未来へ
――7年後。
「どお? 準備は――……うわ、さっすがお姉ちゃん」
ちょっと失礼します、と席を外したスタッフと入れ違いに、空色のカクテルドレスを身に纏った妹が控室のドアを開けた。
淡いピンク色のふわふわドレスに包まれた2歳女児を腕に抱いて、満面の笑みで鏡の前に歩み寄ってくる。
「ほーら、みーちゃんのママ綺麗だねえ」
間近で下ろされた娘が、とてとてと歩み寄って来て純白の裾にしがみついた。
「まーま、おーめしゃん?」
「そう、お嫁さん」
三年前に入籍を済ませた春馬との間に生まれた愛娘だ。
もはやどっち似?と聞かれる必要もないほど、愛しい旦那の特徴を色濃く受け継いでいる。
濃茶の柔らかい髪と瞳、くるくる変わる表情も愛くるしく、本当に大切でかけがえのない存在。
ウェディングドレスの膝に抱き上げて、可愛く結い上げられたふわふわの髪にそっとキスをした。
「本当に、
「えぇ? 何いきなり。お義兄さんに、でしょ。こんな結婚式まで用意してくれて」
別に必要ないと思っていたのだが、「やっぱり花織のウェディングドレス姿見たい」と忙しい教員生活の合間を縫ってこっそり準備を進めてくれていたらしい。
遅くなったことを謝られたが、とんでもない。
一生着ることはないだろうけどまあいっか……と思っていた純白のドレスを纏ったとたん、やはり込み上げてくるものがあった。
それについてももちろん感謝はしているが――
「彩香がいなかったらこうはなってなかった、って……本気で思ってるから」
膝に抱いた娘の髪の毛を撫でながら、目の前に立つ妹を見上げた。
これでもかと言うほど背中を押してもらって、本当に言葉では言い尽くせないほど感謝している。もちろん家族にも、だが。
「そーんなことないでしょ。周りが何したって結局は当人同士の意志なんだから。パパとママが仲良しだから、みーちゃんもいるんだもんねー?」
「にぇー」
同じ目の高さにまで腰を落として微笑む妹に呼応して、娘も可愛く首を傾げた。
まったく理解していないだろうが、大好きな「あーちゃん」に笑いかけてもらってとにかく嬉しいのだ。
「彼氏くんは?」
「お義兄さんと話してる」
あれから一年と少し経った辺りから、妹の隣にも一人の男が並んで立つようになっていた。(並んで、というよりは常に背後から囲い込まれているように見えるが……)
いろいろあったらしいが、見ているだけで何故かホッと癒されるような二人だ。
「あんたたちもそろそろなんじゃないの?」
「えー? とんでもない」
あっちは卒業だってまだなのに……と苦笑しながら妹が立ち上がる。
最近では同棲話だか結婚話だかが出ているらしいが、なぜか妹の方がこうしてゴネて(?)濁しているらしい。我が妹ながら、相変わらず本当にワケがわからない。
まあ、まったくわからないわけではないが……。
「生活の心配とかそりゃあるだろうけど、何かちゃんと考えがあってのことじゃない? 何の用意もプランも無いまま、いきなりそんなこと言い出すような人じゃないでしょ? それだけあんたと離れたくないってことなんでしょうよ。グズグズしてたら一生後悔することになるわよ?」
いつかのお返しとばかりに背中を押してみる。
というか、捕まえとかないと「一生後悔」どころか来世あたりまでガンガンひきずりそうな相手だろうソレ、と思うのだが。
「それとも、あんなハイスペックな彼氏くんに何か不満でも?」
「そ、そんなんじゃなくて……。ただ、うっかり人生の道を間違えて、後悔してほしくないっていうか……」
ゴニョゴニョと言い淀む姿を見て「やっぱりか」とついため息がもれてしまう。
思った通り、結局は未だに根強く残る自信の無さがそうさせているのだ。
でもまあ理由がそれだけなら心配いらないか……とすぐに安堵の笑みが浮かんでくる。
それなら、それほど待たずにちゃんと落ちるべきところに落ちるだろう、この変なところで頑固な妹も。
まだ学生の身でありながら極力一緒にいることを望むほどあの「彼」の方が、妹の不安や恐れ、自信の無さといったものも引っくるめて何もかも、とっくに受け止めてしまっているのだから。
そもそもどんなにゴネられようが逃げられようが、もう「彼」の方に妹を手放す気は無さそうだし。
「試しに結婚してみたら?」
「た……試しにするモンじゃないでしょ……」
「普通はね。でもあんたたちの場合、悪くないかもよ?」
二人がかりで開かれた厚い扉の向こう――光り輝く厳かな空間で。
ステンドグラスを背に、シルバーグレーのタキシードに包まれて柔らかな笑みを宿した愛しいひとが待っている。
両脇には、たくさん心配かけて、多くのありがとうを伝えてきた大事な人たち。大切な
今日、自分はその大切な人たち皆の前であらためて誓う。
いつだって
いつまでも
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