第11話謀略1


ネオジンムは、総面積1300㎢の特別指定都市。


アトラではネオヤマトに次ぐ2番目に大きな都市だ。


塵一つ落ちていない。


高層ビル群が切れ間なく続く。


地平の彼方まで。


この都市を象徴する巨大建築物や、超高層タワー群が蜃気楼(しんきろう)の先に佇んでいる。


ビルの壁面には様々な生体(アルマダイ)色を伴うジニリウム綱や、白い高級岩のエンダル石や、共生体(アルマダイアフロダイ)岩が使われている。


様々な色の鏡面、薄い緑、レンガ色、青、赤...。


巨大なシャンデリアや宝飾そのものだ。


メリカトル•トーアは、世界で最も巨大な建築物の一つ。


国防総省、国会議事堂、最高裁判所、国の中枢機構を内部に持つ巨大建築物。


アトラ、いや世界経済の中心。


大帝国アマル帝国のリバベリアをも凌ぐ存在。


10000m級超高層タワー サルファ・マスドラ。


そして、世界遺産であるジンム陵。


虹色の多角鏡面を誇るガナン。


超ハイテクビルのグランムド•ラ•シンアは曲面構造が特徴の建築物。


太陽塔マハ•ユージーン。


数十の階層に分かれる高速道路、その上を幾層も走る飛行車用の走行空域。


広大な陸路の中に無造作に現れる航空列車のホーム。


スカイラインや、トランスエクスプレス...。


これらの航空列車は、周辺の都市 ガンディールなどから、地下に潜っている。


低階層は水と緑であふれ、人々は日頃から水と緑を楽しんでいる。


1等市民の比率は人口の3割。


他の都市では1等市民の比率は0.1%にも満たない。


ここは、人口が多いだけではなく、富と権力が集中する場所....。


「そろそろかな...。笑」


少年が金色の手摺りに寄りかかっている。


大きな化粧岩で作られたスロープの緩やかなカーブ。


黒髪。


今風の頭が小さく手足の長い体型。


灰色のブレザー。


シャツのボタンを3番目まで外している。


時折建物の方を見上げている。


上の階層にある正門。


誰かを待ってる。


...カーーーーーーーン...コローーーーーーーン...カラーーーーーーーーーーーーン...


穏やかな鐘の音。


少年が着ているのはあの学校の制服だ。


このスロープの先の。


1等市民も通う珍しい学校。


急に騒がしくなる。


終業の時間。


生徒達が降りて来た。


駆け下りて来る者。


会話しながら降りて来る者。


スケボー、自転車。


イヤホンをしてる者。


「ケーイ!。」


少年が手を振る。


少女だ。


少し肩身が狭そうにクラスメイト達の後ろを歩いている。


黒ぶちの眼鏡。


一見地味な子。


でも普通じゃない。


白い肌やその整った顔立ちが返って際立ってしまってる。


父親が捕まる前、少女は1等市民用のスペースにいた。


少女の8歳の誕生日に父親は、国家反逆罪と横領の二重の罪で捕まえられた。


少年の父の組織の手引きで脱獄し、治安警察隊の追跡から逃れ続けている。


少女の父親はイプシオ派の政治家。


等級統制に真っ向から反対している。


1等市民の議員としては希少な存在。


少年は逆方向に走っていく。


黒いスピーダー(飛行バイク)がスロープの壁に立てかけられてる。


出力の大きいタイプ。


高校生が乗り回すには大きすぎる。


少女は3等市民のクラスへ移動した。


イプシオ派の影響が及ぶ今、平穏に学校生活を送っている。


しかし、僅かなパワーバランスの変化で、拘束され命を奪われるかもしれない。


イプシオ派は下層市民からの絶大な支持を受けている。


支持層には有力者が多い。


地下国家エスカトラのマフィアや商人など、無等級でも有力な者達。


ネオジンムとエスカトラの交差するこの一帯は、金、実力、コネが物を言う。


少年の父親 キリシマケインは等級解放同盟のトップ。


ケイの父親とも幼馴染みだ。


「ケイ!。乗れよ!。」


少年がスピーダー(飛行バイク)から声をかける。


「ありがとう。でも、今日は大丈夫。」


スピーダーは少女の頭上でアドバタイズを吹いている。


「え?。何で?。誰かとデート?。」


言葉とは裏腹に少年の顔は真剣だ。


「違うよ。」


少女は笑った。


笑った顔は華やかで可愛い。


予想以上に。


この子は美人だ。


少年はスピーダーのコックピットを見つめながらしばらく考えていた。


「ケイ。じゃあ...またな!。」


少年はあっさりと受け入れた。


意外なことに。


スピーダーは逆方向に飛び立って行く。


少女は少年が見えなくなるまで見守った。


そして、片側15車線の国道2号へ。


トランスエクスプレスの駅。


横断歩道の先、唐突にある列車の大きなホーム。


この国で最も早く最も遠くへ運んでくれる列車。


マダクの不在はイプシオ派を弱体化させた。


父の庇護者イプシオ派党首であるマダクシムラ。

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