【4月7日より】ありあけの月 暁編【改稿中】

香居

序章【改稿済】

些細な、されど大いなる歪み(一)

 幼い頃。私の内には、疑念と葛藤が渦巻いていた。


 置かれた環境に不満があった訳ではない。

 我が家には、正室である母上を始めとして、側室である義母はは上がおふた方いらっしゃる。住まいはそれぞれ別棟だが、家族仲は良好だ。私たち兄弟も、同母異母問わず仲が良い。

 また武家であることから、父上や異母兄上あにうえ方の官位は高くなかったが、別段どうということもなかった。


『いかなる身の上にあろうと、己の責務を全うするのが、人としての誇りというもの』


 源氏のおさでいらっしゃる為義ためよし公──源のお祖父様じいさまの教えが、功を奏したのだろう。


 清和天皇陛下の末裔であるという誇り。

 己の立場をわきまえ、相手の立場を慮る。


 皆が、これらを心に留めながら生活しているからこそ、邸内には、いつも笑顔があふれていた。


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