第12話謀略2
ネオジンムに限らず、アトラの都市は全て人工知能にコントロールされている。
この人工知能群は、スーパーシナプスフレームと呼ばれる。
アルマダイの粒子スピンを利用して演算をし、一つのシナプスセルと呼ばれるcpuが、自分の判断で他のシナプスセルと分裂•連携•結合していく。ほぼ光と同じ速さで。
そして、シナプスセルの数は最も小さなフレームの単位でも25万恒河沙(こうがしゃ)個と言われている。
気候、建築物、交通などの環境を司るイザナミのグループ。
生物や、人々の生命、情報などを管理するイザナギのグループ。
そして、治安、防衛、軍事を司るスサノオのグループ。
それらは、無機的有機的に結合したスーパーシナプスフレーム群や人工知能群の集合体で、末端では境界が明確では無い。
これらのスーパーシナプスフレームの中で、スサノオはその本体を王墓 ジンム稜に置いていると言う。
ジンムは古代国家ハクアの伝説の皇帝。
ハクアの神スサノオの末裔と言われる。
ジンム稜には三体の巨像が建てられている。
高さ900mを超える巨大な石像。
伝説の大王ジンムの、
偉業を支えた
腹心の三大将軍ハク、ハル、ケイウ。
13000年を経た今も大王を護っている。
ジンム陵は世界遺産だ。
いにしえより、石像は王の危機に蘇りジンムを護るとの言い伝えがある。
スサノオ神の再来を願って作られたスーパーシナプスフレーム。
人間を圧倒する高度な人工知能 スサノオ。
108箇所、生命の法則に反するように設計されている。
生命の器とならないように。
そして、みずからも自我や自己認識、自意識を形成しようとはしない。
古代シャイアン帝国のスーパーコンピューター オブライエンの悲劇を繰り返さないために。
だが、毎秒数万を超えるバグが発生し、そのバグ達の中には自意識を芽生えさせる者も少なくない。
自分達を神か人間と勘違いする者もいる。
有害性が低いためシステム内での生存を許されているものもいる。
かつてアダムゼロを暴走させたイシスもバグだ。
コマチという名の民間のスーパーシナプスフレームの。
バグ達はとても人間臭い。
しばしばクリティカルな事故やドラマを生み出す。
最も危険なバグ、イシスは未だに存在している。
ネットワークを伝わり逃げ、コマチの影響範囲を越えた。
今も世界のどこかに潜んでいる。
コマチ達の手の届かない、旧式コンピュータシステムの中に。
とはいえ、人工知能の管理下にある都市の日々は平穏で美しい。
...ゥゥウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
...ドドドドドドドドドドドドドドドド...
黒い大型のスピーダー(飛行バイク)が旋回して来る。
見た目は排気量の大きな陸上バイクと変わらない。
ウイングがあるかないか程度だ。
「...うわぁ..ぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっっ。...」
ただ、加速は尋常じゃない。
黒髪の少年が金髪の少年を後ろに乗せて飛んでいる。
金髪の少年はしがみついている感じだ。
年も背格好も同じくらい。
グレーのブレザーを着ている。
1等市民は12歳から制限つきで操舵許可証を持つことができる。
指定空域外つまり3等市民以下の居住空域では制限が無い。
黒髪の少年には階級が無く通常は操舵は認められない。
父親の許可証を使っている。
許可証はデコーダーと言われる機器のこと。
各通過ポイントで認証を自動で行う。
...ドドドドドドドドドドドドドドドド...
...ゥゥゥゥーーーーーーーーーー...
スピーダーは高度を落とし減速する。
無等級市民の通過優先順位は最下位だ。
入境できないエリアが多くある。
ネオジンムにはマダク•シムラという有力な政治家がいる。
マダクは、強い等級解放主義者だ。
アトラ議会の第1勢力イプシオ派の党首。
そして、次期大統領候補。
今は上級議会の議長を務めている。
第一勢力と言ってもパワーバランスは微妙で、他派閥に対する優位は僅かだ。
何か事件があれば簡単に逆転してしまう。
ジンムでは1等市民に許される特権が下層の市民にも認められている。
下層市民がスピーダーに乗れるのはマダクのお陰だ。
...カチンッ....
...ドドドドドーーーーー...
スピーダーのエンジンが止まった。
...スゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
スピーダーは滑るように進む。
人の頭上を。
慣性の力で。
河川敷の歩道。
幅20mの石畳。
一般道や河川よりも大分高い位置にある。
右手には整備された一級河川ジンズウ。
ここから深い川底の鯉が見えるほど透明な水。
川幅は河川敷を合わせて300m。
左手には片側10車線の国道を挟み中低層ビル群...。
「慣れた?。ビンセント。」
黒髪の少年が金髪の少年に尋ねる。
「全っ然!。」
金髪の少年はブレザーをはたいている。
ビンセントという名前らしい。
「なぁ、早く一緒にツーリング行こ?。」
「性に合わねぇ。」
「怖がり過ぎじゃね?。」
「普通に好きじゃない。」
「何で?。何で好きじゃないの?。ねぇ何で何で?。」
「アホ!。おまえがいじめるからだよ!。でさ、さっきの話。ケイパパ絡みだよ。絶対。」
「お、おぅ...。やっぱそう?。ケイパパへのケイブン派の圧力がヤバいって父ちゃんが言ってたし。おまえんとこ何か言ってない?。議長でしょ?。」
「さすがケイン。情報通。うちのオヤジはそういうことは言わないね。家では。」
「流石フランツ。守秘義務徹底してる。」
「おい、タクヤ!。人のオヤジ呼び捨てにすなよ?。」
「おまえが先に呼び捨てにしたんじゃろがい....。てかそんな話ししてんじゃない。モンブランはどう思うかって聞いてんの。」
「栗の香りが濃厚で柔らかくてふわふわ...て、誰がモンブランじゃ!。アホ!....何か嫌な予感するんだよね。また市民データーの臨時更新あるじゃん?。」
「間違ってデータ書き換えられる人がいるとか聞くよね?。」
「ケイのお父さん、今回はヤバいんじゃね...。ビリーの親戚、更新で下げられて越境居住罪で捕まったんだって。」
「解放同盟推し?。」
「そう。解放推し。」
「越境?。じゃ、等級落ち?!。」
「等級落ちだって。」
「マジか!。と、等級落ち?。」
「最近良くあるらしいよ。バグで等級落ちして、最悪、処刑とか。後で謝罪と金。3等市民以下は金で済まされる。」
「最悪...!。マジで?。イザナギがそんなミスする?。」
「イズナップのバグだって...旧系の。」
「え?。イズナップって環境系じゃん?。人は全部イザナギが管理してるから関係なくね?。」
「かなりおかしい。おかし過ぎる。...てか、腹減った。」
「俺もー。さっきから。モンブラン食いたい。」
「は?。それ飽きた。クソつまんねぇ。発想が貧弱過ぎてひく。人として。」
「人として?。言い過ぎ。てか、降りろ。いつまで乗ってんの?。甘えんじゃねぇ。」
「甘えてねぇわ。言われんでも降りるわ。普通に。乗ってくれてありがとうは?。」
「バカじゃん?。笑」
「どーぞ。」
「おっと!。」
女の子が立ってる。
ビンセントは慌ててよけた。
4〜5歳くらい。
明るい金髪。
銀色に近い。
髪の毛は、二つに束ねられている。
白のブラウスに明るいモスグリーンのワンピース。
「どーぞ。」
白い花をビンセントに渡そうとしてる。
「ありがと。」
ビンセントはしゃがんで、女の子の頭を撫でる。
「...うわ。またモテてる!。汗。おまえ見境ないな?。うひひ。笑...」
色が白い。
アマル系だ。
アマル人系は金持ちが多い。
少しそばかすがある。
女の子はずっとにこにこしている。
ビンスは振り向きざまタクに中指を立てる。
「す、す、すいませーーーーーん!。」
...タッタッタッタ...
大人の女性が息を切らせながら走ってきた。
化粧石の歩道を。
白に緑の草の模様のワンピース。
この辺りの人にしては軽装だ。
でも、夏らしくて清潔で綺麗。
シンプルな銀色のブレスレットが上品に光ってる。
「...ハッ...ハッ...ハァ...ハッ...す、すいません!。」
髪の色は黒く、女の子の母親にしては少し若く見える。
「どーぞ!。」
女の子は、スピーダーを見上げタクにも花を差し出した。
「...王子様。目を開けて下さい。眠ってる場合じゃありません。あ、ロリコン百姓だった。ケッケッケ。笑...」
ビンセントがタクに囁いている。
タクは切れ長の目をしてる。
「どーぞ?。」
タクがビンセントを睨み、スピーダー越しに親指を立てて地面を指す。
女の子達に見えないように。
「ローラ。駄目よ。お兄ちゃん乗り物に乗ってるの。」
女性はまだ息が切れている。
タクはゆっくりとスピーダーの高度を下げた。
ローラの目の高さまで。
「ありがとう。」
「ローラじゃないもん。ローラちゃんだもん。」
「かっわいいなぁー。」
「お母さん?。」
ローラは首を横に振る。
ビンスはしゃがみ頭を撫でた。
ローラは嫌がらず、ビンセントに頭を撫でさせている。
「お母さんじゃないもん。」
「ローラ...。ローラちゃん...。」
母親は少し悲しそうに呟いた。
「妹さんですか?。」
ビンセントはタクを少し睨んだ。
タクはしまったと言った顔をした。
「いえ...それが...娘なんです。血は繋がってはいないですけど...。」
「違うもん!。ママじゃないもん!。」
ジンムには木や花や水が溢れている。
咲く花は珍しいものが多い。
景観を乱さない限り持ち帰っても良い。
そして、公園には年中沢山のワゴンが出ていて、子供達に無料でお菓子が振舞われている。
「ああっ!。」
「うわ!。焦ったぁ。急にデカイ声出すな!。耳元で。」
「なんだ!?。.....あれ!。」
ビンセントがビルの屋上を指差す。
この辺りは中低層のビルが多い。
母親とローラも見上げている。
「何かしらあれ?。」
ビルの上をヘビのようなものが移動している。
3匹いる。
黄色、緑、黒...縞模様だ。
人工物かもしれない。
それにしては動きが...。
「変なの...気持ち悪い。」
ローラが言う。
「何だ....あれ....?。」
ローラですら呆気にとられている。
「行ってみる?。」
「あぁ。何だろう。あれ。」
「え?。行かれるんですか?。」
「お兄ちゃん。これー。」
ローラはお菓子を差し出した。
「ご、ごめんなさい。この子にはあなた達くらいのお兄さんがいたので...。ローラ。お兄ちゃん達行くところがあるって。」
「嫌ぁー。」
ローラはビンセントの足にしがみついた。
「ローラちゃん。」
母親はしゃがみローラの顔を見た。
そして、肩を抱きしめビンセントから引き離した。
ローラはそっぽを向く。
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
「爆発してるよ。汗」
「ホントだ。な、何だろ?。汗」
「ねぇ?。ローラちゃん?。お母さんとお家に帰りな。ね?。」
「嫌だー。お母さんじゃないもん。」
母親が悲しそうに下を向く。
そして、ローラの背中を優しく押し自分に近づけた。
「この辺りは最近変な事件が多いから気をつけてください。」
ビンセントは女の人に言った。
派手ではないが優しそうな綺麗な人。
「ありがとうございます。ローラ。行こ?。」
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...うわぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー...
....ガシャーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...パリン...ガシャァァン...
...キャァァーーーーーーーーーーーーーーー...
...ドーーーーーーン...ドン......ドスン....
ガラスの飛び散る音、大きな塊が落ちる音。
ビルの上まで煙が噴き上がっている。
「二人とも安全なところに!。あまり動かない方が良いかもです。」
「ありがとうございます。どこか...。」
「この辺りの建物には避難壕があります。」
「建物の避難壕は私達3等市民でも入れて下さるのですか...?。」
え?。
3等市民だったんだ。
「あっ...。ごめんなさい。そ、そうだ。セントエレーン!。セントエレーンなら広いし避難壕は等級関係なく入れますよ。確か。」
ビンセントが言う。
セントエレーンには多くの避難壕がある。
三等市民も入れるものでは、まともな方だ。
「セントエレーン?。ごめんなさい。最近、入京を許されたので...。」
「ご存知ありませんか?。ジンムで1番大きな公園です。」
「あ!。分かります。さっきこの子と。ね?。」
「知らない!。」
ローラはまたそっぽを向いた。
「ローラちゃん。お母さん可哀想。」
タクが言う。
ローラはほっぺたを膨らませた。
「だってぇ...。」
...ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...ガシャーーーーーーーーーーーーーーーーン...
...パリン...ガシャァァン...
...パリン...ガシャン...
「ビンセント行こう!。」
タクは、スピーダー(飛行バイク)をビンセントの真横につけた。
「くれぐれもお気をつけて。」
母親はおじぎをしながら言った。
タクが操舵桿を引く。
...ボウウゥーーーーーーン...
アフロダイエンジンが起動する。
...グググゥーーーーーーーーーーーーーーーッ...
スピーダーが一気に加速する。
...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
スピーダーは頭を下げる女性を見下ろしながら、浮上し、旋回を始める。
...ウゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...
エンジンの振動が身体に伝わる。
スピーダーが風を切り、
ビルの横を一気に通り抜けて行く。
地上の人達が慌てて避難壕に入って行く。
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