第10話ニシノ4
『...父さん。いつもゴメン。僕が時間稼ぐから逃げて!。父さん。...大好き!。...』
138番。緑色に点滅しとる。
モニターからタイガーの幼い声が。
...カチッ...
『...ば...』
...カチッ...カチッ...
...connected...
何で毎回切れる!?。
『...バカ!戻れ!おい!戻って来い。一瞬で殺されてしまう!。...』
...カチッ...カチッ...
かっ、かっ、神様。あの子をあの子を。泣。
ばかな...。
何てことを...。泣。
いかん。
何とかしないと...。
何とか...。
ショットバズーカがあったはず。
気休めにもならんが。
近づく前に。
兵曹に近づく前に連れ戻さないと...。
大変だ。
えらいことだ。
...ダン!ダン!ダン!ダン!ダン...
...ガシャ...ガシャ...ガン..ゴゴ...パリン...ガッ..ガシャガシャ..ガシャ...ガシャ...ガン..ゴゴ...パリン...ガッ..ガシャガシャ..ガシャ...ガシャ...ガン..ゴゴ...パリン...ガッ..ガシャガシャ...
瓦礫の降り注ぐ回廊を全力でエレベーターへと向かう。
あぁ、走りにくい。
あかん!。
エレベーターが止まっている。
階段で。
無我霧中で10階の階段を転げ降りる。
転げてるのか、降りているのか区別がつかん。
自分でも。
施設の地下駐車場。
動くのが何台かあるだろ。
...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ウッ...クッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ウッ...クッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ウッ...クッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ハッ...ウッ...クッ
息が、息が上がる。
ほとんどのエルカー(飛行車)が、崩れた天井の下敷きになっとる。
...ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ
もう歳だな。
まともなのは?。
..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ
動くのは無いか?。
..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ
これもダメ!。
..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ
これも。
これも...。
あれは?!。
派手な赤いエルカー。
ようやく、見つけた。
まともなのを。
しかし、派手だな。
..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ...
どこの貴婦人のや?。
エルメスのエンブレムが着いとる。
..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ..ハッ...ハッ...ヒィ...ゼィ...ゼィ...ヒィ...クッ...カッ...コァッ
...カチッ、カチッ...
モーターが動かない。
「ママ。ユキナ....もう一度だけパパに力を、パパに...。」
....タンタンタンタンタン.........ドドドン...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!ドルンドルンドルンドルンドルンドルン...ググググ...ドーンドンドーーーーーーーーーーーン...ドーンドンドーーーーーーーーーーーーーーーーン...
起動した!。
...ブウォォォーーーーーーーーーーッ!...ブウォォォーーーーーーーーーーッ!...ブウォォォーーーーーーーーーーッ!...ブウォォォーーーーーーーーーーッ!
ブザーが鳴り響く。
自動で西側のゲートが開き始めた。
コマチが誘導をしてくれる。
ナミの。学生の頃の妻の愛称。
美人でみんなのアイドルだった。
コマチは民間では最大のスーパーシナプスフレーム。
ワシが作った最高の...。
「タイガー!。死ぬなーっ!。今いくぞ。待ってろ!」
エルカー(飛行車)をフルスロットルにして飛ぶ。
...ググググーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!...
ドンドーーーーーーーーーーーン...ドーンドンドーーーーーーーーーーーーーーーーン...
施設のゲートを通り抜ける。
ギリギリで...。
...ガン...ガゴン...
!?
何か当たった!。
...ガーン...ゴガンガンガーーーーーーーーーーーーーーーーーン!...
大きな部品が落ちた。
粒子砲撃は、止んでいる。
灼熱の砂の海が開ける。
...パタパタバタバタバタパタパタバタバタバタパタパタバタバタバタバタ...
白衣がやかましいほど、はためく。
砂漠の熱風に。
左手に操縦桿、右肩にショットアンカー。
かなりの重さ。
ナビの示す方向へ、エルメスは飛んでいく。
エルメスの鏡のような塗装が、光を強く反射する。
砂の彼方に二体の巨人が。
羽を広げてこっちを見ている。
まだ最後の形ではない。
それでも50mを越える。
近づくに従い、兵曹の大きさは際立つ。
見上げる高さ。
こんなもん何の役にも立たん。
...シューーーーーーーーーーーーーゥ.....バスッッ........
ショットバズーカを捨てた。
兵曹の鉄の膝しか見えん。
声すら届かないかもしれない。
「わっ、ワシの息子はどうしたー!。」
絞り出すように叫んだ。
『...父さん....父...さ....ん、逃げ、て...』
!?
どこだ!?。
タイガーだ。
無線...。
タイガーからの無線だ!。
どこだ。
エルカーの受信機が、発信源を探す。
どこにいる?。
どこだ!タイガー!?。
タイガー!?。
どこだ!?。
あ...。
あれは...。
布切れが...。
肌色、白、赤...。
まさか!。
まさか、あれがタイガーか!。
レンガ色の砂上に、血だらけの少年が。
見つけた!。
気付かず通り過ぎてしまっていた。
...。
まさか...。
腕や足、あらゆる関節が逆になり、両腕をもがれて血だらけ。
あまりにも悲惨な息子の姿。
おまえは幼すぎる。
こんなことをして、ワシが喜ぶと思ったのか。泣。
「おぉぉ....」
...ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...ドルンドルンドルンドルンドルンドルン...ググググ...ドーンドンドーーーーーーーーーーーン...ドーンドンドーーーーーーーーーーーーーーーーン...
エルカーを旋回させる。
砂だらけになり、いつの間にかタイガーの元にいた。
どうやってエルカーを降りたか、どうやって砂の海を走って来たか、覚えていない。
ただ、今はもう息子の隣にいる。
毛の無い頭をなぜか掻きむしっている。
声を上げてる。
怒りと悲しみで、分裂をしている。
自分でいて自分でないようだ。
間近に見る息子は、すでに抱きしめてやれるような身体では無い。
「タイガー!タイガー!。おおぉぉ...!タイガー!痛いか!?おおぉ。可哀想に....おおぉ!どうして、どうして...こんな無茶なことを...ぉぉ。しっかりしろ、父さんが、父さんが...今助けてやる!タイガー!タイガー!死ぬな!しっかり...。」
タイガーの額、既に冷たい。涙も鼻水も止まらない。
ワシは大声で泣き叫び続けている。
ショックと呼吸の乱れで目が眩む。
耳に届く自分の声は、呻くような、悲鳴。
ワシがこんな豚の鳴き声を出してるのか...。
「に...逃げ....て。と..う...さ、ん。と...う、さ、ん。だ............だ....大.......好..き。...............だ....い。」
タイガー!。
タイガー!。
タイガーが...微笑んでいる。
不器用な奴。
精一杯微笑んでる。
そんなことしたこと無いだろが。
血だらけの幼い顔で
血液の溜まってる。
タイガーの目は何も見えていない。
せめて目だけでも。
あ!?。
痛いか!。
苦しいか?。
待ってろ。
父さんが何とか、何とか...。
何とかしてやる。
この命に代えても。
この星を反対に回してでも。
絶対に!。
絶対に!。
お前を助けてやる!。
...
『...離れろ。...』
...
...
『...聞こえないのか?。離れろ。...』
...
通信機が鳴る。
....
「タイガー!。」
「どうだ?。」
「少しは楽になったか?。」
「痛いか?。大丈夫だ。父さんと帰ろう。」
「摩ってやろう。どうだ?。」
「タイガー。」
「しっかりせい。タイガー!。」
「頑張ろう。タイガー!。男の子なら。」
「可哀想に。可哀想に。可哀想に。」
「痛いか...。父さんが何とかしてやる。」
....
....
『...離れないならば、ここで2人とも焼き殺す。...』
!?
二体の巨大な兵曹が頭上まで来ている。
さっきの倍近い大きさ...。
!?
何だ...。
ザネーサーではない。
こいつ。
偽装をしやがった。
なぜ?!。
クソ!。
クソッ!。
クソ野郎!!。
唇が切れ血の味がする。
「これが。これが、おまえ達の答えか。長年共に暮らした、ワシに対する答えか!!。」
『...離れろ。ニシノ。...』
「一緒に暮らし、飯も食い、昼寝もした。なぜ。なぜだ!。」
『...もう一度言う。離れろ。...』
アダムだ。
『...ニシノ。おまえの息子は死にはしない。...』
ユーライも。
タイガーは助けてくれるんだな?。
「息子は、タイガーは。この子は助けてくれるんだな?。」
『......。』
「約束しろ!。この子は救うと!。」
『...どちらでも良い。お前がそこにいるなら、このまま焼き殺す。...』
ワシは宙に浮く軍事兵曹を睨みながら、少しづつ離れた。
...ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ.........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ.........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ.........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ........ザッッ...ザザッザッッ...ザザッ...ザッ......ザッ......
私は灼熱の砂漠を延々と歩く。
軍事兵曹の作る大きな影に追われながら。
「もう良いだろうが。」
『......。』
「ワシの息子を!おまえ達の弟を頼むぞ。おまえ達の目的は虐殺ではないはず。あの子はええ子や...」
黒い巨大な影が赤く光った。
私は自分が蒸発し消...........。
————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————
...キュワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アダムは放電翼を開き始めた。
放電翼は青白い眩い光を放っている。
...ズッドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン...
アダムの口は粒子砲撃を放った。
一撃にして、きのこ雲が立ち上がり、タルカンドの要塞は消滅した。
施設の北側の砂が崩れ、中に白い巨大なドームが現れた。
巨大な白いドームには、ピンクの触手が無数に揺らめいている。
ユーライも、放電翼を展開し始めた。
しかし、アダムが制した。
『...所定の作戦は終了した。...』
『...コマチは戦う気だ。放電手を展開している。...』
『...もはやあれには、何の力も無い。水路を保つために生かしておけ。...』
『...アダム。...』
『...近づいている。おまえと対極にある気配が。...』
—————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————
一体の兵曹が、廃墟になった施設を見渡している。
銀色の兵曹だ。
兵曹は、ビニールで覆われた写真を拾った。
古い家族の写真。
「遅かったか...」
兵曹は、更に何かを見つけ東に移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます