


クロカワは言った。


ジャンが怒鳴る。


「てめえ、ビンセント!。ぶち殺す!。」


イーノは、ニヤリと笑いクロカワから離れようとした。


...ビンッ...ピン...


「ダメだって言ってるだろ。」


クロカワは、イーノを捕んでもう一度往復ビンタを食らわせた。


ジャンがビンセントを睨みつける。


ビンセントが怯む。


「やってみろ!ボケ!。」


裏腹に言葉は強気だ。


バケツをジャンの頭に投げつけた。


...ガーーーン...


教室の扉を開けて、逃げる。


「こんの野郎!。」


ジャンは突撃する。


猛り狂った雄牛のように。


ビンセントが扉を閉めた。


...バーーーーーーーーーン...


ジャンは扉に激突し、フラフラとよろける。


爆笑が起きる。


「てめえら、何がおかしい!。」


ジャンは、扉を開けビンセントを追った。


「ひえー!。」


廊下から悲鳴が響く...。


ジャンの悲鳴が。


...ガラガラガラガラーーーーー...


「どうしたどうした?。笑」


「どうなったの?。笑」


生徒達が窓を開ける。


...バチィィッ...


...ひぃぃっ...


ビンセントが棒を持って、ジャンを追い回している。


「あ、あれ電撃棒だよ。治安警察の。すんげぇビリビリするんだって。」


「あぁ知ってるぅ。殺人の人とかもチビっちゃうってパパが言ってた...。」


「ねぇ。笑。ジャン君がおしっこチビってる。」


...バリバリバリバリ...


...わ、わぁった、分かった。も、もう辞めて...


「ホントだ!。わはははは!。」


...バッチィィィッ...


....ひえぇぇ...


「何でジャン君ぴょんぴょんしてるの?。」


「またチビってる!。ワロwwww!」


タクはケイの前に立ち右手をそっと開いた。


ケイのオモチャの指輪が。


だが、樹脂製の指輪は砕けてしまっていた。


強く握りしめ過ぎてしまった。


タクはポロポロと涙をこぼした。


ケイはタクに抱きつき言った


「ありがとう。タクくん。泣かないで。いいの。これおもちゃだから。笑。ねぇ。私、ケイ。お友達になってね。」


ケイも少し泣きながら、タクの機械の方の頭にキスをした。

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